第26話 比べるという事。
七海と葉子。
今も比べてしまう。
それをやめようと心がけたが、葉子からはむしろ比べるべきだと言われた。
七海は家事の得手不得手が激しくて、風呂とトイレの掃除は得意でよくやってくれたが、部屋掃除は嫌がったし、料理は俺がいるなら俺に任せて、俺がやれない時だけは自分でやっていた。
代わって葉子は、料理は壊滅的だが掃除や洗濯はすごくテキパキとやってくれる。
葉子の料理で気付いたのは、火加減と包丁が苦手なので、おにぎりなんかは上手くできる。
あの手作りお弁当が自身の限界だと言っているが、無性に食べたくなると作ってもらう。
やはり人に作って貰うととても美味しいので、「美味しい」と喜ぶと、微妙さと嬉しさのこもる顔で「良かった」と言ってくれる。
キスも何も七海はしたくなると、「言わせないでよね」と言いながらしてくるが、葉子はモジモジと待ってしまう。
静と動。勿論七海が動で葉子が静。
付き合って半年の間に、一度だけ葉子に思い切り怒られた。
それは七海と比べても怒らないのに、金輪際許さないとキツく怒られた程で、「私は旭くんと居るのが幸せなの!何かにつけて「俺といて平気?」とか、「帰りたくならない?」とか聞かないで!絶対聞かないで!今度聞いたらその場で婚姻届を書いて貰うからね!」と言われた。
葉子も蒲生父を抜かす蒲生家も、結婚していいと言ってくれたが、俺は自分に自信がないので、せめて2年はこのままでと言ってある。
それもあって、随所で「俺は嬉しいけど、まだ間に合う」、「俺はいて欲しいけど、思い直すなら今だ」と聞く癖がついてしまって葉子を怒らせてしまった。
葉子と付き合った事はウチの親の耳にも入った…と言うか、蒲生父が何度目かの就活をして、心機一転働きに出た兄を見つけて、「お前!しっかりしろ!お前がしっかりしないと娘が不幸になる!」と絡んで、七海と別れて葉子と付き合った事をバラしてしまい、親からいつの間にと言われてしまった。
なんで知っているかを葉子に聞いたら、葉子の兄がウチの兄を知っていて、たまたま蒲生父と一緒に歩いている時に見かけて、蒲生父に「あ、彼が相田君のお兄さんだよ」と話したらしい。
蒲生家にプライバシーはあんまり存在しない。それは葉子が7年の間に、俺との事を泣いて打ち明けて、自分を変えたいと言ったことが原因の一つになっている。
なのに俺と家族の関係を知りつつも、商店街なんかで見かけると普通に挨拶をしてくれていたらしい。
だが蒲生父の恐ろしいところは、嫌がる兄と無理矢理電話番号を交換してしまって、「仕事は続いているか!?無闇に辞めるな!だが身体を壊すな!身体を壊すくらいなら辞めろ!辞めたら俺が勤め先を見つけるからな!俺はいつも見ているからな!いつまでも見ているからな!」と頻繁に電話をかけてくるらしく、電話に出られないとウチにまで突撃してくるほどで、迷惑な話になるはずが、母は感謝していて「葉子さんってあのお弁当の子よね?よろしく言ってね」と言っていた。
付き合ってほぼ一年。
俺は春になって、葉子に一応相談をしてから、七海にメッセージを送った。
[久しぶり。葉子からID聞いたんだ]
[やっとくれた。遅いよ旭]
[ごめん。連絡したら未練がましくなるからさ]
[知ってる。私の良さを再認識しちゃうもんね]
[本当だね]
[でしょ?だから旭は早く結婚して幸せになってよね]
[あ、結婚で言えば、葉子に付き合ったらすぐに同棲しろって言ったの、七海なんだって?]
[そうだよ。旭も蒲生さんもズルズルしちゃうし、旭がフラフラしてたら、私も今が嫌になって、大正解する旭に会いたくなったら困るもん]
[あの日はごめん。あれから何年も自問したよ]
[そんなのお見通しだよ]
[ありがとう七海]
[ううん。私こそありがとう旭]
[俺、あの後2年くらいファミレスの社員をしたけど転職したよ]
[うん。蒲生さんから聞いて安心したよ。休めてるみたいで嬉しいよ]
[だから次の同窓会では会えるかもね]
[そうだね。3人で笑って蒲生さんと旭の情報交換とかして、脇腹のほくろの話とかしちゃおうかな]
[え?同窓会で?恥ずかしいよ]
[だから、皆に見せつけてやればいいんだって。私はずっと旭と蒲生さんの友達だよ]
[俺もずっと七海の友達だよ]
[それでよし。私もこのメッセージを旦那に見せるから、旭も蒲生さんに見せるんだよ?隠し事はダメだよ]
俺は[了解]と言って終わらせようとすると[実はさ、一個大きな未練があって…]と入ってきて俺は心拍数が上がった。
七海は何か困っているのかと心配をすると、[旭のオムライスが美味すぎなんだよね。忘れられないし、食べたくなるし、お店で食べてもコレジャナイってなるの。コツとかあるの?]と入ってきた。
七海は疲れるとオムライスを食べたがる。
キスなんかと同じで、言われる前に出すと喜ぶので、繁忙期の休み前には結構な頻度でオムライスを出した。
今も疲れているのだろう。
[あー…。あれは難しいかな。七海と過ごした時間の分だけ、好みとかわかったから日々調整してたんだ。最後の方は卵は硬くなるギリギリ、人参は玉ねぎの半分の細かさ、鶏肉も挽肉でもいいくらい細かくして、下味を強目につけて、生姜を多めに入れて、一度冷まして馴染ませていたんだけど、全部体感だから説明難しいよ]
[…旦那にヤキモチ妬かせて作らせようかな]
旦那さんは大変だ。
俺は[料理人じゃないんでしょ?やめてあげなよ]と返して、メッセージを終わらせると葉子にそれを見せて大変なことになった。
「ヤキモチだよ!旭くん!」
「え!?何に!?」
葉子は真剣な顔で、「早稲田さんと比べて私に物足りないものを言って!」と言った。
まあないとは言えない。逆に七海に葉子と比べて足りないものを言ってと言われたら、優しく耳掃除してと言いたい。七海のは耳掃除ではない。掘削工事だ。
だが七海は七海、葉子は葉子。比べたとしても言うものではないと思って、口ごもる俺に掴みかかってくる葉子に、俺は諦めて「七海は俺が疲れた日とか察してくれて、「旭、お疲れ様」って言ってキスをしてきてくれたり、抱きしめてくれたりするし、買い物に行って食べたい物があった時に、言い出しにくいと「私これ食べたい!」って言ってくれて、半分以上くれたりしたかな」と言ってから、「葉子さんは察してくれて、優しくしてくれるけど、抱きしめてきてキスとか、食べたい物とか自分から買おうとか苦手だよね?」と言うと、唸りながら「…とりあえず、なるべく葉子で呼んで。「さん」はもう終わり」と言って、俺を抱きしめてキスをしてから、「私からされたら嫌かなって思ったの。私は旭くん…旭と一日中キスしたいから、私からしたら唇腫れちゃうもん」と言って赤くなってくれた。
俺はその全てが嬉しくて「葉子。すごく嬉しい。キスしてくれてありがとう。もっとしてよ」と言うと、葉子は止まらずに「唇腫れてもするからね」と言って、本当に一日中フレンチキスからディープキスまでしてきてくれた。
俺はつい調子に乗って、夜寝る時に葉子を抱きしめながら、「後さ、七海はエッチなお願いとか聞いてくれたけど…」と言うと、葉子は「えぇ!?そ…それは」と驚いてから、「下手くそでもいいなら」と言ってくれた。
その会話だけでも嬉しくて、「じゃあ俺たちの仲を作って、うまく行ったら結婚してくれる?」と聞くと「私は旭待ちです。早くしてください」と言ってくれた。
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