第12話 クリスマスイルミネーション。
俺の冬は大変だった。
バイト先に言わせれば「贅沢な悩み」で、店長からは「そのうち刺されるぞ?」と言われた。
クリスマス前の土曜日に、朝から横浜に行き中華を食べた後でショッピングをして、「直接贈らせてよ」と言って蒲生葉子にクリスマスプレゼントを渡すと驚かれたが、「バイトしてるから平気。誘ってもらえたお礼」と言って受け取ってもらう。
プレゼントは蒲生葉子らしく、あまり値の張らない手帳だった。
「毎年買ってたけど、最近はスマートフォンもあるし、今年は買ってなかったんだよね。でもせっかくだから。この手帳は毎年色んなデザインのカバーが出るから選ぶのも楽しいんだよ」
「そうなんだ。良かったよ」
ランドマークタワーに向かって歩くと、冬の景色がとても綺麗で浮足立ってしまう。
去年の俺は今ここに蒲生葉子といるなんて夢にも思っていない。
進路の事で悶々としていた。
夜、寒い中のイルミネーションは本当に綺麗で、2人して「スカイツリーにいたカメラおじさんがいたりして」と言って笑い合った。
近くにいたカップルに頼んで写真を撮って貰うと、俺達も写真を撮り返して記念にした。
とても楽しい時間の中で、蒲生葉子は「お父さんにも困っちゃうんだよね」と漏らす。
「お父さん?どうしたの?」
「外出を良しとしないんだよね」
蒲生葉子に言わせると、心配性で子煩悩の父親が蒲生葉子を溺愛していて、外出する日は心配でたまらなくなり、大好きな晩酌も控えてしまうと言う。
「じゃあ今日も?」
「お母さんは休肝日の為にもイケイケって送り出してくれたよ。でもクリスマスも大晦日とお正月はダメだからなだって」
蒲生葉子は不満気だが「でも旭くんが食べ物屋さんのバイトで忙しいから、ちょうど良かったよ」と言った時に、俺はドキッとして聞き返してしまった。
「イベントごとの日に出かけられないと、付き合い悪いって言われるけど、旭くんも私も用事あれば言われないからさ」
俺は友達として言われたと解釈して、「うん。そうだね。俺も誘ってもらえて良かったよ」と返すと、イルミネーションを満喫して写真を撮って帰った。
夕飯はどこも混んでいて、横浜は無理だったので地元に帰ってから、少し遅かったが食べに行って2人で撮った写真を見せ合った。
翌週の水曜日は早稲田七海と学校帰りに待ち合わせてお昼を食べる。
「しゃぶしゃぶ食べ放題行こう」と言う早稲田七海の言葉に従って、のんびりと食べると「夕方に神宮外苑に行ければいいから散策しよう」と言われるので、素直に従って散策すると、カジュアルなアクセサリー屋の前で早稲田七海がネックレスを見てうっとりした顔をしている。
値段を見たがそんなに高くない。
蒲生葉子にもプレゼントをしたし、早稲田七海にもするつもりだった。
蒲生葉子を基準にすると高くなるが、元々予算より安いのが蒲生葉子で、予算より高いのが早稲田七海。2人を合わせると予算的にはそんなに問題ない。
結局マイナスアドバイスに晒された俺は金の使い道もそんなにない。
漫画本を買えば「それよりこっちの漫画にしろ」とか言われるし、インテリアを買っても、自室に置くのに「邪魔臭い」と言われる。
何を買ってもケチが付く。
性能のいいスマホやパソコンなんかでもと思った事はあるが、あの両親なら兄にも使わせてやれと言いかねない。
そのうちに買い物一つ満足にできなくなっていて、バイト代は貯まる一方だった。
俺はその過去を振り払う為にも、「それがいいの?」と聞くと、早稲田七海は「え?」と聞き返してくる。
「いいよ。クリスマスプレゼント。俺からで嫌じゃなければ、今日誘ってもらえたから」
「なんか引っかかる言い方だけど嬉しいよ。こっちの水色の石の付いたやつ!」
早稲田七海は飛んで喜んでくれてプレゼントの贈り甲斐がある。
俺も嬉しい気持ちで買うと、店員さんから「彼氏さん、ギリギリですか?もっと早くに買ってあげてくださいね」と言いながら渡されて、俺は返事に困ってしまう。
早稲田七海は「着けていい?」と言いながら着けると、「似合う?」と言って鏡を見て、自分で「似合う」と喜んでいた。
早稲田七海はマジックアワーを好んでいて、間に合うように神宮外苑に着くと、スマホで写真を撮ってみたり目で楽しんでみたりする。
それを微笑ましく見ていると、「もう、ここは迷子になるなって言って、腕を組むところだよ」と言われて腕を組んで歩き、近くのカップルに写真を頼むとツーショット写真を撮って「良い出来」と喜ぶ。
カフェの出張販売でコーヒーを買って空いたベンチに腰掛ける。
2人でイルミネーションを眺めながら時間を気にせずに見ていると、早稲田七海が「綺麗だね」と呟き、俺は横で頷きながら「本当だ」と返す。
「あんまり聞きたくないけど、さっきのプレゼントの時の話。俺からでとか、嫌じゃなきゃとか、良くないよ。相田君は普通なんだよ。後はお金大丈夫?」
俺はもう早稲田七海に、家の話をすることに抵抗が無くなってて、代わりに怒ってもらえる事を何処か期待してしまい、お金を使えない話をすると「また!?なにそれ!?良くないよ!欲しいものとかないの!?」と怒ってくれる。
「欲しいものは忘れちゃったよ。でも今日は嬉しかったよ。俺の買ったもので、あんなに喜んでくれて嬉しかった」
俺が笑いながら言うと、早稲田七海は俺を抱き寄せて「バカ。欲しいものができたら買う。恥ずかしくない。相田君は普通なの。怒っていいし泣いていいんだよ」と言ってくれた。
言ったら怒られそうだけど、早稲田七海からはコーヒーの中にうっすらとしゃぶしゃぶの匂いがした気がした。
翌日、店長から「どうだった?」と聞かれて簡単に話すと、「次は年末年始だけどお弁当ちゃんは日にちずらしてくるだろうから安心だな」と言われた。
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