集う最高峰

「おい!急にどうしたんだ。そっちはアイツのいる方向だぞ!んなに近づいてたら間違いなく気づかれる!」


「もう気づかれてる。目が合った」


「目が合った?仮に探知サーチを使っていたとしても私達のいた場所までは届かない。気のせいだろう」


「アイツは絶対に俺を見てた」


目的の場所へと着く。

勿論、先程まで和装の男が居たところだ。

そこにやってきたから何かが出来るという訳ではなかったが、現場を見ずには居られなかった。


響は男の監視の際に使

監視する場所を選ぶ時、蒼華が探知魔術に引っかからない距離から見張ろうと言った事で響は「そういう魔術もあるんだな」と認識した。

それにより自分で術式を作り出し、わずか数分で自己流の探知サーチの開発を成功させたのだ。


何十年とかけて探知を作り上げた先達の魔術師からしたら自分の努力とはなんだったのかと落涙を禁じ得ないだろう。


「わずかだけど魔力の残滓が残ってる」


「なら刻印魔術による高速移動の線は消えたな。刻印魔術は体外に魔力を放出しないから残滓は残らない」


「じゃあ、どうやって消えたんだよ」


「さあ?さっぱり?」


一つ蒼華には心当たりがあったが、話を聞いただけで探知魔術を開発してしまう様な奴に新しい魔術について教えるのは悪手だと考え、しらばっくれる事にした。


「完全に手がかりが消えたんだが?」


「仕方ない。顔が分かっただけ良しとするか」


もう諦めたのか蒼華は帰路へ着き始めた。

やけに諦めが早い事を不思議に思いながら響も追従する。


ここ1週間毎日、蒼華は帰りに孤児院へ寄り夕飯を食らって帰る。

毎日毎日タダ飯を食らい、夕に喧嘩腰で話を振る。


響の中で初対面の時より蒼華への好感度は上がっているのだが、いかんせん夕飯時の行動で敵対意識を拭えない。


「さーて!今日の夜ご飯は何かなぁ!」


蒼華はわざとらしく言って肩を組んだ。

突然の行動に鬱陶しく感じたが耳打ちで言った次の言葉を聞き響は生唾を飲んだ。


「そのまま振り返らず歩け。つけられてる。人目の少ない路地に入ったら撒く」


つけられてるというのは先程まで監視していた男の事だろう。

何故言われるまで気づかなかったのか、今となっては凄まじい力の波動を背で感じる。


響はカフェを出た時から探知魔術を発動し続けていたが、それに引っかからなかった。

相手が手練れである証拠だ。響の探知がまだ未熟であったというのも原因の一つかもしれない。

どちらにせよ、つけられているのならば相手側に何かしらの目的があるという事だ。

その目的が自分達の殺害だった場合、2人がかりで戦ってもよくて相打ちだと気付いていた。

だからこそ撒く為に神経を注いでいる。


一歩一歩が長く感じる。

人目の少ない廃墟街へと繋がる路地に近づく。

後一歩、後一歩踏み出したら走り出す。

頭の中で何度もシュミレーションした。

大丈夫。逃げられる。


ダンッ!


路地の角に差し掛かったその瞬間、蒼華と響は一斉に駆け出した。

人がいる可能性のある場所で急停止出来る最高速。

駆け出すその瞬間だけ切り取ってみれば車と同レベルのスピードが出ていただろう。


時速150km。

それが2人の使った刻印魔術による身体強化のトップスピードだった。

10代という事を鑑みれば魔術師界全体でも上澄みだろう。


しかし、相手はその上を行く怪物であった。


「淀みのない身体強化。魔力の消し方。優秀だな」


最高速で駆け出した響の頭上。

既に男は蹴りのモーションに入っており響が気付いた時には足が顔にめり込んでいた。


ドンッ!と鈍い音が2度響く。

1度目は蹴りが響に入った時、2度目は響が地面に激突した時である。


進行方向に響が蹴り飛ばされ、蒼華は足を止めざるをえなかった。

ワンアクションで2人の動きを完全に止めた。

間違いなく戦い慣れしている。

付け入る隙がない。


蒼華以上の魔術の腕。

響以上の戦闘経験。

まず間違いなく勝利はあり得ない。


「くそったれ!」


男の姿がブレる。

蒼華と響の強化された目にも、その姿は映らない。


完全に勘で受けるしかない!


が、


そう思った時には遅かった。

既に拳が眼前へと迫っていた。

先程以上の力が込められた拳を受け切るなんて響には不可能だった。


命の危機。

しかし、響にはある確信があった。



拳が顔に触れる寸前、何かが響と男の間に割り込み受け止めた。


「子供と犬は殴っちゃいけないって教わらなかった?」


「君、誰?」


現れたのは響にとって最も見慣れた人物。魔術を使えない筈の存在。


「通りすがりの美女だよ」


そこには拳を受け止める夕の姿があった。

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