魔術師になった少年の英雄譚

双柳369

前日譚

独りの少年と一人の女。

10歳の時に親を失った。


学校から帰ると両親が死んでいたのだ。

いわゆる変死である。

母の頭と腕は前後が逆になり、曲がってはいけない方向に曲がっていた。

そんな母を庇うかの様に覆い被さっている死体は父だった。

父は母に比べ原型を留めている。

目立った外傷はなく不自然なくらい綺麗だった。


両親の遺体を見て、悲しくは思ったものの他に強く感じるものはなかった。


僕は状況を掴むとすぐ様、警察へと通報した。


本来なら、親を失った僕は然るべき手段で然るべき対応を受けるはずだった。

しかし、僕はその然るべき対応をされなかった。

どういう訳か


身寄りのない子供が1人で生きていく方法などなく、犯罪に手を染めるのは自然な事だった。


子供がする事なら精々盗みを行う程度、そう思っただろう。


俺がやっていたのはである。


分かりやすく言うと鉄砲玉。

かっこよく言うと殺し屋。


そんな事をして食い繋いできた。


けれども、そんな生き方が長く続く訳はなく、俺は今、死にかけていた。

自身の所属する組織に恐れられ、命を狙われることになった。


次々とやってくる刺客は不思議な力を扱い、一人一人が確実に俺の命を削ってきた。そんな強敵をどうにかして殺し、組織を襲撃したはいいものの、後一歩のところでボスの自爆に巻き込まれて致命傷を負った。


息をする度に傷が痛む。


雨風に晒され、死を覚悟した。


その時、声がした。


女の声だ。


「救急車呼ぶ?」


血だらけの子供を見て、その程度の反応をする目の前の女は俺とは違う、表の世界で生きる一般人だった。

その精神性は一般のものとはかけ離れている様だが。


女は手を顎に当てて、うーんと声を漏らしながら何かを考えている。


すると、何かいい考えでも浮かんできたのか顔をあげ、こちらを見る。


「私、これから孤児院を開くんだけど君も来る?」


見た目だけ見れば20代前半。容姿端麗な彼女が孤児院を開く?

随分とアクティブな女だ。


「それで?来るの?」


「俺を助けたら後悔するよ」


そう、絶対に後悔する。

これまでに何人も殺し、この先も殺していくかもしれない人間を助けたら絶対に後悔する。


女は「あーなるほどねそういうタイプか」と呟くと、軽く笑う。


「じゃあ、私は君を助けるから、君は誰かを助けてあげてよ」


「は?」


「私が君を助けたら後悔するんでしょ?なら後悔しない様にするしかないじゃん」


どういう理論なんだ。


というか、そんな事で後悔しない訳ないだろう。

俺が100人殺しても1人助ければ彼女はそれでいいと言っているのだ。


「そんな事言ったって後悔する時はするんだよ。こんな奴助けなきゃよかったてな」


そう言うと女は黙り込む。

そして、ほんの数秒経つと堪えきれなくなったかの様に笑いだす。


「いいや、後悔しないよ。私はだからね」


本当にどういう意味なんだろう。


分からない。


けれど、無性に信じたくなってしまう。


そんな力が彼女の言葉にはあった。


女が差し出した手を掴む。


「君、名前は?」


ひびき。お前は?」


緒方夕おがたゆう。よろしくね」





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https://kakuyomu.jp/works/16818093073365299539

↑別世界線の話。こっちの方が王道

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