本物の化物
「話にならない。そこを退け」
「退かしてみなよ」
夕は自信満々といった様子で男を挑発する。
夕が常日頃から挑発的な言動をする事は知っていたが、魔術師の男を前にして意気揚々と言うとは流石の響も思いはせず驚きよりも呆れがはやくやってきた。
対して蒼華は場にいる者達の実力を完全に見抜いているが為に不利な状況に陥っていた。
目の前の男は格上。
どういうわけか夕さんも魔術を使える様になってる。どの程度まで使えるのかは分からないけど、刻印魔術、身体強化に関しては完全に私の上をいっている。
それに夕さんの出現に伴って響の魔力量が上がった……。
まさか、この場で私が一番弱いんじゃ─────
「何ぼーっとしてんだ!」
響の声を聞いて思考の渦から抜け出す。
声のする方へと目を向けると響が男の蹴りを両の手で掴んで動きを封じていた。
先程までの実力差を考えれば有り得ない事だ。
「私を無視とはつれないなあ!」
響に動きを止められた男は夕の打撃をまともに喰らってしまう。
蒼華の目に映った打撃数だけでも19打。
実際は30打近く入れているだろう。
一瞬のうちに放たれた乱打が終わると同時にすかさず響が追撃に入る。
まるで先程の意趣返しだと言わんばかりに男の顔面に蹴りを決め遥か後方へと吹き飛ばす。
男は
「伊勢姫彦。君達の名前は?」
男は、伊勢姫彦は口端についた少量の血を手の甲で拭いとって聞く。
「だから、ただの通りすがりの────」
「響。お前を殺す奴の名前だ。覚えとけ」
頑なに名を明かそうとしない夕を無視して響は礼儀だと言わんばかりに名乗りをあげる。
夕は響よりも魔術の在り方を理解している為、簡単に名前を言った事に、マジが!こいつら!?と驚愕の表情で響と姫彦を見た。
「魔術とかいう、とんでもワンダーなものがあんだから、デスノートだってあったておかしくないよ!バカ!」
「名前だけで何かを起こせるほど魔術は便利じゃないよ」
姫彦は自身の自然治癒を速めて先の攻撃の傷を癒しながら言った。
そう言った姫彦を見て夕はニヤリと笑う。
夕の中で魔術とは未だ未知のものである。
その認識は正しい。
どんな事でも知った気になるのが一番良くない。
知った気になっている奴にこそ付け入る隙がある。
しかし、今回の場合は例外である。
姫彦は知った気になっているのではない。
知っているのだ。
名前を使う魔術など契約魔術程度、戦闘に用いる事のできる魔術は存在しない。
存在しない筈だった。
それこそ新たな魔術の術式を作り出す天才でも居ない限り───────
「伊勢姫彦。考えが甘いよ〜」
ビシッと指差し、またもや挑発する様にいう。
何のことかと不思議に思う姫彦の足元が急激に光り出す。
その光は見た事のない魔術式文字を使って描かれており解読は不可能だった。
(ヤバい!)
「と思った時には詰みだよ」
夕が指を鳴らす。
すると光は爆ぜ、数秒の後、男を包んで消えた。
無論、そこに男の姿はない。
夕の魔術を受けて消えてしまったのだろう。
「初運用のぶっつけ本番にしちゃ、悪くない威力だったね。流石私」
自分の魔術の威力の大きさに満足いった夕はうんうんと頷いて自画自賛する。
響は男が本当に死んだのか確かめに魔術の放たれた場所へと近寄る。
「うわ、まじか」
見たら、その場所は削れていた。
地面から雲。空から地下の縦一直線、半径1m範囲内の全ての物が消滅していた。
「なんつー、威力だよ」
こんなものをくらって生きている筈ないなと響は夕と蒼華への元へ戻る。
「さて、蒼華ちゃん。今日の夜ご飯何がいい?」
「自分が作るみたいな雰囲気出すな。俺が作るんだから」
先程までの魔術の応酬を見ていた蒼華は普段と同じ様に話し合う2人がとんでもない化け物に見えた。
魔術師達に化物と恐れられる蒼華が初めて本物の化物に触れた瞬間であった。
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