契約


夕食を終え、帰路へと着いた蒼華の元に響が現れた。

薄暗い街灯の下、黒いスウェットに身を包み響は殺し屋の様だった。


「お前何なんだ」


「言っただろ。お前を捕まえに来た魔術師だって」


「そういう話じゃねえよ」


「じゃあ、どうゆう話?」


話が見えてこないといった様子の蒼華。

響は頭をガシガシと掻く。

人を殺した響が魔術師達の間で指名手配されてるというのも分かる。

蒼華が自身を捕まえにきたというのも分かる。


けれども、聞きたいのはそういうことじゃない。


端的に言うと、


「魔術師っていうのは皆んなお前みたいな化物なのか?」


自分以外の魔術師。

それが魔術師達の中でも上澄みの蒼華だったことで響の中で魔術師という存在が、この上なく強く恐ろしい者に思えたのだ。


「いいや、私が最強だから他は皆んな雑魚だよ」


「出鱈目言ってくれてありがとう」


「出鱈目?」


蒼華が聞き返す。


「だってお前、俺より弱いじゃん」


その言葉を皮切りに周囲に殺意が渦巻く。

蒼華の身体からは青白い魔力が立ち上り、腕には身体強化の術式が蒼く浮かび上がっている。 

圧倒的な力の波動が響の肌をビリビリと刺激する。


実の所、響は自身より蒼華の方が強いと分かっている。

その上で煽ったのだ。

どうゆう人間か知る為にである。

これから付き纏われるであろう相手の性格、力量を知る為に煽った。

それが結果的に自身の首を絞める行動だった。

目の前の彼女は思ってたよりも子供で、思っていたよりも強かった。


「ッ!失敗したかもな」


「失敗?大丈夫。私は冷静だ。折角見つけたモルモットを壊すつもりはないよ」


「んな、戦闘態勢で言われても説得力ねえよ!」


ご尤もだと言わんばかりに蒼華は笑う。

ひとしきり笑ったら、今度はこちらをじっと見つめて人差し指を立てた。


「一つ。お前が私の手から逃げる方法がある」


「親切だな」


「お前と同じ立場の魔術師がいる。そいつを捕まえて私に譲ればお前の事は見逃してやる」


「同じ立場っていうと、そいつも指名手配犯なのか?」


「その通り。去年探し回ったんだが中々見つからなくてね。仕方ないからお前を捕まえにきた訳よ」


「分かった。俺がそいつを捕まえてお前にやる。そしたら、2度と俺に関わってくるな」


「上から目線なのが気に入らないけど、まあいいだろう!契約成立だ」


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