第21錠 第三者視点〜乙姫夏編〜③
──その映像は、ヒカリちゃんが自動追尾式カメラを覗き込むアングルから始まった。
:おっ、始まった
:ガチ恋距離助かる、と言いたいとこやけど……
:なんか、解像度荒くね?
:旧式のカメラなのかな?
:
散々な言われようの自動追尾式カメラだけど、ヒカリちゃんの頭上に上昇して
:自然豊かな場所やなぁ
:田舎かな?
:あのもやもやの建物がダンジョン?
:ワンピースにツインテール……グッとクるわね
:ヒッヒッフーは草
「ヒカリちゃん、このダンジョンを発見したのはいつ?」
『え、と……1ヶ月前くらい、です』
少しだけ口ごもったヒカリちゃん。
それに気づかないフリをして、
「このダンジョンは
『はい……1級から7級まであって、数字が大きいほど危険……ですよね?』
ヒカリちゃんの返答に、満足気に頷く。
「正解!補足するなら【0級ダンジョン】を除く、だね!」
:乙姫様がちゃんと先輩してる
:授業助かる
:モヤで見分けるのは流石やな
:ワイ中堅探索者、未だにモヤの区別がつかない
:同じく
「駆け出しの探索者には【1級ダンジョン】でも危険だけどね。あとは何型のダンジョンかだけど……これは入ってみないと流石にわからないかな」
映像が、ダンジョンに入った場面に切り替わる。
《前方ヨシ!後方ヨシ!周囲ヨシ!ダンジョン探索ご安全に!》
:草
:草
:草
:工場勤務ワイ、急に親近感
:ガセネタに騙されててかわちぃ
堪えきれず、下を向く。
笑っちゃダメだってわかってるけど、この愛くるしさが天然物だと確信出来て、ニヤニヤが止まらない。
『夏さん、どうかしましたか?』
「う、ううん。なんでもないよ?」
気持ちを落ち着かせるように少し長めに息を吐き出すと、ヒカリちゃんがリュックサックから人形を3体取り出す場面が目についた。
:何しt……動いたぁぁああッ!?
:かわいい女の子がかわいい人形を操ってる!?
:このギフト、なんだ?
:
:ギフトと言っても千差万別やからなぁ
「ヒカリちゃんが
『はい……アタリです』
その返答に、ニコリと微笑む。
「ヒカリちゃんにピッタリのギフトを賜ったんだね。人形系は女性に人気で便利なギフトだから、私もちっちゃいころ
:でも戦闘に向かないんよなぁ
:素材が揃ってれば最強って言われてるから……
:その素材がどれも超高級品なんよ
:勇者パーティかわいい
:ずっと一本道だけど、このダンジョン何型だ?
なぜ、すでにギフトを賜っているのか?
その疑問はこの際置いといて、続きを視聴する。
しばらくすると、何かを引き
:スライムか
:
:いや、油断してヤられる駆け出しは結構いる
:それに
:大丈夫か、これ?
視聴者さん達の不安は的中。
スライムのボディアタックで人形の首がチギれ、1体が簡単に
それに焦ったのか、慌てて人形を呼び戻すヒカリちゃん。
(さて、どうするのかな?)
そう思って画面を見つめていると、ヒカリちゃんが左手を前に突き出して、指パッチンをした。
「──えっ?」
我が目を疑う。
突然、スライムが爆発四散したからだ。
:は?
:え?
:どういうことだってばよ
:人形の頭に火薬でも詰めてたん?
:嘘だろおい、これってまさか
「……
いや、呟く事しか出来なかった。
:ダブルホルダー!?
:ギフト2個持ってるって事?他にいるん?
:世界ランク1位の人とか、日本にも1人いる
:数億人に1人の割合やで。ちな最高は9個持ち
:↑それ
視聴者さん達も混乱しているのか、チャット欄も
「ヒカリちゃん、もしかして……」
『
違う、聞きたいのはそこじゃない……とは言えなかった。
本当は手放して褒めたいところだけど、たぶんヒカリちゃんは事の重大さをわかっていない。
きっと、
ダブルホルダーは
(ここで配信を止めて、視聴者さん達に口止めする?……そうしたいのは山々だけど、すでに数万人が見てるんだから、もう手遅れ。どうする?どうする……?)
おそらく数時間後には、新たに日本に誕生したダブルホルダーとしてネットニュースのトップを飾っているはずだ。
画面の中、枯れ木の棒に
『──だから、このダンジョンは【迷宮ダンジョン】だと思ったんですけど……夏さん?』
「……えっ?あ、うん、そうだね。断言は出来ないけど、その可能性は高いかな」
私を呼ぶヒカリちゃんの声で、ふと我に返る。
ディスプレイに目を移すと、ヒカリちゃんがゴブリンの集団を
:見ろ、ゴブリン共がゴミのようだ!
:俺、ゴブリンに鼻で笑われる女の子初めて見た
:ロリに興味無いとか紳士じゃん
:地雷系(物理)ロリとはたまげたなぁ
:ヒカリちゃんの怒った顔かわいい高画質で見たい
「……凄いね、ヒカリちゃん。足跡を爆弾にするアイデアもそうだけど、立ち回りも完璧!」
『……むふー』
電話口の向こうで、ヒカリちゃんが笑う。
顔は見えないけど、その笑顔を曇らせるワケにはいかないと──腹を決める。
「ヒカリちゃんと太郎のみんな、ちょっとだけ
そう言って、仕事用の携帯を手に席を外した。
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