第7話 蒲生葉子のゴールデンウィーク。
連休2日目、月餅を持って蒲生葉子の家に向かう。
チャイムを鳴らして家族の人が出てきたら、月餅を渡して帰ろうと思っている。
まあ緊張する。
女子の家のチャイムなんて鳴らした事もない。
チャイムを鳴らして出てきたのは、蒲生葉子の母親だった。
俺を見て一瞬固まる蒲生葉子の母親は、「あー……、相田君!相田…」と言って、名前を思い出そうとするので、「相田旭です。こんにちは。これ、蒲生さんに渡してください。食べられたらで、無理に食べないでと俺からも連絡入れておきます」と言って月餅を渡す。
蒲生葉子の母親は月餅を見て、「あら月餅?どうしたの?」と聞いてくるので、「元々約束をしていたんですけど、熱が出たという事で、残念がっていたので元気出してもらいたくてお見舞いです」と説明をすると、蒲生葉子の母親は知らなかったのかニヤッと笑うと、「成程」と言って「葉子!」と呼ぶ。
「え…寝かせてあげてください。俺は帰ります」
「うつしちゃ行けないから帰るのは賛成よ。でもあの薬嫌いが薬を飲んで、頑張って寝て治そうとしたんだから、これくらいはね。呼ばないと後で私が怒られるのよ」
家の奥から、「何?」と不機嫌そうなガラガラ声が聞こえてきて、蒲生葉子の母親は「月餅よ」と言う。
「何それ」と言いながら玄関まで来た蒲生葉子は、「え!?旭くん!?」と驚くと、慌てて奥に引っ込んでカーディガンを羽織って出て来ると、髪型を気にして指先で直しながら「旭くん?どうしたの?」と聞いてきた。
「寝てたのにごめんね。これ、お見舞い。食べられたら食べて治して」
その言葉に合わせて母親が月餅を見せると、「月餅…?ありがとう」と言って蒲生葉子は月餅を受け取る。
「じゃ、またね」
「え?帰っちゃうの?」
慌てる蒲生葉子に、蒲生母は「うつして治したい?」と聞き、蒲生葉子は「違う。そう言うのじゃ」と返してから、「そうだね。うつしちゃ悪いよね。ありがとう旭くん」と言って見送ってくれた。
俺はスマホを見せて「話すと喉に悪いから、あ…のど飴買えば良かった。メッセージなら出来るから、暇潰しに送ってくれたら返事するよ。横になって早く治してね」と言って帰ると、早速[ごちそうさま。おいしかったよ]とメッセージが入ってきた。
[早速食べたんだ。食べられて良かった]から始まるメッセージ。
蒲生葉子は月餅の出所を気にして、1人で横浜まで行ったのかを聞いてきたので、たまたまランドマークタワーのタダ券を貰った早稲田七海に連れて行ってもらった話をして夜景の写真を送る。
急に止まるメッセージのラリー。
寝たかなと思っていると[私、最終日の5日までには治るから、5日に出かけよう!]とメッセージが入ってきた。
[治るって…、無理してもぶり返すよ?]
[治るよ。だから私も出かけたい]
なんたる熱意。
まあゴールデンウィークが全て布団の中は辛いのか…。
今年は1日が土曜日だから5連休だし、5日までにはなんとかなるかな?
[わかったよ。じゃあ5日ね]
[うん!絶対治すからね!]
そんなに遊びたくなるとは…。
悪いことをしたなと俺は思った。
まあ明日以降も、雨こそ降らないが天気は曇りだし、科学博物館なら蒲生葉子が風邪をぶり返さない所だろうからと安心していた。
だがまあ甘かった。
4日の夜に蒲生葉子から届いたメッセージを見て、俺は「はぁ?」と言ってしまう。
[旭くん。明日は朝7時に駅ね]
…朝早くない?
[そんなに早く科学博物館やってないよ?]
[いいの。ダメ?]
[蒲生さんが熱出さないか心配]
[それは平気だよ。すぐ土曜日だもん!]
まあ蒲生葉子も立派な大人。
ここまで言っても聞かないのなら、本人の自己管理能力に任せようと思い、俺は了解と返すと、[朝ごはんも食べようね]と言われて朝7時に納得をした。
俺はまた両親に「明日のご飯はわからないから」と伝えて早寝をすると、また偽アドバイス野朗の兄が部屋に突撃しようとして、部屋が真っ暗な事に舌打ちをしていた。
何だアイツ。足引っ張らないと死ぬのか?
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