魔術に伴う代償

蒼華と姫彦の元に響が訪れた時より、約10分程遡る。

姫彦によって響が扉の中へと落とされた直後。


落とされた扉の先は何処か別の場所へと繋がっていた。

音の反響具合、気温から考えて屋敷の地下室ってのが妥当だろう。


響は何度も地下室の扉を蹴りつける。

しかし扉はびくともしない。


「まさかこの部屋、中から開かない様になってるのか?」


はっきり言って部屋を出る目処が立たない。

それに部屋を出た所で姫彦を殺せる気がしなかった。確実に殺し切るには力が足りない。

蒼華と協力すれば何とかイケるかもしれないが、それでも勝率は5割が良いとこだろう。


「だからって戦わない理由にはなんないだよ!」


響は性懲りなく扉を蹴り続ける。

しかし開かない。


内心、響は焦っていた。

自分が行かなければ蒼華も死んでしまうと。

これに関しては完全に杞憂なのだが、蒼華の本当の実力を知らない響は心配でならないだろう。


「少年、力が欲しいか?」


そんなベタな台詞が聞こえてきた。

何処か聞き覚えのある声色の女の声だった。


響が振り向くと、そこには一本の日本刀が地面に突き刺さっていた。

優美でいて豪壮。

それは夜空を流れる天の川の様な湾れ刃の刃文で目を惹きつけられた。


「力、欲しい?」


刀が語りかけてきている。

普通に考えたら、そんな思考にはならないだろう。

しかし、魔術なんてものがある世界で刀が人に話しかけてきても何らおかしくはない。


「ここから出るだけの力を俺にくれるのか?」


「少し違うね。君の中の力を引き出して、ある魔術を使える様にする」


「無理やり成長させるって事か?」


「ピンポーン!けど、この魔術を使ったら君の中の大事なものを失う事になる。いくら君の魔力が絶大でもね」


少し前、蒼華に聞いた。

魔力切れ起こすと身体に何らかの問題が起きると。

恐らくその事を言っているのだろう。

忠告のつもりなのだろうか随分優しい奴だ。


けど、気にする事はない。


「俺の大事なものは俺の中にしかないものじゃない。構わないよ」


「ならいいよ。力をやろう!」


「お前がくれるんじゃなくて、俺の力を引き出すんだろ」


「雰囲気だよ。雰囲気。格好がつかないから口を挟まないでくれるかな?」


気の抜けた会話と共に響の魔力が急激に増加する。

その魔力は屋敷を覆うほどまで大きくなり、次第に収まっていく。

増加した魔力は濃縮され響によって完全に抑え込まれた。


「いいね。最高のコンディションだ」

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