教えてやったのだよ

自己紹介で教室を騒めかせる30分前。


「オラ!オラ!どうしたァ!?その程度かよ!」


打撃の嵐。

黒腕の男は腕、脚、頭、使える部位全てを用いて乱打してくる。

一発一発が並の魔術師を遥かに凌駕する力を放ち、目の前の魔術師の実力の高さを伺えた。


見た目通りというかなんというか、搦手を使うタイプではなく力でゴリ押すタイプの様で真正面から打ち合わないといけないのがより面倒だった。


パワーとスピードに極振りしてるのか隙が多い。

だから攻撃のタイミングに合わせてカウンターを決める事が出来ているのだが……。


「どんだけ硬いんだよ」


響が一瞬だけ緊張を解いた、その瞬間に男は駆け出し蹴りを喰らわせた。

蹴りの威力をいなしきれず、響は遥か後方、海上へと蹴り飛ばされる。

このままでは海へ落ちるとすぐさま刻印魔術を発動し、滑りながら海面に着地する。


(まあ、それくらいは出来るよな)


男がチャポンと水面に飛び降り佇んだ。

パワーとスピードばっかの脳筋だから細かい魔力操作は出来ないのではないかと考えていたが、淡い期待だった様だ。


「どうゆう事だ?数段弱いぜェ。お前」


まるで俺の事を知っていたかの様な口振りだ。

誰かから前情報でも貰っていたのか?


「そういうお前こそ大した強さじゃなさそうだけど?」


「あ?」


少しでも冷静さを欠いてくれたら嬉しいなと煽ってみたのだが、男は思っていた以上に短気で煽り耐性かなかった。


「ブッ殺すッッ!」


男の黒腕に込められた尋常じゃない魔力。

海面に立つ為以外の魔力を全て身体強化に回し、腕力を極限まで高めた。

それこそ当たれば身体が吹き飛ぶレベルの力だろう。


男が冷静さを欠いてくれたおかげで、腹部を擦るギリギリの所で回避する事ができた。

即死の攻撃を喰らいかけたのも避けれたのも煽ったおかげだというのは、なんとも可笑しな事だろう。


勢いを残したままの拳は海面を殴りつけた。

すると、見たところ十数メートル下まで海面に穴が開く。凄まじい力だ。


が、それだけだ。


ただの力は更なる力に抗う事は出来ない。

何の為の搦手だ。何の為の読み合いだ。

魔術師が様々な戦い方を持つのには確かな理由がある。


確かに目の前のコイツは強い。

しかし、馬鹿正直に力を振るっているだけで勝てるほど世界は甘くない。

何処かで俺はそれを学んだ。


未だ降り頻る水飛沫に紛れて下がった出力を上げ、水中へと潜って男に近づく。


純粋な力だけで勝とうとするなら誰よりも強くならなくてはならない。


男の背後にまわり水中から飛び出す。

男は魔力を絶った俺に気づかない。


「意趣返しだ」


気づいた時には蹴りが眼前に迫っている。

直前で防御しかけていたから死にはしないだろう。

メリメリと音を立てて男は吹き飛んでいった。

対して俺は蹴りの反動で上空へと飛ばされた。


やばい!やばい!この高さから落ちたら水だからって骨折じゃ済まないぞ!


焦る響を見かねて今まで傍観を決め込んでいた蒼華が現れて、響を抱え上げた。


「ったく、だから言ったじゃん。今の自分にあった戦い方をしろって」


「何も知らぬ者に世界の広さを教えてやったのだよ」


お姫様抱っこされたまま格好つける響を見て蒼華は溜息を漏らす。


半年前の一件以降、響が馬鹿になっていってる気がしてならないのだ。

家事だったり育児樹の世話だったり日常生活では百点満点なのだが魔術が関わると途端に年相応に無茶をする。

不調なんだから、そういうことは控えて欲しいものだ。


「取り敢えず、試験終了って事でいいのかな?」


蒼華は響に蹴り飛ばされのびた黒腕の男ではなく、その傍に佇む女に声を掛ける。

女は黒腕の男を浮かして運びながら返答する。


「うん。いいよ。そもそも君達は推薦枠だから試験も何も必要なかったんだけどね」


「ずっと気になってたんだけど推薦──」


女は響の言葉を遮り蒼華に話しかける。


「そっちの響って子、もしかして……」







###





「後天性魔力不和症!?」



世話係に任命された僕は蒼華さんから響君の取り扱い説明について聞かされていた。


どうやら響君は魔力不和症らしい。


魔力不和症とは魔力量と魔力出力に大きな差が生じ、上手に魔術を扱えなくなる一種の病気だ。

基本、先天性の人が多くそういった人は魔術を日常生活で使う範囲に留めて生きる。


しかし後天性など滅多に聞かない。

恐らく、元からあった魔力量に対して何らかの要因で出力が下がった事で魔力不和症になったのだろう。


「ということは、この時期に入学してきたのって……」


「鋭いね。その通りだよ」


なるほど、双柳さん達が方舟に来た理由は───


「魔術大会。その優勝特権で響を治してもらおうって訳さ」





───────────────


https://kakuyomu.jp/works/16818093073365299539

↑最初に響と出会ったのが夕じゃなくて蒼華だった場合の話。

今作はこの話で終了となります。

続きは上記URLの作品にて書いております。

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魔術師になった少年の英雄譚 双柳369 @369bell

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