襲撃

ひぃふぅみぃよぉ…」


札束を机の上に並べて、集まった金の数を数える蒼華。


「うん!充分貯まったんじゃない?」


「何人分?」


「軽く10人分はあるね」


「俺と蒼華と樹。俺と樹は倍取られるとして5人分は残ってんのか」


「じゃあ、残りは私の物って事で!」


待て待てと響と樹は蒼華の肩を掴んだ。

既に札束を抱き抱えている蒼華は札束が落ちない様に慎重に振り返る。


「何かね?君達」


「そこは3人で山分けだろ」


「蒼華…、金遣い荒い……」


まるで何もおかしな事はないとばかりに言う蒼華に対して山分けする事を提案する2人。

が、万年金欠の蒼華はそんな提案を受ける訳にはいかない。

彼女にとって金とは湯水と同じであり、生きていく上で常に溶かし続けるものなのだ。

まあ少し、溶かし過ぎな気もするが……。


「あのねぇ、私は君達と違って金の使い所が多いんだよ」


「魔術書以外に金使ってんの見たことねえよ」


「車買ったよ!車!」


「ああ、円香に撃たれて傷ついてるやつね」


「え!?傷ついてんの?え?」


まさか買ったばかりの新車に傷がついてるとは思っておらず、蒼華は怒りに身を震わせる。


「クソぉぉ!許さんぞ!九七十くなと円香まどか!」


「強盗しに行くのに…新車で行く蒼華が悪い……」


お金の取り分には口を出しつつも、もう興味を失ったのかソファで本を読んでいる樹が小さく呟いた。

そうやって寛ぐ樹を見て響は良い案を思いついた。


「この金を盗んだ時に1番貢献した樹に全額あげよう!」


「何言ってんの?私の取り分は?お前の分もなくなるけどいいの?」


「別にいいけど?」


あろうことか響は余った金を全て樹に渡そうと提案してきた。9歳の子供に5000万円を超える大金をあげようと言っているのだ。頭がおかしいとしか思えない。


何故こんな暴挙に出たのか。


端的に言うと響は樹に甘いのだ。

元々子供好きで長男気質であった響は孤児院での出来事をきっかけに、より顕著になった。

この半年間、響は樹の身の回りの世話をしている。箱入り娘だった樹も、それが当たり前かの様に振る舞い拒みはしなかった。


余談だが、蒼華と樹のヘアアレンジ、コーディネートは全て響が行なっている。ファッションセンスが絶望的な蒼華と服に無頓着な樹。

3人で出かけた際に蒼華と樹の姿を見て、響の「これからコーディネートは俺がやる」宣言が受諾され今に至る。


「実際問題、樹が1番頑張ってたし小遣いとしてあげていいと思うけど」


「私への小遣いは?」


「お前、毎回警備員に喧嘩売って邪魔してたの忘れたか?毎回円香が来んのもお前がいち早く警備員を殴るからだぞ」


「あっ、えっ、すみません」


響の正論パンチに流石の蒼華も謝るしかなかった。実際、彼女は毎回警備員を殴って通報の時間を速めていたし、無駄に派手な魔術を使って金庫の中身を全焼させた事もあった。

確かに苦い記憶として存在するせいで言い訳する気も起きなかった。


やけに潔い蒼華を見て可哀想だと考えた響が取り分を樹:蒼華で3:2分けた事で金の問題は解決したのだった。





###






「玉ねぎと豚肉は買ったから大丈夫か」


晩御飯の買い出しの帰り、雪の降る道を歩く響は怪しげな気配を感じていた。

尾けられてる訳ではない。どちらかというと待ち伏せされている。

信号の先にある電柱の裏、確かに魔力を感じた。

敵意はないものの悪意ある黒い魔力だ。


信号の光が赤色から緑色へと変わる。

横断歩道を渡りきり、買い物袋を道端に置く。

戦闘が起きると確信しているからだ。


響は悠然と構え、電柱へと近づいていく。

3mほどまで近づいた所で電柱裏にあった魔力が揺らいだ。


すると、炎を纏った槍が眼前へと迫る。

響は上半身を逸らして高速の突きを躱わす。


攻撃をしてきたということは敵対の意思ありという事だ。


地面に手をつき、倒立の状態から足を振りかぶって、襲ってきた魔術師を蹴り飛ばす。

魔術師は痛みからか槍を手から離してしまった。


「んな乱暴な奴、知り合いにゃ居ない筈だが」


響は地面に転がる槍を踏み砕き、戦闘の構えをとった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る