出会いと出逢い
響と蒼華は草木と同化した屋敷の中を見て回っていた。
そこであるものに出会った。
来た時にはいなかった筈の人間がそこにはいた。
「白いな。アルビノか?」
8〜9歳位だろうか。
藤の花をあしらった白い着物に白色の髪。
透き通るほど綺麗な白髪は額の真ん中で分けられ、肌の白さを強調させる。
真っ黒な瞳と薄い桃色の唇だけが彼女を彩っていた。
「響。帰ろう」
蒼華が言った。
別に蒼華にとって目の前の子供は気にかけるに値しなかったからだ。
蒼華の考えは至極単純。
生きたいなら生きろ。復讐したいならば襲いかかってくればいい。憎しみを糧に生きて将来狙われる可能性があるのも全て理解しているつもりだ。
親を殺されたのだから、それくらいの事をしてきても不思議ではない。そう考えていた。
しかひ、目の前の少女が放った言葉は想像とは異なっていた。
「ありがとう……、ありがとう」
姫彦を殺した響と蒼華への感謝だった。
少女はただひたすら感謝の言葉を言い続けた。
「ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう」
少女はどこからともなくナイフを取り出して自身の首に当てがう。
少女にとって思い残す事はただの一つもないのだ。少女が思うのは、こんな家に生まれてしまった事への嘆きと来世への僅かな期待。
少女が自殺しようとしているのを見ても蒼華は止めない。止める必要も義理もない。
だがしかし、響は違った。
気づいた時には少女のナイフを持つ手を握って止めていた。
「その……、ついて来る?」
蒼華は何言ってんだコイツといった目で響を見る。
死にたいと思ってる奴が死のうとしてるんだから、それを止める必要はないだろう!
蒼華はそう思っているからだ。
「私を…、私を助けたら後悔するよ」
少女がか細い声で言った。
「え?」
そんな返答が返ってくるとは思わず響は間抜けな声を出した。
そうして少し悩んだ後に一つ答えを出す。
「俺が君を助けるから、君は誰か助けてよ。そうすれば俺は何があろうと君を助けた事を後悔しないから」
少女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
そして少しすると虚だった瞳に光が宿る。
その目を見て響は少女の意を汲み取る。
「お前、名前は?」
「斎」
「俺は響。よろしく樹」
樹は響を見て思い出す。
数時間前に屋敷へと現れ、屋敷の人間を圧倒し姫彦と契約していた女の魔術師の事を。
『私はやる事があるから君を助けるとかそういう事は出来ないし、しないけど、後2時間もしたら君の王子様が現れるよ。こんな場所から連れ出してくれる白馬の王子様がね』
顔は良いものの王子とは程遠い響ではあるが樹にとって彼が救世主である事に間違いはなかっただろう。
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「で、お前どうするんだよ?」
「どうするって何が?」
蒼華の問いに響が聞き返す。
「そんなガキ拾って、これからどうすんだって話」
「ああ、なるほどね」
響は合点がいったとポンと手を叩く。
樹は響の裾を掴み、不安そうに響を見る。
「色々考えたんだけどさ。お前が俺を拾ってくんない?」
「は?」
「お前なんか言ってたんじゃん。飼い主だとか捕まえるだとか」
「言ったけど……」
「よかったな。今なら俺だけじゃなく樹までついてくるぞ!」
名案だとかばかりにニコニコと言う響を見て蒼華は思わずため息をついてしまう。
「はあ、仕方ない。予定とは違うけど良いとしよう」
やれやれといった様子で響の案を了承する。
「んじゃ、これからよろしくな」
「ああ、よろしく」
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ひとまず前日譚?プロローグ?終わりました。
これからも宜しくお願いします。
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