第5錠 私のギフト



けぇるときは電話してけろ」



その言葉にコクコクと頷いて返すと、げんさんは軽トラから黒い排気ガスをかして去っていった。


今はもう、骨董品こっとうひんのような古いタイプの車だ。


田舎では、まだまだ主力級の戦力なのだそう。


そんな軽トラの持ち主である源さんは、隣近所に住む自称発明家の変なおじさん。


発明家なのに畑仕事をしている姿しか見た事がないけど、会えばお菓子をくれるし、頼めばこうして車を出してくれる、とっても良い人。


源さんに送ってもらったのは、家から1時間ほどの距離にある廃線寸前の無人駅。


これから電車に乗って、終着駅まで行く予定。


理由は探索協会免許センターで、免許証を取得する為だ。


そう、ダンジョンに入った日から3週間ほど経った今日、私は誕生日を迎え、16歳になったのだ。





あの日、睡眠薬と精神安定剤をタップリ飲んで寝たのが不味まずかったのか、目を覚ましたら2日も経っていた。


幸い良い夢を見れていたようで、悪夢にうなされる事は無かったけど、が凄く大変だった。


飲みすぎてしまった薬ので、とてもんでしまったからだ。


何せ、あれほど危惧きぐしていたダンジョンの事すら気にする余裕も無いほどで、三日三晩おばあちゃんにくっついて回復メンタルケアしなければ、今ごろ手首に傷が1つ増えていた……かもしれない。


今更傷が1つ増えたところで差して気にもしないけど、それはさておき。





精神状態が安定してきた後、私は試験に向けてネットで過去問を集めつつ、気になっていた事を色々と検索していた。


まずは、ダンジョンについて。


御社ダンジョンで群獣大暴走スタンピードが起きたら一大事なので、いの一番に調べてみたところ、どうやら群獣大暴走は長いスパンで条件を満たしていくものらしく、生まれたての新しいダンジョンだったら数年は大丈夫との事だった。


これはダンジョン省が運営している公式サイトのQ&Aに載っていたので信頼出来る情報、だと思う。


だから、というワケでは無いけど御社ダンジョンの事は国に連絡せず一旦保留にしていた。


正直なところ、誰にも干渉されずにギフトの検証が出来る機会はそうそう無いはずなので、有意義に使いたいというのが本音。


ただ、心配事をずっと抱えるのも嫌なので、探索免許証を取得して正式な探索者になれたら、おじいちゃんとおばあちゃんには話す気でいる。


……とはいえ現状、おじいちゃんとおばあちゃんにはダンジョンの事はおろか、探索者になる事すら言ってない。


探索者になる事を言ってない理由は単に、『探索免許証を取得したよ』と急に伝えて驚かせる予定だからだ。


今日だって探索免許センターに行くとは言わずに、『ちょっと出掛けてくるね』なんて誤魔化ごまかして家を出てきた。


おじいちゃんもおばあちゃんも私が外出する事にとても驚いていたけど、嬉しそうな顔でお小遣いをくれたから、探索者になって自立出来たらもっと喜んでくれる……よね?








次に、ギフトについて。


福音の鐘の音は聞こえたものの、どういうギフトを賜ったのか、謎すぎた。


簡単に知る方法として、ダンジョン関連のまとめサイトには【手を前に伸ばして『ステータス』と叫ぶ】と明記してあったので、ワクワクしながら試してみたところ……何も起こらず。


詳しく検索してみると、どうやらこれはいにしえのガセネタ、というやつだった。


そもそもステータスなんてモノは無いらしく、ギフトを知る為には【鑑定かんてい】というギフトを賜った人にお金を払って頼むか、ダンジョンでたまにドロップする【解析水晶】を使って調べるらしい。


もっとも、探索者協同組合ギルドで解析水晶を扱っているそうなので、私も後々ギルドに行って調べる予定だった。


ただ、ひょんなところでその問題は解決する。


それは、3日前の事。


源さんのお家に野菜をおすそ分けに行ったとき、源さんが作ったという発明品ガラクタの中から、解析水晶を見つけたからだ。


正確には、解析水晶を加工して作ったという、大きな丸眼鏡を。


『わざわざ丸眼鏡に加工する意味あるの?』って昔奥さんにダメ出しされてボツにした作品らしく、『ちょーだい』と言ったら『畑仕事手伝はだげしごどてづだったらな』と2つ返事で譲って貰えた。





それを使って判明した私のギフトは、


過剰摂取オーバードーズ

爆弾魔ボマー

人形使いパペットマスター





過剰摂取薬の飲み過ぎをギフトに指摘されてるような気がして、ドキッとしたのは……内緒。


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