第3錠 ダンジョンの中とモンスター



「広い……」



御社の中に入ってみると、目の前に広がる光景に唖然あぜんとしてしまった。


まるで坑道こうどうのような一本道。


壁や床は全て岩や土で出来ていて、奥へ奥へと真っ直ぐ伸びるその道は、小さい御社の中にいるとは到底思えないほどの広さと奥行をしていた。


まるで空間そのものをねじ曲げてしまったような出鱈目でたらめさ。


正直、御社っぽいダンジョンという事で、板床やたたみの張った和風ダンジョンを想像していたけど……そこでハッとして、気を引き締める。


油断は禁物。

本番は、これから。


震える足をペチペチ叩いて、足を進める。


このままずっと一本道なら道に迷う事は無いだろうし、そのうちモンスターと遭遇エンカウントするはず。


だから、なるべく足音を立てないように慎重に、慎重に。








ダンジョンに出るモンスターは、そのダンジョンの難易度によって大体決まっているみたいだけど、これも私はそこまで詳しく無い。


ただ、私の推論がんぼうでは、このダンジョンに出るモンスターはたぶん、ゴブリン、コボルト、スライムくらいだと思う。


……ゴブリンやコボルトと戦うのは、正直嫌だ。


ゴブリンは女性をさらってエッチな事をする女の敵で、コボルトは群れで人をなぶる犬畜生だって、テレビで言っていた。


私はチビで痩せっぽちで、一人ぼっち。

武器は、外で拾った枯れ木の棒1本。


遮蔽物しゃへいぶつも無い、こんな一本道でゴブリンやコボルトの群れと遭遇したら、呆気あっけなくにされるのは目に見えてる。


死ぬ覚悟は出来てるけど、出来れば勝ちたい。


ギフト、欲しい。

だったら、願いは1つだ。



「スライムさん、出てきて……」




スライムはザコキャラという位置づけで登場する、私でも知っているくらいポピュラーなモンスターだ。


ゼリー状の体は不定形で、グニョグニョしている。

構成要素はほぼ消化液のみで、器官系は無い。


あるのはビー玉サイズの謎物質1つと、とってもシンプル。


その核を壊さないと斬っても叩いても再生しちゃうって、これもテレビで言っていた。


あとは、ダイラタンシー現象のような性質を持っているので、物理ダメージは期待出来ないらしい。


無意識に、枯れ木の棒を見る。


ほんのちょっとだけ不安になったのは、内緒。








一本道を進んで、どのくらい経っただろう。


私のバグってる体内時計は『そろそろ10時間くらい歩いてるよ!』と告げている。


もちろんそんな事は無く、たぶん1時間も経っていないけど、これは想定外。


全然モンスターと遭遇しないなぁ。

ダンジョンってそういうものなのかなぁ。

そろそろ休憩しようかなぁ。


なんて、気を緩めそうになった、そのとき。


ズリ……ズリ……


そんな物音が、耳に届いた。



「っ!」



声を飲み込み、耳を澄ます。


ズリ……ズリ……


また、地面をうような物音を拾う。


きっと、モンスターだ。


その場で枯れ木の棒を正面に構えて、音の正体を待つ。


どうしよう。


あの女の夢を見たときと同じくらい、怖くて震える。


落ち着いて、落ち着いてと、手首を爪でく。


力を入れ過ぎたようで、ちょっとだけ肉がえぐれて血が出たけど、そのおかげで冷静になれたような気がした。


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