第16話 対決。
早稲田七海を送って帰った俺は、すぐに早稲田七海の話した展開になって驚いた。
一瞬のタイミングで早稲田七海に話すと、[ほらね]と言い、[頑張って]と言ってくれた。
居間に呼ばれた俺の前には父と母が居た。
兄は自室待機らしい。
「旭、どういうつもりだ?」と言ってくる父に、「どう?」と聞き返す。
母が「あのお弁当の事や、さっきのお嬢さんの事よ」というので「父さんに羽交締めにされて、兄さんに殴られた顔を心配してくれてきてくれたり、母さんが俺を家庭内DVするから、心配してお弁当をくれただけだよ」と説明する。
父と母は狼狽えながらも優位性は崩したくないのだろう。「それは旭が」なんて言ってきたが、「俺が兄さんに殴られている時、父さんに羽交締めにされた。母さんは食事も出さず風呂の栓も抜いた。洗濯だけはしたが畳まずに俺の部屋に押し込んだ。これは事実で結果だよ」と返すと何も言えなくなる。
それでも振り絞るように、父が「今後はどうするんだ?」と聞いてきた。
俺は「今後?」と聞き返すと、「いつまでこんな事続けるんだ?」と追及してくる。
「こんな事?」
「お弁当を貰ったり、友達とご飯に行く事だ」
「それは俺に聞かないで母さんに聞きなよ。俺は食事の出ない結果に反応しているだけだよ」
両親は、あくまで責任の所在は全部俺にあると言ってくる。
早稲田七海はそれを教えてくれていた。
「相田君は察してくれやすくて、相手が相田君に任せる形で逃げるから、キチンと相手にボールを返すんだよ」
それはまさにそれだった。
俺は話しながら母を見て、「母さん、2日の日は俺の食事を作った?無かったよね?」と聞くと、母は「それは…旭が来ないと思って」とポソポソと言うので、「聞きもしないで?」と返すと、「晶だって」と言った。
「兄さんは今関係ない」
俺の言葉に何も言えなくなる母を無視して、「父さん、母さんが勝手にやった事で俺を悪く言わないで。俺は結果だよ。それとも父さんの勤め先や、大人の社会だとこれが当たり前なの?」と父に言うと、父は唸って「母さん、旭の食事や風呂をキチンとしなさい」と言った。
母の父に裏切られたという、愕然の表情は気分が良かった。
母は「お風呂は晶が…」と言ったのを聞き逃さずに、「父さん、今ここで兄さんを呼んで風呂の事を問い詰めてくれるよね?俺をここに呼んで問い詰めるんだからできるよね?」と言うと、最初は逃げようとしたが、父は逃げきれずに兄を呼ぶ。
兄は俺が怒られていると思ったのか、勝ち誇った顔で現れたが、落胆した父母の顔を見て雲行きが怪しくなっている事を感じた所に「晶、母さんから聞いたが、旭が風呂に入る前に浴槽の栓を抜いているそうだな。そういうくだらない真似はやめるんだ」と言われて顔を真っ赤にしたが、「旭に謝れ」と言われて、兄は渋々「悪かった」と言うと、部屋に戻って「ああぁぁぁぁっ!!」と憤慨していた。
父母はコレで終わらせる気はない。
それは俺も肌で感じたし、早稲田七海とも話していた。
「旭、そんな態度だと来年の学費」と父は言い出した。
どうあっても、上下関係を思い知らせて押さえつけてくるのは察していた。
「学校行かせないなら一生脛をかじってたかり続けるよ。周りに聞かれたら結果のみを言う。俺の親は俺を憎んで学費を出さなかったと言う」
俺の言葉に父は「…っ!?」と息を呑み、母は真っ青になっていた。
「それに兄さんは四年制の大学。学費はいくら?しかも今年卒業で、既に4年分の学費は払ったよね?俺は2年だよ。お年玉だけじゃなくて学費でも差をつけるの?」
俺の言葉に父まで青くなる所に、「どう?」と聞き返すと「わかった。だがお前は成人したんだから、協調性を持ちなさい」と父が言うので、「俺は普通だよ。友達を悪く言われたり、兄さんにあてがえなんて言われなければ怒らない。父さん?客観視して。俺が憎らしくて兄さんが可愛いのも構わない。兄さんに将来頼りたい父さん達の気持ちはわかっている。贔屓も仕方ない。でも善悪だけは歪めないで」と言い切る。
そして「変なお願いはしない。一般的な家庭の子供が願う事だけは最低限やって」と続けると、父は「それはなんだ?」と聞いてきた。
「就職先が決まった時の身元保証人の署名捺印や、独立する時の引越し先の連帯保証人の署名捺印。これらをしないで俺を困窮させたら、俺は事実を世間に向けて公表する。相田旭の両親は子供を憎んで就職と独立の邪魔をすると言う」
母が「保証人なんて軽々しくなれない」と言い出したので、「ならじいちゃん達に聞きに行く。父さんと母さんは誰にも保証人になってもらわずに今日まで生きてきたんだね?確認するよ」と聞き返し、「俺にしないなら兄さんにもしないよね?兄さんは就職浪人だけど、就職する時にしないよね?」と言うと、父は「保証人の署名捺印なんかはする。だから喧嘩腰はやめなさい」と言った。
「喧嘩腰?努めて冷静な話し合いだよ。まだ父さんとはまともな関係だと思ってたけど、今回の羽交締めで少し認識を変えた」
そして「食事は作ってくれるなら月曜日からにして。明日はお弁当のお礼に食べに行く」と俺は言うだけ言うと部屋に戻る。
部屋に入ると、蒲生葉子に[明日、お弁当のお礼もしたいからご飯行ける?]と今更聞き、蒲生葉子は行くと言ってくれた。
そして早稲田七海に、[早稲田さんのおかげで完勝できた。ありがとう]と送ると、[やったね!今度はお祝いだ!]と返事をくれた。
布団に入ると今更だったが震えた。
だが一歩前進できたと思う。
翌日、蒲生葉子にお弁当のお礼をしながら報告したら、「やったね。良かったよ」と言ってくれる。
「蒲生さんのお弁当、とても嬉しかった。アレを見て憤慨する兄さんを見て気分が晴れたんだ」
「良かった。お母さんが言った通りだったよ」
「え?お母さん?」
「話を聞いたお母さんが、「ふざけんじゃないわ!」って怒って、旭くんにお弁当持って行って仲の良さを見せつけてやんなって言ったんだよね」
まさかそんな話になっているとは思わずに、俺は慌てて帰り道に駅ビルの中で焼き菓子の詰め合わせの1番安いやつを買って、「家族で食べて」と渡した。
そして一度駅ビルに戻って、早稲田七海への分も買って、家の近くまで向かうと連絡をして取りに来てもらう。
「どうしたの?」と聞きながら出てきた早稲田七海に、焼き菓子を渡しながら聞くと、「うち?うん。お母さんに話したら、お金勿体ないから食べに来させなさいって言ってたよ」、「え?嘘?ああ、嘘の嘘。うちの風呂とかあんまし綺麗じゃないかもって思ったら恥ずかしくてさ、だからスーパー銭湯にしたんだよね」と言っていた。
噂なんてもんはあっという間に広まるらしい。
オカンネットワークとバイト先からのネットワークで、我が家の痴態がさっさと出回る。
だが母は人付き合いがあまりなく、全部同級生からその兄や姉に渡り、そこを経由して兄の耳に入ってしまう。
兄だけが「彼女が出来ずに弟に嫉妬していて、父親に羽交締めにしてもらわないと、弟1人殴れず、負け惜しみで弟の女友達を蔑んで親と協力して家庭内DVを仕掛けた痛い男」の結果に悶絶していたが、俺には知ったことでは無かった。
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