入学から1ヶ月遅れの転入生

入学から約1ヶ月。

僕はまだ学園に馴染めずにいた。


方舟魔術学園、魔術師達から方舟はこぶねと呼ばれる超法規的教育機関。

入れる人は優秀な魔術師ばかり、実技が駄目な僕は筆記試験で満点を取ってギリギリで合格した。


合格した。そこまではよかったものの学校生活が余りにも大変だった。

何せこの学園、校舎がデカ過ぎて移動授業の度に刻印魔術を使わなければ間に合わない。

他の生徒でそれなのだから僕の場合は授業終了のチャイムと同時に次の教室へと向かわなければならない。


それに実技で取れない分の単位を筆記で取らなければいけない。

実技と筆記で5:5の単位数。30000単位。

全単位の半分が必要だから筆記で15000単位を取得しなければいけない。つまり満点を取り続けなきゃ、その時点で落第決定なのだ。 


「はい!ちゅうもーく!このクラスに転入生が来たから紹介するよー!」


いつも通りのHR。

その終わり際に先生が言った。


転入生?転入生だって?確かこの学園は転入生を受け入れてない筈なんだけど……。


「入ってきて〜」


間延びした声で先生がそう言うと3人の男女が入ってきた。

歳は僕と同い年くらいの黒髪の少年と青髪の少女に髪も肌も白い幼女。

男の子の方は何故か傷だらけだけど何かあったのだろうか。


転入生ってだけで珍しいのに、まさか3人も現れるなんて思ってもいなかった。

それは周りのクラスメイトも同じようでザワザワとクラスが騒がしくなった。


「はい。自己紹介して」


「「……………」」


少年と幼女は口を開かない。

痺れを切らしたのか青髪の少女が少年と幼女の頭をって自己紹介を始めた。


「えー、こっちの男が双柳響でそっちのガキが双柳樹」


なんとも雑に紹介を続ける。

それにしても双柳?双柳ってもしかして───


「で、私が双柳蒼華。これから宜しく!」


青髪の少女が自分の名を言った瞬間、教室内にいた全生徒が一斉にざわめき立つ。


それもそうだ。

双柳蒼華と言ったら、同年代の魔術師のトップ。魔術研究の最前線に立つ天才。

悪評と好評。2つの評価を一身に受ける問題児。

彼女ならば学園に来なくとも自身で魔術について学びを深める事が出来るだろう。


そんな彼女が何故ここに来たのか。

そして、彼女にぶたれて痛みに悶えている2人は何者なのか。


双柳の姓を持つ3人の魔術師。

彼らがやってきた事によって学園に新たな旋風が巻き起こる事を僕は知る由もなかった。


「あー、取り敢えず世話係は暮鳥くれどり!お前やれ!」


は?僕!?

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