第14錠 BOSS戦でオーバードーズをキメてみる


ショルダーバッグの中に詰めていた石ころの残数を数えた後、枝分かれしてY字路になっていた道まで戻って、今度は左の道に行く事にした。


ほぼ一本道なので道に迷う事は無いけど、ずっと同じような景色が続いているので、不安にはなってくる。


闇雲やみくもに歩くのは、出来れば避けたい。


と、そこでピーン!とひらめいた。



「おかえり。どうだった?」



先遣せんけんとして、道の先に送っていたお人形さんが帰って来たので、一旦立ち止まる。


そう、人形使いパペットマスター索敵さくてきもちいてみたのだ。


私の問い掛けに、お人形さんは頭の上で大きなマルを作ってみせた。


……ボディランゲージが、凄くかわいい。


この先しばらくはモンスターは出ないみたいだし、ねぎらいも兼かねてお人形さんを抱っこすると、そのまましばらく歩く事にした。


もちろん、周囲の警戒はおこたらない。


……お人形さん達が、だけど。



道中どうちゅう会敵かいてきする事なくサクサク進む。


退屈、と言うワケでは無いけど、お人形さんに警戒してもらっている間、御社おやしろダンジョンについて一つ、推測を立ててみた。


さっきのゴブリン達みたいに、袋小路ふくろこうじにモンスターが出現ポップしていたと言うことは、御社ダンジョンは【迷宮ダンジョン】に分類されるのかもしれない、と。


正確には、


筆記テストの為に覚えた知識では、ダンジョンにはいくつか種類があった。


高くそびえる建造物型のダンジョンは、上へ上へと登っていく【階層ダンジョン】。


逆に、下へ下へと潜っていく底の見えない縦穴型の【多層ダンジョン】。


広大な面積でボスすら自由に闊歩かっぽする、ワンフロア型の【フリーランダンジョン】。


そして、入り組んだ道と悪辣あくらつな罠、それにモンスターハウスが行く手をはばむ【迷宮ダンジョン】。


派生型は色々あるけど、有名なのはこの4つ。


御社ダンジョンは一本道だけど、これから時間が経てば経つほどあのY字路のように通路はたくさん枝分かれして、ゴブリンのいた場所はモンスターハウスになって、罠も出来るはず。


推測だけど、的外れでは無いと思う。


進行が遅いのはたぶん、まだもやが弱いから。


ダンジョンは靄が【大きく】【広く】【高く】【濃い】ほどモンスターがポンポン生まれて探索難易度は上がるみたいだしね。


……と言う事は、その推測を前提とした場合。

御社ダンジョンの通路はまだ、迷路のようになって無いワケで。



「このままボス部屋まで一直線……?」



あれから2回Y字路を発見し、2回枯れ木の棒に裏切られ、2回ゴブリンの集団と戦って……今は荘厳そうごんな扉の前に立っていた。


流石に一直線とまではいかなかったものの、たぶんここがボス部屋だと思う。


正直、もうちょっとモンスターと戦って戦闘経験をつちかいたかったけど、スライムも出ないし、着いてしまったのだから贅沢は言えない。



「よし」



鼻息荒く気合いを入れる。


ボスモンスターというものは、そのフロアまたはダンジョンの門番だ。


当然通常のモンスターよりも強くなっていて、倒さなければ次に進めないし、ダンジョンもクリア出来ない。


だけど、倒せたら通常より希少な素材をドロップするし、ダンジョンをクリアしたら素敵な報酬が手に入るので、探索者はそれを探索者協同組ギルド合で換金して生計を立てているらしい。


私もこのダンジョンを攻略したら、おじいちゃんとおばあちゃんにプレゼントを贈る予定でいる。


…… 探索者協同組ギルド合に換金に行くほうが私にとっては困難な気がしないでも無いけど、後の事はそのときの私に頑張ってもらおう。


お人形さんは4体、指人形はポケットいっぱい、石ころの残数はショルダーバッグの半分くらい、枯れ木の棒ブルータスは……リュックに仕舞っておく。


過剰摂取オーバードーズは、奥の手として一旦保留。


と言っても、検証も兼ねてるから出し惜しみはしない。


ただでさえ私のスペックは貧弱なんだ。

お人形さん達が突破されてボスが私に接近なんてしようものなら、後先考えずガブ飲みする。



ちょっと疲れてはいるけど、準備は万端。


扉に手をついて、ゆっくりと押し開く。

重厚な扉だったので少し手間取ったけど、隙間に体をねじ込んでどうにか侵入に成功した。


思った何倍も広い室内。

その真ん中に、ボスモンスターは立っていた。



「おっきい……」



あのモンスターはネットで見た事がある。


確か、名前は【ホブゴブリン】。


大きな体つきをしている、ゴブリンの上位個体。

速さは無いけど、タフで力は桁違い。

自分は賢いって思ってるらしいけど、知能はチンパンジーくらいって記載してあったはず。


1体だけなのに、威圧感が凄い。

あと、臭いも。



「みんな、よろしくね!」



お人形さん達に石ころを持たせて、牽制けんせいしてもらう。


あとは出来るだけ部屋を走り回って近づかれないように……なんてそこまで考えた、そのとき。


ホブゴブリンが太くて大きい石柱のような武器を、軽々と持ち上げる姿が目についた。



「ひぇぇ……」



嫌な予感がしたときには、もう遅かった。

おじいちゃんがテレビで見ていた野球選手のように、石柱を振り上げて、振り切って。


それだけで2体のお人形さんが、一瞬でバラバラになってしまった。


お人形さんの爆発で石柱も木っ端微塵こっぱみじんになったけど、ホブゴブリンはニヤニヤしているだけで全くの無傷。


等価交換になってない!



「しゅ、集合!」



生き残った2体のお人形さん達を、急いで呼び戻す。


作戦変更。

爆弾魔ボマーで倒す事は出来るかも知れないけど、それは時間を掛けたらの話だ。


まだ足跡地雷をバラ撒いてないし、お人形さん達はきっと全員ほふられちゃう。



「【パワー薬】と【スピード薬】を10錠ずつ!」



両手を出してそう唱えると、手のひらの上にカラフルな錠剤が落ちてくる。


錠剤瓶から直接薬を取らなくても、個数を指定するだけで手のひらに出てくるのは検証済み。


瓶からザラっと飲んだほうが早いけど、それだと何錠飲んだかわからないので、これは嬉しい仕様だ。


出来れば保険として【ディフェンス薬】も飲みたいけど、いくら錠剤がちっこいからって、一気にたくさんは飲めない。


計20錠を、こぼさないように口に含む。

頬っぺがパンパンになったけど、ラムネ菓子みたいに噛み砕いて飲み込む。


──プツンと、一瞬意識が飛んだ気がした。



「ふぁあぁあッ、高まるぅ……」



それからすぐ訪れた、凄い高揚感こうようかん多幸感たこうかんの波。


市販薬のオーバードーズなんか目じゃないくらい、


これ、ヤバいやつだ。

今なら、何でも出来る気がして来るもん。


逆に、効果が切れた後の副作用と離脱症状が怖いけど、後の事はそのときの私に任せよう。


ホブゴブリンがドン引きしたような表情を浮かべているのが可笑おかしくて、コロコロ笑う。


隙だらけなので、攻撃しちゃえ。

素手だけど、なんとかなるよね。


だって、今の私は【力と素早さが1024倍】。

おじいちゃんが『パンチ力は体重×かけるスピード×握力だ』って言ってたし!


グッと足に力を込める。

顔……は手が届かないから、お腹を全力でグーパンチだ!



──ホブゴブリンのお腹には、大きな風穴が空いていた。


パンッ!という音が、一拍遅れて鳴るほどのグーパンチだったらしい。


ホブゴブリンが、チリに変わる。



「……ほぇ?」



あとに残ったのは、ホブゴブリンの素材とダンジョンクリア報酬、それと腕を突き出した格好のまま口からほうけたような声を出す、私だけだった。


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