第11錠 初めてのゴブリン


お人形さん達と隊列を組んで歩いていると、ズリ……ズリ……という聞きなじみのある音が聞こえて来た。


すぐさま枯れ木の棒を構える。

意味は無いけど、なんとなく。


前回よりも早く出会えた気がする。

相変わらずのプルプルボディ。


「やっちゃえ!」


前に並んだ2体のお人形さんに合図を送る。

途端、トタトタ走って挟み込むように接敵する2体。


スライムはお人形さんを敵だと認識したようで、右側を走っていたお人形さんに狙いを定めてグググッと体をへこますと、体当たりのタメを作っていた。


直後、ポンッ!という音の後に、頭がチギれて倒れたお人形さん。


その頭は無惨にも、スライムの体の中に取り込まれていた。


「ひぇぇ……」


勇者パーティの1人が簡単にほふられてしまった。

由々しき事態だ……もう一体のお人形さんを慌てて呼び戻す。


いや、そもそも私並のスペックなのだから、こうなるのは目に見えていたかな。


ならばと、プランBに移行する。

爆弾魔ボマーの検証だ。


パチンッ!と、指を鳴らす。

正確には、シュッ……というかすれた音だったけど、それがトリガーとなったのは変わらない。


耳をつんざくほどの爆発音を響かせて、四散するスライムの体。


お腹に響く衝撃と予想以上の結果に、だいぶビックリしたけど、おおむね実験は大成功と言える。


なんてことは無い。

スライムに食べられたお人形さんの頭を、爆発させただけなのだから。


あらかじめ、爆弾魔ボマーの【触れたものを爆弾に変える】能力を使って、お人形さん達をにしていたのだ。


アニメの世界で、敵に抱きついて自爆するキャラクターから着想ちゃくそうを得た戦法。

……特許とか無いよね?


正直、敵に直接触れて爆発させるのはまだ怖いので、石ころもたくさん持って来たけど、これならスライムも一撃かな。


と思ったのも束の間。

スライムのゼリー状の体が、一箇所にウゾウゾと集まってるのが目についた。


まだ、熟練度が足りなくて威力不足だったのかも。

走って近づいてみると、ちょっとだけヒビの入った剥き出しの核がゼリーを呼んでいるようだった。


「えいっ!」


枯れ木の棒を、力いっぱい叩きつける。

すると、核はたちまち砕けて、スライムはそのまま動かなくなった。


私の枯れ木の相棒棒が、血の味を覚えてしまった。

きっと、妖刀って言われる日も近い。




「分かれ道……」


スライムを倒してからしばらく進むと、一本道は枝分かれしてY字路になっていた。


ダンジョンの靄が濃くなったのも関係してるのかな、なんて考えは後回しにして、枯れ木の棒を地面に立てて手を離す。


右にコテンと倒れたので、右に進む事にする。

一応、携帯のメモ帳にも進路を記入した。


またしばらく進むと、グギャグギャという声が聞こえ、その声が近づくにつれて異臭が漂ってきた。


目を見開く。

通路の先は行き止まりで、その前には3体のゴブリンが棍棒を手にたむろしていたのだから。


れ木の相棒棒……お前、裏切ったのか?




緑色で不衛生な体。

小鬼ゴブリンと呼称されるように、子供のような体格で鬼のような顔だ。


腰蓑こしみの一枚巻いただけのその姿は、女性探索者が嫌うモンスター第1位だという。


なるほど。

まだ距離があるとはいえ、兎に角臭い。

私もたまにお風呂に入らなくて、野良犬みたいな臭いがするなっておばあちゃんに言われるけど、これは何日お風呂に入っていないんだろう。


ダンジョンにお風呂があるかはわからないけど。


鼻をつまんでゴブリンを見ていたら、その内の1体と目が合った。


人型と呼ばれるモンスターと戦うのは初めてだから、蛇ににらまれたカエルのように、固まってしまう。


その間に、残りの2体も私の存在に気づいたようで、こっちを指差していた。


女性を見つけたら瞬時に襲ってくるゴブリンが、3体共私の体を舐めるように見つめーー鼻で笑った気がした。


情けない、恥ずかしい、色んな言葉が頭に浮かんで、最後に「絶対許さない」という言葉が残った。


いくらチビで痩せっぽちで肉無し体型だからって、多少なりともプライドはある。


気づけばショルダーバッグから石ころをむんずと掴んで、ゴブリン達目掛けて投げつけていた。


もちろん、爆弾魔ボマーで爆弾に変えて。




結果から言えば、完勝だった。

投げた石ころは、爆発すると手榴弾のように破片を飛ばしてゴブリンを傷つけ、怒ったゴブリン達が棍棒を振り回して走ってきたら、後ろに下がってまた石ころを投げる。


現代兵器ではモンスターに傷を与えられないって言われてるのに、ギフトをかいしたら石ころでも傷つくんだ……なんて考える余裕もあったくらい。




そうこうしているうちに、ゴブリン達は無警戒に


正確には、吹き飛んだのは両足。

石ころに意識を集中させ、足跡を地雷にして誘い込んでみたのだ。


前に爆弾魔ボマーを賜った人が使ってた技を、ネットで見つけて真似しただけだけど上手く行って良かった。


さて、ゴブリンは3体とも虫の息だけど、枯れ木の棒裏切り者でトドメを刺そうと思う。


ここで戸惑っていたら、探索者として頑張るんだって決心がにぶりそうだから。




初めて人型モンスターを倒して……吐きそうになりながら手に入れたものは、買取表で安い値段がついてるゴブリンの素材数個と、ほんのちょっとの自信と勇気。



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