黒腕の試験官
「受験票とかないの?」
「確か試験官が魔力を見て本人かどうかを確認するらしいから、そういうのは配られてないな」
「へー、便利だな」
どうやら魔術学園の校舎は五つあり、寮ごとに使っている校舎が分かれているとのことだ。
五つの校舎はそれぞれ約25kmの橋で繋がっており、上空から見ると校舎と校舎を繋ぐ橋が星の形を描いているのだとか。
豆知識は置いておいて、話を戻すと今回の試験会場は五つある寮の内、ミカ寮で行われる。
今回の試験もミカ寮の学生が仕切っている。
学生が試験監督なんてやっても大丈夫なのか?と心配になったが、魔術学園は決められた年数で卒業するのではなく自身の好きなタイミングで卒業をする為、上を見れば100年生なんて人もいる訳で、学生といっていいのか怪しい人たちばかりなのだ。
それだけ在籍したくなるほど魔術学園の環境が良いのか、学園生活が楽しみになってきたな!
今が何時か確認するために時計を見る。
確か試験の開始時刻は午前10時。
んで、今が10時10分─────────
「遅刻してね?」
「「え?」」
俺の発言に蒼華と樹が戸惑いの声をあげる。
「試験開始が10時、今が10時10分。時計が壊れてない限り遅刻してるよね?」
「「「…………………」」」
それはもう一斉に駆け出した。走って走って走って走った。
現在地は橋を渡り始めてから2kmを過ぎた辺りだったが、走り出してから僅か数分でミカ寮の門前まで辿り着いた。
「「「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」」」
膝に手をつき息を切らす俺たちを見つめる幾つもの視線。
まとわりつく様な品定めする様な視線。
まず間違いなく試験官達のものだろう。
こちらが気づいている事に気づいている。
はてさて、もう試験が始まってるのか、それとも遅刻で不合格か、有難い事に後者はなさそうだ。
だって─────
「ヤる気ビンビンだなあ〜」
俺達の頭上、ミカ寮門の上に立つ青年。
健康的な褐色肌にキラキラと輝く金色の髪。
よれたオーバーサイズのノースリーブにカーキ色のカーゴパンツ。
服の隙間から覗く身体は筋肉質でいて、どれだけ鍛えているのかが一目で分かる。
そんな個性的な特徴を差し置いて目を引くのは彼の右腕、宝石の嵌め込まれた義手である。
肘の関節部分に赤い宝石が嵌め込まれた黒い義手。金で装飾されたその腕は彼の魅力をより引き立たせていた。
「お前らッ!推薦枠だからって遅れていい理由になんねえぞ!」
「推薦枠?」
「お前達は俺直々に合否をつけてやる」
両の腕を伸ばしてストレッチし、男は門から飛び降りた。
「試験開始だぜッ!」
高速で飛び降りる試験官の男と悠然と構える響の拳が交錯し、衝撃が伝播して海が揺れた。
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