第3話 梅田駅海岸
PZになった時はするっとだった。
夜明け前、梅田の地下遺跡に入ろうとしたら、入口にある雨避けの死角から出てきたおばあちゃんに肩を掴まれたんだ。道を尋ねようと思ったらしいんだな。
「すいません。幕張メッセに行くにはどうしたらいいんでしょう」
「幕張はね、こっちの道をずーっとまっすぐ行ったらいいよ」
「ありがとう。東京は初めてなのよお」
「ここは大阪だよおばあちゃん」
ああ、やられたっみたいな感じで、トラウマになるような事件じゃなかった。おばあちゃんが手を振って東海道の果てしない旅に出たあたりで意識が飛んだね。
ああ今まで苦労したのはなんだったんだって徒労や後悔があって、だけど心はどんどん晴れやかになってく。腹も減らない、喉も渇かない、どこも痛くない。あああるべき僕だ。帰ってきたんだって。夏休みの初日、ツッカケ履いて海水浴に行った。
多分ずっと海岸を歩いてたんだ。海水浴場に行くつもりで。いつまで経っても辿りつかないことに疑問もなかった。カゲロウの立つアスファルトを歩いていると、坊主でダイビングスーツを着たおじさんに道を聞かれた。よっぽど道を聞きやすい顔してるんだろうな。
「すみません。ウメダstationはどちらですか」
「梅田駅?わかんない」
海水浴場周辺で梅田駅の場所聞く変なおじさんだよ。喋り方から外国人なんだろう。
「ありがとう。candyあげる」
「えっあっはい」
知りたいことがわからなかったのに飴をくれるなんて。やっぱり変なおじさんだ。
知らない人から物もらって食べちゃ危ない。そんな常識もどこかにいってたんだな。
飴をしゃぶると、甘さはなかった。
飴というより、粘土のような、油臭くて不愉快な味で、気持ちが悪くなった。空腹で、喉が渇いて、身体中痛くて痒くて、砂と排泄物の混じった汚い物に下半身が苛まれる。当たり前だ。僕は九頭類浄水場の格子の中に隠れているのだから。
死を思い出す時間が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます