化物達

「何で夕が魔術を使える様になってるんだよ?」


「使える様になるも何も一回見れば使えるくない?」


孤児院の食卓で響と夕は話していた。

蒼華は先の戦闘が信じられないのか未だに呆然としている。


「言われてみれば確かに使えるかも……」


夕の発言に響も同意する。

それを聞いて流石の蒼華も黙ってはいられなかった。


「一回見れば使える!?何を言ってんの?魔力を知覚して術式を理解して、そこに魔力を流す!どの工程をとっても一筋縄じゃ行かないでしょ!それを何をどうしたら見ただけで使える様になるの!?」


「そんな事言われても……、なあ?」


「使えるもんは使えるし………」


蒼華の言う事が理解できないといった様子の夕と響。


「おいおい、君たち天才やないですか」


天才と呼ばれる蒼華が天才と呼ぶ存在など片手で収まるレベルだろう。

響をら捕まえにきたはずの蒼華が化物達の成長材料の餌に変わってしまった。

圧倒的才能と凄まじい学習能力、そしてそれに対応する身体。

響が探知魔術を作り出した時には飛んだ掘り出し物だと喜んでいたが先の戦闘で数段成長した2人を見て喜んでいる暇もなくなった。


響はともかく夕はを使える様になっているかもしれない。

魔術、自分への理解度が一定を超えると生まれるオリジナルの魔術。

それによって生まれた魔術は固有魔術と総称され、他の魔術とは様々な意味で一線を画す。


(これじゃ捕まえるなんて考えてた私が馬鹿みたいだ。もし本当に捕まえたかったなら寝込みでも襲って攫うべきだった)


「攫うべきだったとか物騒なこと考えないでよぉ〜」


は?私、口に出してた?

夕の言動に蒼華が混乱する。


「口に出してないよ。ただの読心術だよ」


そう言ってハハハと笑う夕。

その姿を見て蒼華は思った。

魔術を扱える様になったが故に余計タチが悪くなったと。


ただでさえ、おかしな言動で場をかき乱すのに魔術を使える様になった事で夕さんの言葉が嘘か真実なのか分からなくなった。

色々制約はあるだろうけど、名前を知るだけで相手を一瞬のうちに消し去る光を放つ魔術なんてものを作ってしまう様な人だ。

心を読む魔術を作っていても何らおかしくない。


「心配しなさんなって!プライバシーは守るから!」


考え込む私を見て夕さんは自分の行動をフォローした。

これまた、読心術で表情などから感情を読むのか魔術によって考えている事を知ったのか、どちらなのか分からない言葉だ。

真実を散りばめながら、言葉を煙にまく。

夕さんの会話術の基本である。

夕さんとの会話で真実だけを拾い上げる事のできる人などいないだろう。


「心を読む魔術なんて使いっぱなしにするな!プライバシー問題だぞ」


「知る権利だよぉ」


響が食後のコーヒーをとキッチンからリビングへ戻ってきた。

蒼華の事を揶揄う夕を見てチョップをかまして注意する。

仲良い者同士、話していて微笑ましいが注目すべき点はそこではない。


夕さんが心を読む魔術を使っていた?

響はそう断言した。

何故そう判断できた?勝手な決めつけによる発言なのか、それとも────────


考えるのはやめだ!

こうやって考えて、もし夕さんが本当に心を読めるなら全部無駄な事だ。


蒼華はコーヒーを啜りながら視線を夕の方へと少しだけズラした。

すると夕と目が合う。まるで自分が見るタイミングを知っていたかの様だ。


今私が響と戦ったら勝率6割くらいだろうけど、夕さんは無理だな。


夕の敵対しちゃいけない人リストに夕が入った瞬間だった。


「いい判断だね」


蒼華を見て夕が小さく呟いた。

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