第15錠 EXTRA.


過剰摂取オーバードーズで高まっていた高揚感や多幸感が、一気におさまってしまった気がする。


治まったというより、理解が追いついていないだけかも。


とりあえず、近くに待機させていたお人形さん達を抱きあげて、顔をうずめる。


相手はボスモンスターだった。

ゴブリンの上位個体である、ホブゴブリン。


そこまで強くないってネットには記載されていたけど、私は駆け出しの探索者で、初めてのボス戦だったのだ。


事実、人形使いパペットマスター爆弾魔ボマーだけだと攻めあぐねて時間が掛かっただろうし、ネットでボロクソ言われるほど弱くなかったと思う。


過剰摂取オーバードーズが強過ぎたんだ。


どうしよう。

過剰摂取オーバードーズ無しでは、生きていけない体になっちゃう。


……うん、これはポジティブに考えよう。

結果、怪我も無くボスモンスターを倒せたんだから問題ないじゃないか。


私にポジティブなんて言葉、似合わないけどね。


それよりも、今1番考えなくちゃいけない問題をどうにかしないと。


チラリとホブゴブリンがいた場所に目を向ける。

地面に散らばる大量の素材と、ダンジョンクリア報酬の宝箱。



「どうやって、持って帰ろ……」



少しでも多く素材を持ち帰るために『枯れ木の棒を置いていこうかな』なんて悩んでいると、部屋の奥から光があふれているのに気がついた。



「あれ?」



ボスモンスターを倒してダンジョンをクリアすると、あとは来た道を辿たどって帰るか、宝箱の中にたまに入ってる帰還水晶を使って、地上に戻るだけのはず。


なのにそこには、円と三角形を幾重いくえにも重ね合わせたような幾何学模様きかがくもようの魔法陣が発現していて、ユラユラと淡い金色こんじきの光を放っていた。


とっても幻想的だけど、それどころじゃない。

こんなの、ネットに載っていなかった。


その場から一旦距離をとって、様子を伺う。


魔法陣は、クルクルと回転し始めていた。


回転速度がすにつれ、魔法陣はどんどん大きくなっていって……その回転がようやく収まると、そこにはホブゴブリンよりも大きな、さんが立っていた。



「ひぇぇ……」



まさかの、モンスター登おかわり場。


『なんで?』『どうして?』、そんな言葉が頭をグルグル回って、泣きたくなった。


体長は、たぶん10メートルくらい。

黒いジャケットのような物を着ていて、背中には肩紐ショルダーストラップの伸びたリュックサック。

頭にはハンチング帽と、サングラス。

モンスターなのに、オシャレさんだ。


……下半身は、隠さないタイプみたい。

白熊はキョロキョロと周囲を見渡すと、警戒して石ころを構える私を目ざとく見つけ、まるでたたえるようにパチパチと手を叩いてみせた。


……おめでとう、ってことかな?

モンスターなのに、変なの。



「あ、ありがと」



白熊は私の返事に満足したように数回頷いてみせると、流れるようにホブゴブリンの素材のそばまで近づいて、そこでドスンと腰を落とした。


何してるんだろう?


そう思ったのも束の間、白熊は散らばるホブゴブリンの素材を躊躇ためらいもせず、慣れた手つきでリュックの中に詰め込み始めていた。



「ちょ、ちょっとそれ、私の!」



慌てて白熊まで駆け寄って、奪い返す。


私がボスを倒して手に入れた戦利品なんだから、欲しいなら欲しいと言ってほしい。

──ゾワリと、悪寒おかんが走った。


そうだ、この白熊もモンスター。

人間臭い仕草に騙されちゃ、ダメだったんだ。


のそりと立ち上がった白熊の、空間をゆがめるほどの威圧感に腰を抜かす。


真っ黒い瞳で私を見据えたまま、右手を高く振り上げる姿は、まるで断頭台の処刑人のようで──。


無慈悲にその右手を振り下ろす白熊を、私はただ呆然と見つめる事しか出来なかった。


死ぬ。


そう悟ったとき、ドンッと私の体に何かがぶつかった。


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