第28話 (最終話)次の同窓会。

七海は嬉しそうに「あ!蒲生さんだ!」と言うと、「久しぶり。会うのは3年ぶりだね。先に紹介させてね。この人が婚約者の小菅大樹さん」と続けて、小菅大樹を紹介する。

小菅大樹もこの状況でよくやると思ったが、キチンと葉子に挨拶をしてくれる。


そして「ちょっと待ってね」と言って、オムライスを食べてカフェオレを飲み干して「美味しかった」と、嬉しい時の顔で言った七海は、口を拭いて席を立つと、葉子の手を取って「旭をよろしく」と言い、葉子は目に涙を溜めて頷くと、「旭をありがとう」と言った後で、感極まって七海に抱きついていた。


七海は葉子が俺を旭と呼ぶようになっていた事に喜んでいて、俺はそこに「七海が帰る前に、間に合ってよかったね」と葉子に話しかける。


葉子は泣いたまま「うん。旭に自信をくれたのは早稲田さんだから、お礼が言いたかったの」と言うと、七海は「えぇ?それならずっとメッセージでくれてたよ?」と言う。


「直接言いたかったの」

「真面目だなぁ。旭にそっくりだね」


あまり話し込むわけにはいかないので、俺は「オムライス、どうだった?」と聞くと、七海は「美味しかったよ!元気出た」と笑顔で言った後で、少し困惑した顔で「思い出補正かな?昔はもっと美味しく感じた気がしたんだけど…。それとも大樹といて舌が肥えたかな?」と言って皿を見る。


小菅大樹が「失礼だよ七海」と言いかけたのを遮る形で、俺は笑いながら「それは3年の溝だよ。3年前の七海の好みで作った味だから、七海はあの時ときっと変わったんだ。虫歯治療とかでもいいし、食べ物の好みが変わったでもいい。その変化を、一緒に暮らしていない俺は埋められなかったから、その証拠だよ」と説明すると、「そっか、旭も私も成長したって事だね」と七海は言う。


「うん。お互い前は向いているけど、方向は違うから仕方ないね」


俺の言葉に七海は嬉しそうに微笑んで、「ありがとう旭。握手しよう」と言ってから、小菅大樹と葉子に「いいよね?」と聞く。


2人が頷いてから、「これからもよろしくね旭。またオムライスの禁断症状が出たらくるよ。その前に最近の食の好みとか送るから、補正をよろしくね」と言う七海と俺は握手をした。


七海の手は何度も握り合った手だったが昔とは違って居た。


俺はそのまま小菅大樹にも、「変な状況ですみません」と言って握手をすると、「いえ、安心しました。ヤキモチを妬いた自分が恥ずかしいです」と言ってくれたので、「適材適所です。どうぞ料理は無理しないでください」と言っておいた。


七海は帰り際に「長くいると、旭は私に未練が生まれちゃうし、大樹と蒲生さんはヒヤヒヤしちゃうから帰るね」と言って、小菅大樹に密着してドアを潜ると、「今日は帰ったらずっとくっつくからねー」、「恥ずかしいよ七海」と聞こえてきた。


俺は葉子に「何か食べていく?葉子はオムライスよりオムレツだから作るよ」と言って出す。

葉子はオムレツとオレンジジュース。


この組み合わせを喜ぶので用意をすると、「わぁ、家で食べるのより美味しいよ?」と喜んでくれる。俺はドヤ顔で「それは俺が葉子の好みを理解しているからなのと、店なので食材が豊富なんだよ」と言って、厨房を見せるように説明をする。隠し味程度にしか使わない食材を、家では買っていられないから仕方ない。



「そっか、早稲田さんはもうコレが食べられないんだね」

「うん。俺と七海は3年前に終わったからね」

「帰ったら彼氏さんにくっ付くって」

「言ってたね」


葉子は「私も帰ってくるの待ってるから、早く帰ってきてね!」と言うと、バイト達に「お騒がせしました」と挨拶をして帰って行った。


バイト達は学生時代の店長達のような顔で、「店長の認識を改めますわ」、「な、彼女と元カノと元カノの婚約者が、店に来るとかヤバいよな」と言った後で、別のバイトが「元カノさん、店長の事をまだ好きみたいじゃなかったですか?」と聞いてきた。


「うん。俺もそう思う。でも俺は彼女と居るからそれはないよ」

「なら何で別れたんですか?」


俺はその質問をしてきたのが調理の専門学校に通うバイトだったので、「俺が悪いんだよ。飲食業は大変な世界だからね。彼女に無理を強いてしまったんだ。彼女は俺が死なないように、別れを選んでくれた。君もこの世界に来るんだったら気をつけるんだ。来年の就活の時には、アドバイスをするからね」と言っておいた。


俺はそんな格好をつけても中身は変わらない。

葉子は七海に触発されたのか、仕事終わりの俺のスマホに一枚の写真を入れてきた。


その次にメッセージが書かれていて、[これを着て待ってます]とあった。


俺は慌てて写真を見なおすと、普段葉子が触れる事もないセクシーな下着と、フリルのついたエプロンがあった。


裸エプロン?


俺はバイト達の「店長、もっと恋愛の話とかしてくださいよ」を、「すまない。今日は無理だ。彼女のケアが必要だ」と言って、戸締りを済ませてさっさと帰った。


葉子は真っ赤な顔で、裸エプロン姿で俺を待っていてくれた。

帰宅した俺に抱き着いて、「たくさん思い出を作って、相田葉子で次の同窓会に出るからね!」と言う。


同窓会か。

次は何で呼ばれるんだ?早い奴は子供が小学生とかだから、進路自慢かなにかか?それとも30未婚を揶揄する目的か?


俺は今日みたいに七海と葉子と会えれば十分なのだが、葉子も七海も同窓会には出たがる気がしていた。


(完)

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