同窓会。自信のない俺が再会した2人の元同級生。

さんまぐ

第1話 自信のない男の独白。

自分の顔に自信がない。

自分の生き方に自信がない。

とにかく自信がない。


多分周りに恵まれなかった。


他責思考に陥る気はないが周りに恵まれなかった。

家族や友人から容姿を悪く言われ、進学先に口を出され、買い物一つ満足にできない。

バイト先から、初のバイト代の使い道まで口を出された時には、気持ち悪さもあったが、それを見ている周りが何も言わないので、そういうものかと受け入れた。


だが今の時代にはインターネットがある。

ネットを見ていると自分が異質な環境にいると知った。


自分の18年を振り返って愕然とした。

そしてもう手遅れだった。


人生80年からしたら取り戻しはきく。

だがもう手遅れだった。


周りに言われるまま、おかしいと思いながら進路を決めた。

意思決定は自分にあったと周りは言うだろうが、YESと返すまで延々と口を出された中で、何が自分の意思だったのかと思うと、それは違っていて愕然とした。


高校を卒業した俺が行くのは調理の専門学校。


個人的には潰しのききにくい業界。

飲食店は世の中に溢れているから潰しはきくが、先を求められても他業界には行ける気がしない。


これも兄を含めた家族達から、「衣食住に関わる仕事につける業界にしろ」と言われたし、口うるさい友人と進路の話になった時、「お前の頭じゃ大した大学に行けないんだから、大学なんて行くな」と言われた。


なんて心無い言葉だと思ったが、親しい人間は誰も否定も同情もしなかった。


それで仕方なく進路先を専門学校に絞ったら、「まあ資格でも取ればマシになるんじゃないか?」なんて言われた。


衣食住で考えて衣服・裁縫に関わる仕事をする自分にイメージがわかなかった。

洋服のデザインとか無理だと思ってやめた。


住居、住宅に関わる仕事にしても、土木工事の仕事は向いていない。荒々しい血の気の多い人と働く事は向いていない。リフォームの仕事とかリノベーションも流行っていて、格好いいと思うがやはり出来る気がしなかった。


そうなって残った飲食の仕事なら、まだなんとかなると思って進学先に決めた。

高い入学金を払い、目が飛び出る思いで高い包丁なんかを買って、高校卒業を間近に控えた頃、中学校時代の同窓会の話が回ってきた。


同窓会の話を聞いた時に、幹事役から呼ばれて打合せに参加をした。

その際に打合せは半分くらいで、残りは進路の話になった。

話題に大学の話が出て、周りの話を聞いていると、自分が行けそうだと言われた大学より、偏差値の低い学校に行くという奴も居たが、誰も否定しなかった。

専門学校の話をした時に「大学にしなかったの?」と聞かれて、「お前の頭じゃ大した大学に行けないんだから、大学なんて行くな」と言われた話をしたら、久しぶりに会う元クラスメイト達は、「酷い話だ」、「鵜呑みにしないで、行きたいところに行くべきだった」と言ってくれた。


ここで初めて違和感を持ち、「ネットでもそういう話は見聞きするから、自分の目で見てみなよ」と言われた事で、ネットを見て雷に打たれた。

衝撃が走り、部屋で1人後悔しながらむせび泣いた。


ひとしきり泣くと、後に控えていたのは細かい後悔だった。

本当に小さいところでは、学校で使う絵の具セットの鞄を、黒色にしたかったのに青にさせられたり、誕生日プレゼントのゲームソフトを、そんなにやりたくもない、兄の欲しがるゲームソフトにさせられた事を思い出していた。


そんな中、ウチで飼っていた犬のツツジの事を思い出した。

ツツジは雑種で、子犬のころに兄が拾ってきて、「あさひと面倒を見るから」と言って親に泣きついた。


だが正しくは「面倒な事は旭にやらせるから」だった。面倒なことをやらされたのに、名前は兄が決めて、俺は何も決められなかった。特に付けたい名前は無かったが、決められていた事には不満があった。


ツツジを動物病院に連れて行ったのも、弱ってきて最後を看取ったのも自分だった。

家族は全員、兄が拾ってきた事実を無かったことにして、「ツツジはお前に懐いていた」、「お前の犬だ」と言って誤魔化していた。


ツツジに罪はない。

ツツジは可愛かったし、可愛がっていた事も間違いない。

あるのは周りへの怒りと、自分への絶望だった。


ツツジが家族になった時からの事を思い返していると、ふと中学2年の夏の事を思い出した。


「旭くんの家には犬がいるんだよね?私犬が好きなんだ」

そう言ったのは蒲生葉子がもう ようこ


クラスメイトとして話すくらいの間だが、犬好きだと言った蒲生葉子は、ツツジの事を色聞いてきて、大きさからどんな子なのか色々話すと、「ツツジちゃんに会ってみたい」と言われた。


散歩は自分の仕事だったから、別に構わないと言って、それから1ヶ月くらいはツツジの散歩に蒲生葉子は来ていた。


だが特に何かあった訳ではない。

軒先でツツジと戯れる蒲生葉子を見た兄からは、「相手は犬好きなだけだ」と言われていたし自覚もあった。


だが今思えばツツジは口実だったのかもしれない。

そう思うのはネットで見た、成功を妬む者や、失敗を望む者、足を引っ張る人間が居ると知ったからだった。


もう4年も過ぎている。

あの日、蒲生葉子は何を思っていたのだろう?


もし機会があれば聞いてみようと思った。

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