第6話 足りない自信。

もう成人にはなっているが、なんとなく二十歳になっていないので、早稲田七海を早めに帰した方がいいと思って、「帰りは横浜で食べる?地元で食べる?」と聞きながら、帰りの方向に話を持っていくと、「帰りたいの?」と聞かれた。


「早稲田さんの門限とかわからないけど、遅くなるとご両親が心配するかなって思って」


俺の言葉に「変な心配するなぁ。平気なのに…」と返した早稲田七海は、「帰って地元で食べよう」と言った。


俺はなんとなく、今も寝込んでいる蒲生葉子を思い出して、お土産に月餅を買うと、早稲田七海は「家族に?」と聞いてきた。


「家族には買わないよ」と返してから、「蒲生さんに」と言うと、「え?」と聞き返されたので、「ああ、今日出かける約束をしてたけど、風邪で寝込んでて行けなくなったからお見舞い。気にしなくていいのに、電話してきて謝ってたんだよね」と答えた。


俺の説明が悪かったのか、早稲田七海から「なんで?蒲生さんと仲良いの?」と聞かれた。


俺はお土産とは別で買った月餅を一つ早稲田七海に渡して、俺も一つ食べながら「仲良いって言うか…」と言いながら、片手でスマホを出して、ツツジの写真を見せながら「ウチの犬を可愛がってくれてたんだよね。それで亡くなった事をこの前の同窓会で話したら、ウチまでツツジの好物を持ってきてくれたんだ。そこで連絡先を交換したから、出かける話になったんだ」と説明する。


「蒲生さん、犬好きだったんだね」

「うん。なのにさ、木田の所のフレンチブルドッグ、きなことは会ってないんだって」


「え?相田君って木田さんとも仲良かったの?」

「え?なんか蒲生さんにも聞かれたけど、木田の所のきなことは仲良しだけど、木田は散歩中は俺のことを知らない人扱いするし、きなこを触らせてくれたのは、木田の母さんだよ」


俺はそのまま気になっていた、「女子達ってそんなに仲良くしてないのな。蒲生さんにもきなこを見て欲しかったんだけどさ」と言うと、早稲田七海は笑いながら、「男子だってそんな感じだよ?相田君が1人で皆と仲が良いだけだよ」と言った。


「そう?まあいいや。早稲田さんは犬好き?好きならきなこに会って欲しいけど、今もきなこは元気なのかな?」

「木田さんとはあんまり話さないから知らないよ。犬は嫌いじゃない。でも飼った事もないし、周りには飼った友達もいなかったよ」


俺達はそのまま犬の話をしながら帰り、途中からどうして犬を飼う事になったのかから、兄が小狡い人間で、ツツジの名前を勝手に決めたのに、世話一つしなかった事を話したら滅茶苦茶怒ってくれた。

徐々に混む電車の中で、カップルに間違われて身体が近づく中でも、早稲田七海は気にせずに、「頑張って偉いよ!怒っていいやつだからね」と言ってくれた。


最寄駅に着くと、早稲田七海は「相田君は偉いから腕を組んであげよう」と言って、わざわざ腕を組んでファミレスまで歩く。

なんか照れたし、それ以上にこの姿を見た連中が、早稲田七海を悪く言ったら嫌だったのだが、早稲田七海は「逆だって、見せつけるんだよ」と言って手を離さなかった。


ファミレスでも俺の思う彼女のような振る舞いを見せる早稲田七海は、「自信持ちなって。中学のメンバーでいえば品川より素敵だって」と言う。

品川…、品川憲はガキ大将で、スクールカースト上位にいた男で、今この場にわざわざ名前が出て来るなんて思わなかった。

素敵と言われてもピンとこない。

今でこそ違うと思えるが、中学時代は女子は全員品川憲の事を好きだと思っていた。


俺がそんなことを思っていると、早稲田七海は「相田君に足りないのは自信だよ。周りから変なアドバイスをされて卑屈になってるの。普通のことをして、自信をつけなよ」と言って、俺のハンバーグを奪い取るように食べると、自分のエビフライを俺に「ほら、あーんだよ」と言って押し付けて来る。


俺は照れて周りを見ながら食べると、緊張で味なんかわからないし、揚げたてのエビフライは熱々で口の中を火傷したが、熱さも最初はわからないくらい緊張していた。


早稲田七海は俺がかじったエビフライの残りを食べながら、「ねぇ、エビフライとかハンバーグも作れるの?」と聞いてくる。


「そのうち習うんじゃないかな?」

「そうしたら作ってよ」

「うん。でも出来立ては無理かな?」

「なんで?」


俺が「早稲田さんにあの親とか兄さんは会わせたくよ」というと、早稲田七海は「見せつければいいんだよ」と言って、ドリンクバーだから飲みたければ取ってくればいいのに、わざと「メロンソーダ、ひと口ちょうだい」と言って俺のストローで飲んで、「私のオレンジジュースも飲みな」と言ってコップを押し付けてきた。


自意識過剰を目指しても、やはりこれは照れた。

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