第12錠 二度目の御社ダンジョン


一夜明け。


午前中に源さんの家で用事を済ませた私は、お気に入りの黒いワンピースとおばあちゃんがってくれた二つ結びの髪をフリフリ揺らしながら、田舎道をサクサク歩いていた。


目的地はもちろん、あの御社おやしろダンジョン。


昨日シゲさんから『ダンジョンに入っても良い』という言質をとったので、早速向かっているワケだ。


正直どこまで進めるかわからないけど、ギフトの検証も兼ねているから行けるとこまで行こうと思ってる。


リュックの中には、綿わたの詰まったお人形さんが5体と、お菓子と水筒、それに自動追尾式カメラ。


カメラは源さんのお古を貰っちゃった。

古くて画質は若干荒いらしいけど、生配信をするワケじゃ無いので問題無い。


あとは、ショルダーバッグの中に砂利道で拾った石ころがたくさん。


手には相棒の枯れ木の棒エクスカリボー

ちょっと大荷物になっちゃったけど、備えあればうれい無しって言うもんね。








御社ダンジョンの前。


前回来たときとくらべて、もやがちょっとだけ濃くなってる気がする。


一月ひとつきも経てば、そうなるのかな。


でも、私だって一月前とは違うよ。

正式なダンジョン探索者になったんだから。


まずはダンジョンに入る前に、自動追尾式カメラを起動する。


すると、ブルーベリーのような見た目のカメラが、スーっと目の前まで浮上してきた。


モーター音は、ほとんどしない。

じゃないとモンスターに気づかれちゃうから、当然と言えば当然。


サイズはテニスボールくらいの大きさだけど、そのぶん頑丈がんじょうだそうで、昔々むかしむかし……ブラウン管テ骨董品レビのみだれた映像を叩いて治したように、パーツが2〜3個失くなっても叩けば問題無く使えるって、源さんは言っていた。


精密機械なのに、不思議。


カメラをイジって俯瞰ふかん映像に設定すると、あとは歩いても走っても私の頭上より高い位置にとどまって、360度視点で映像をとらえてくれるらしい。



「よし、行こう」



おばあちゃんに習った『ヒッヒッフー』のリズムで呼吸を整えると、意を決してダンジョンに足を踏み入れた。








「前方ヨシ!後方ヨシ!周囲ヨシ!ダンジョン探索ご安全に!」



ネットのまとめサイトに載っていた、ダンジョンに入ったときのマナーを行う。


マークシートの筆記テストには出なかったけど、新人探索者は指差し確認を大声でやらないと注意されちゃうみたい。


ここのダンジョン以外だと声が出せない私は……どうしたらいいんだろ?


あとで解決方法を探さないと……。





御社ダンジョンの中は、相変わらずの一本道。


見える範囲にモンスターはいないとわかったので、リュックからお人形さんを3体出して人形使いパペットマスターを発動する。


すると、人間のようにムクリと起きて屈膝礼カーテシーをするお人形さん達。



「……かわいい」



過剰摂取オーバードーズ爆弾魔ボマーはお家で実験出来なかった為、必然的に良く練習してたのは人形使いパペットマスターだった。


なんと言っても、とっても便利。


お人形さん達は私をならったようなスペックなので、パワーは無いし足は遅いけど、事前に『私が寝るまでダンスを踊って』などの大まかな全体指示オーダー発令インプットしておけば、一々いちいち『あなたはコサックダンス』『あなたは日本舞踊』なんて細かく指示を出さなくても、全員がある程度自由に動いてくれる。


まさに人手の足らないボッチ探索者にはもってこいのギフトだ。


もちろん全体指示は逐一変更出来るし、詳細な指示を出すとお人形さん達の動きは繊細せんさいになるし、個別に特別命令グランドオーダーを発令したお人形さんは、全体指示に縛られない。


問題点があるとしたら、喋らない事ともろい事……あとは残機制だという事くらいかな。


今日の残機は5体。

ポケットにも何体か指人形が入っているけど、持ち運びが不便なのもネックだ。

「モンスターが出て来たら戦って」



今回の全体指示はこれ。

どんな風に戦ってくれるのか予想出来ないけど、まずは戦力になるかどうかを調べたい。


前に2体、後ろに1体を配置したら即席パーティーの完成。



「勇者パーティー誕生の瞬間である」



……なんてね。


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