第8話 蒲生葉子と過ごすゴールデンウイーク。

5日の蒲生葉子はハイテンションだった。

朝一番に駅で待ち合わせると上野まで行く。

上野に着くと「モーニング食べよう」と言い、言われるがままにハンバーガー屋の朝メニューを食べるのだが、「のんびりでいいよね?」と聞かれて、のんびりとモーニングを食べる事になる。

あんな長時間ハンバーガー屋に居るとか、すごいな女子。

その後は、不忍池の周りを散歩してから科学博物館に入る。


朝の不忍池なんて初めてで、のんびりと歩いてみると「今度は上野動物園に行く?」と聞かれて、「それも面白いかもね」と返事をした。


科学博物館も面白かったが、やはり社会科見学状態で個人的に盛り上がりに欠けると、蒲生葉子は「次行こう」と言って、地下鉄を乗り継いで東京スカイツリーに来てしまった。


「スカイツリー?」

「うん。旭くんは来たことある?」

「ないよ。蒲生さんは?」

「私は下の商業スペースだけ」


俺達は商業スペースでお昼ご飯を食べる事にしたが、さすがは人気の観光地、コレでもかと混んでいる。

それでも食べたいと言われた俺は、蒲生葉子の体調を考えてあまり重たいものにしないように気をつけたが、結局混雑具合と蒲生葉子の要望でお好み焼きになった。


蒲生葉子は並ぶ列でも退屈しないように色々と話してくれる。

今回は風邪で寝込んで苦しんだ話がメインだった。


「あ、そう言えば風邪薬嫌いなの?」

「…お母さんに聞いた?」


俺が頷くと、恥ずかしそうに「お母さんめぇ」と言う蒲生葉子は可愛らしかった。


話を聞くと、子供の頃は子供薬が甘くて変なにおいで飲めなくて、大人の薬は苦くて嫌だった事、それを経て薬嫌いになった蒲生葉子は、「でも今回は飲めたんだ。もう薬は怖くないよ」と言うので、「でも風邪はひかないでね。苦しいのは見てて辛いからね」と言うと、小さく「旭くんがそれを言うかなぁ?」と言われたが、聞き返すと「何でもないよ」と言われた。


スカイツリーに登ると展望台は豪華だったが、あいにくの曇天で景色はあまり良くない。

それでも蒲生葉子はテンション高く楽しんで、写真を撮ろうと言ってくれる。


2人で写真を撮っていて、蒲生葉子が不満気に「天気の日に勝てない」とぼやくと、横に居たおじさんが「いやいや、スナップ写真なら問題ないんだよ」と話しかけて来る。


「晴れの日は、逆光になってしまって人の顔がわかりにくかったりするけど、曇りの日なら室内の方が明るいから、ちゃんと綺麗に撮れるよ」と言って、首から下げた高そうなカメラを使って撮った写真を見せてくれる。


「私はよくスカイツリーに登るんだ。曇りの方が人の顔はよく見えるよね?それに反対側は大分雲が薄いから景色も見えるし、途中は雲の中に居るような景色だから、それを楽しんで」


そう言ったおじさんに、蒲生葉子はスマホを渡すと「撮ってくれませんか?」と頼む。スマホを渡されたおじさんは、照れくさそうに笑うと「任せて」と言って、俺と蒲生葉子の写真を撮ってくれた。


おじさんは高そうなカメラを首から下げるだけあって詳しいのだろう。

「もう一枚撮らせて。少し離れたところで撮るからね」と言って撮ってくれた写真は、「スカイツリーで撮りました」というのがよくわかる素敵な写真だった。


蒲生葉子はそれに喜んで、「わぁ!凄いです!ありがとうございます」と言ってお礼を言うと、「ううん。私も喜んで貰えて嬉しいよ」と言って立ち去りながら、何かが見えたのか、急にカメラを構えて何かを撮るとガッツポーズをしていた。


「写真って面白いね」

「本当だね。もっと沢山撮ろうよ」


俺達はスカイツリーの中で写真を撮って、夜になると夜景をバックにもう一度撮ると外に出る。

外から見たスカイツリーは曇りでも綺麗で、写真を撮っていると蒲生葉子は小走りでどこかに行ってしまう。


俺は「蒲生さん?」と言いながら蒲生葉子を追いかけると、そこには展望台で会ったカメラおじさんが熱心にスカイツリーの写真を撮っていた。


蒲生葉子は「おじさん。すみません」と声をかけると、おじさんは嬉しそうに「また会ったね。今から帰りかい?」と言う。


「はい。またお願いしてもいいですか?」

「勿論だよ」


おじさんは嬉しそうに俺と蒲生葉子に立ち位置を指定して立たせると、おじさんは這うようにしゃがんで下から撮ってくれた。その写真は俺たちとスカイツリーが程よく写る。

その後は良くある感じの撮り方なのに、「スカイツリーで撮りました」とわかる写真を撮ってくれた。


「君たちは恋人同士?お友達同士?」

おじさんに質問の意味を聞くと、「恋人同士なら、もっとくっつくと良い写真が撮れるんだよね」と言ってきて、蒲生葉子は「良い写真が見てみたいからお願いします!」と言い、照れる俺を無視しておじさんの指導で肩を寄せ合い、顔を近づけてスカイツリーと撮ると素敵な写真になった。


おじさんは「お似合いだ。良い写真を撮らせてくれてありがとう」と言うと、手を振ってスカイツリーの撮影へと戻っていった。

俺はお似合いと言われた事に照れてしまったが、蒲生葉子はシレッとしていて、俺の勘違いなのかなと思ってしまった。


明日からまた日常に戻るので、早く帰った方がいいし、蒲生葉子が風邪をぶり返すと良くない。

その事を言いながら夕飯の話をすると、「早稲田さんとはどうしたの?」と聞かれたので、地元のファミレスで食べた話をすると、別のファミレスに行こうと誘われた。


別に構わないけど、連休中に2度も夕飯をファミレスで食べる事になるとは思わなかった。

2人して今日撮った写真を見ていると、俺は照れ臭くて赤くなったが、蒲生葉子は赤くならずに、「あのおじさんに会えて良かったよね」と言っていた。

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