急転
「あれ?寝てたのか?」
響と蒼華は全く同じタイミングで目を覚ました。
彼らが覚えていた最後の記憶は夕食をみんなで囲んでいるところまでである。
気づけば響、蒼華ともにリビングで寝転んでいた。
「酒は飲んでないし酔い潰れた訳じゃないのに、どうして………?」
響は何があったのか思い出そうと必死に頭を回す。
すると気づく。
手の先が濡れていることに。
ドロっとした生ぬるい液体。
つい一年前まで何度も触れていたものだ。
ドス黒い液体に鉄錆の匂い。
それが何か考えるまでもなく理解する。
血だ。
ふと視線をずらすと床は大量の血によって真っ赤に染め上がっていた。
「誰の、誰の血だ……」
響はそんな訳ないと頭に浮かびあがってきた考えを振り払う。
身を起こし一歩一歩、地を踏みして歩く。
余談だが孤児院の建物は数センチ傾いており、何かと物が転がっていく。
特に液体に関しては、よく流れていく。
血は響の足元に溜まっていた。
ならば、その逆側へと進めば、どこから血が流れていきているのか分かるはずだ。
進んだその先には、たらたらと血の流れ出てくる部屋があった。
扉の先にあるのだろう。それが。
響はゆっくりと扉を押す。
その扉は心なしか、いつもより重く感じられた。
「ハハ、まじか……」
つい、乾いた笑みが出てしまった。
なんというか、端的に言うと山があった。
死体の山が。
見慣れた子供達の死体は乱雑に積み重ねられており、死体の数はきっかり40。
子供達は全員死んでると考えていいだろう。
だがしかし───────
「夕さんの死体がないな」
いつの間にか隣に立っていた蒼華が言った。
夕の死体がない。その通りだ。
子供達が誰かに殺されたと仮定するならば夕は応戦したと考えていいだろう。
となると、場所を変えたのか?
「夕さんの場所は分かる?」
「ああ、夕の魔力は覚えてる」
###
夕の魔力を感じたその場所。
そこは如何にもといった雰囲気の旧家の屋敷だった。
「こんだけデカい屋敷で人の気配が殆どない。やばい匂いしかしないな」
蒼華と響は刻印魔術を用いて屋敷に侵入する。
中庭、1階、2階、3階、4階、その全てに人の姿はなかった。
残す最上階へと続く階段を登り切ると男がいた。
つい数時間前に夕が殺したはずの男。
伊勢姫彦だ。
響が一歩前に出て聞く。
「夕は何処だ?」
「夕?」
「今日の昼過ぎにお前と戦った女だ」
「ああ、彼女か」
姫彦は一息吸って言い放った。
「私が殺した」
それを聞いた瞬間、響は駆け出していた。
頭に血が上ったとか激情に支配されたとか、そんなものではない。
ただただ目の前の男は殺さなければならないという使命感に狩られたからである。
「ガキの思考は読みやすい」
瞬間、響の足元に大きな扉が現れる。
「なっ!」
姫彦は響の歩幅に合わせて扉を生成した。
その為、響は成すすべなく扉の中へと落とされてしまう。
「クソッッ!」
扉は響が落ちるとすぐ様消えてなくなる。
「さて取引だ」
姫彦は蒼華へと向き直り、取引を持ち掛ける。
「あの少年の命が惜しければ引け。今なら2人とも無事に帰してやる」
姫彦は響を人質に戦闘を回避しようとしている様だ。
そこに蒼華は違和感を覚える。
あれ程、実力のある魔術師が戦いたくない?
そんなの有り得ないだろう。
昼に相対したコイツであれば、自分なら勝てるという自信があった筈だ。
しかし、今のこいつにはそれが感じられない。
「あれ?お前、前より魔力量が減ってないか?」
顎に手をあてて蒼華が言う。
「もしかして私たちが来る前に夕さんと戦った?それで魔力を消費してるから戦いたくなくて取引なんて持ちかけてきたのか?」
「チッ!」
「あはは!攻めどきだな!」
蒼華は戦闘開始の合図だと言わんばかりに魔力を解放した。
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