第24話 七海からの問題と旭の正解。
驚く俺を見て、葉子は話を続ける。
「驚いたよ。早稲田さんから連絡を貰って、ドキドキしながら駅前の喫茶店に顔を出したら、「相田君の事好きなの?」って聞かれて、返事に困っていたら「私も!」って言って笑うんだよ。本当に驚いたよ」
これには俺は冷静で居られずに、「え?」と聞き返すと、葉子はムサシを俺に渡してきて、ムサシは俺の手を舐めながらじゃれついてくるので撫でて遊ぶ。
「すごい顔だよ。本当だよね。私も驚いたらさ、早稲田さんってすごく前向きで、「付き合う付き合わないは後にしてさ、相田君を助けよう」って言うんだよ。「相田君は、家や墨田君達に悪く言われて自信を無くしてるどころか、自信なんて初めから無いから、自信をつけさせてあげたいから、たくさん遊びに行こう。でもお互いが通じてることがバレると、何もかもダメになるから内緒だよ」って言うの。私が驚いていると、早稲田さんは笑ってから「後はこれ絶対ね。私が相田君と付き合っても、蒲生さんが付き合っても、恨みっこなしね」って言って握手を求めてきたの。勝ち目ないなぁって諦めて、いつから好きなのかの話になったんだよね」
俺は聞いていてその場が容易に思い浮かんだ。
七海の事だ、あの笑顔で目を丸くする葉子を見て、笑いながら同じ土俵に引っ張り上げてくれたのだろう。
「いつから好き?」
「それは言わない約束だから教えないよ」
俺が頷くと、葉子は「この前の同窓会、私は出たんだけど、早稲田さんも旭くんも来なかったから、その事を早稲田さんに伝えたら、[ねえ、まだ旭の事好き?好きなら告白しなよ]って背中を押して貰えたの」と言う。
「え?七海と連絡?元気してた?」
「してたよ。でも、教えていいのはそこまでって言われてるんだよね」
「そこまで?」
「うん。女同士の秘密。でもこの話は早稲田さんから、仮に旭くんに問題を出して答えられたら、代わりに話してって言われてるんだ。問題聞く?」
俺は更に冷静ではいられなかった。素直に頷くと、葉子は七海の真似をして「旭へ、なんで私が別れを選んだか、キチンとわかるかな?わかったら蒲生さんから近況とかを聞いていいよ」と言った。
俺は葉子を見ながら、その先にいる七海を見るように、「あの日、あの時、俺には余裕が無かった。七海は俺と一緒に前に進みたかったのに、俺は七海を幸せに出来ると決めつけて、自分を犠牲にする働き方をした。七海からしたらそれが辛かったんだ。キチンと話すことも、頼ることもせずに1人で無理をしたことが辛かったから、七海はウソの理由で別れを切り出した。ウソの理由の中にあった、同じ方を向く、これは真実だと思ってる。同じ方を向けなくなっていてごめん」と言うと、葉子は涙を流して「ずるいなぁ。通じ合ってる」と言った。
「大正解だよ。早稲田さんは男の人からの誘いなんて全部断ってたよ。旭くんが早稲田さんの為に、キツいファミレスの社員の仕事でボロボロになりながら、早稲田さんに幸せな仕事をしてもらいたいって思っているのが嬉しかったし辛かったって、あのまま付き合っていたら甘えちゃうし、旭くんが潰れちゃうって思ったから別れを選んだってさ」と言うと、スマホを取り出して「これ」と言って見せてくる。
そこには七海とのメッセージで[もし旭が言い当てたらこれを読んで]と言って今のメッセージが書いてあった。
その下には[もしもさ、大正解だったら近況とかを伝えてよ]と言って続きが書かれていた。
[旭へ、きっと蒲生さんなら、読み上げるんじゃなくてこれを見せてると思う。大正解したんだね。ありがとう。嬉しいよ。そしてすごく残念。私が重荷になって旭の上で、旭を踏み台に自分だけ楽な道に進むのは嫌だったんだ。旭の優しさはわかるよ。でもボロボロになりながらご飯を作ってくれる旭を見てるのは辛かったんだ。すごく残念なのは、私は婚約をしました。あの後、実家に帰って親の世話になりながら転職をして、少しだけマシな会社に入って、そこの同僚の人が婚約の相手です。悪い人ではない、優しいし仕事に理解もある。同じ業種だから苦しみもわかってくれる。私の兼業主婦の話も受け入れてくれた。でも、やはり私の1番相性が良かった人は旭だった。今でもあの日の決断を悔やむ時があるけど、もう終わった話だから受け入れる。私の番は終わり、今度は蒲生さんの番。私達は交互に旭に会って、被らないように旭と会った。私と旭は付き合った。だから今度は蒲生さんの番。幸せになってね]
俺は驚いて葉子を見ると、葉子は泣いたまま「読んだ?早稲田さんは今でも旭くんが好きみたい。でも今は私の番だよ」と言って抱きついてきた。
「長かった。7年間辛くて寂しかったんだからね。早稲田さんと比べられてもいいから私といて」
葉子はそう言うとムサシの散歩をしようと俺を誘って立ち上がった。
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