第9話 早稲田七海の言葉。
ゴールデンウィークも終わり、日常に戻り最初の水曜日。
早稲田七海とのランチの日。
この日を迎えるのは、少し心苦しくて怖くて気が重かった。
別に早稲田七海が嫌なのではない。
ただ、あの日組んだ腕の感触も身体に残り、写真おじさんの指示で、蒲生葉子と密着した時の肩にあった熱も身体に残っている。
フォトフォルダにはランドマークタワーで撮った早稲田七海との写真と、スカイツリーで撮った蒲生葉子との写真がある。
友達とはなんなのか?
彼女とはなんなのか?
自意識過剰は鈍感よりはマシと言ったがどうなのだろう?自意識過剰になって早稲田七海と蒲生葉子は俺に気があると思ってしまったら楽になるのではないか。
俺はその事をずっと考えていた。
早稲田七海からも蒲生葉子からも変わらずメッセージが入ってきて返信をする。
そんな日常がそこにはあった。
10日ぶりの早稲田七海は元気よく、「おーい!こっちー!」と俺を呼ぶと、自然に「また学校が始まっちゃったねー」と話しかけて来る。
俺は腕を組むかと思ってつい左側を意識すると、ニヤリと笑った早稲田七海は「お、腕を組みたいかな?」と言って、「今度はきちんと相田君から誘うんだよ」と言いながら俺の腕に腕を絡めてくる。
「え…、あ…。学校の友達とか平気?」
「平気だよ。噂になったら腕組んで学校の周りを回ったり、待ち合わせ場所を学校の前にして見せつけるって。さあ、お昼行こうよ」
この早稲田七海の力強さの頼もしさと安心感は、本当に居心地が良くて勘違いしたくなる。
今日は定食屋さんのビュッフェランチ。
煮物から焼き物から野菜まで小鉢や小皿で用意されていて、好きに取って食べるタイプで楽しむことが出来た。
早稲田七海は「全種類食べたいけどキツいなぁ。私は気にしないからシェアしない?」と言って、なんでも取ってきて「食べよ」と言う。
それは俺の思う恋人同士の付き合い方で、赤くなると早稲田七海は嬉しそうに笑って、「照れなくていいよ。皆に見せつけてやりなよ。相田君は普通だよ。周りの言葉に騙されちゃダメだよ」と言うと、ひじきの煮物を食べて「これ好きかも。作れるようになってよ」と言ってくる。
片っ端から食べて、片っ端から「作れる?」、「作って」と言われる度に、俺は「頑張るよ」と言って食事を楽しんだ。
外に出ると「少し歩こうよ。食べ過ぎちゃった」と言われる。
駅周辺を散策しながら沢山話をした。
早稲田七海は腕を組んで歩きながら、「さっき言った、周りの言葉に騙されちゃダメな奴だけどさ、相田君の見た目は普通で、ことさら変な事なんてないからね?」と言った。
さっきも言われて気になった。
俺は顔に出るのか、早稲田七海は「なんか中学の時も、目黒とか墨田が皆を先導して、楽し気に相田君の見た目を悪く言って揶揄っていたけどさ、あんなの気にしないで良いんだよ」と続けると、「本当だよ?」と微笑む。
もっと聞きたくて黙ってしまうと、「目黒はよくわかんないけど、自分1人で笑いが取れないから、注目を集めたくて人を悪く言うだけ。墨田のやつは真由…覚えてる中野真由?真由が好きだったのに自分からは話せないの。なのに相田君は誰彼構わず仲良しで、真由とも話すからヤキモチを妬いていただけだよ」と言う。
そんな事を知らなかった俺は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で早稲田七海を見ると、「マジ?その顔はどれ?墨田の話?目黒の話?どっちも初耳で驚いてるの?」と言うので、頷いて「見た目に関しては、家でも悪く言われるから、ずっとそうなんだって思ってた」と言うと、「また家?なんで?家族なのに足引っ張るとかおかしいよ」と怒ってくれた。
その後で「まあ服装は無難な色の服しか着ていないから、今度買いに行こうよ」と言ってくれて洋服を買いに行く事が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます