1章 死霊術×ダンジョン、始動。

1話。

 激流に押し流され目が覚めるとそこは、見知らぬ部屋だった。

 壁も床も光に包まれたように真っ白で、部屋の中央にあるのは台座の上に置かれた一つの水晶。

 出口も入口もなく、私とその水晶だけがある部屋。


「ここは……なんだ?」


 呼びかけてくる声に応じたはいいものの、何の説明もなく水晶だけが置いてある部屋に放り込まれたことに困惑している。

 まずは何かしら調べてみなければ始まらないと思い、目の前にある水晶を覗き込む。


「……は?」


 吸い込まれそうなほど美しい水晶玉を見るとそこには、一つのが写っていた。

 なんだこれは、もしやこれが今の私の姿か?首から下はなく、ただの頭蓋骨が宙に浮いている。

 一体どうやって?骸骨スケルトンでさえ自立するためにしっかりと骨組みが残っているというのに、この身体……いや、この頭部はどうやって浮いている?そもそも頭部だけで存在が確立され、その上しっかりと思考までできているというのは不思議で仕方がない。たとえ骸骨戦士スケルトン・ウォリアー骸骨騎士スケルトン・ナイトに進化したとしても自我が芽生えるのみにとどまり、複雑な思考能力はないというのが通説であり私も同様に思っていたがそれを前提から覆す前例なのか?それともただ私が特例であるのか?私が特例であった場合、私はこの状態から先の姿へと進化することはできるのか?進化したならばどのような姿に至るのか?骸骨将軍スケルトン・ジェネラル?いやそれとも死霊ゴースト系統になるのか?ああ、考えることが無限に湧き出てくる。これが生。これこそが生。私の生きがい。なんと、なんという……。


「素ンッッッ……晴らしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 なんという僥倖!なんという幸運か!私自らが死霊術の先駆けを行く存在になれるとは!私が以前、骸骨スケルトンの人為的進化方法を独自に見つけた時よりも喜ばしいことがあろうとは!これ以上の喜びを感じたことはない!むむっ、よく見れば先ほどまでは何もなかった私の目元に小さな炎が灯っている……これは興奮状態を外見的にも示すことができると!?このような機能が骸骨スケルトンについているとは聞いたことがありません!むしろこれは人魂ヒトダマだとして考えればやはり死霊ゴースト系統!?


 まさに絶頂に至ろうかというほど興奮して部屋中を飛び回っていたが、その喜びは目の前の水晶が光り輝き出したことで中断することになる。


「ふむ……?まだ触ってもいないというのに反応をするとは、こちらの挙動に反応する機能でもありましたかね。……っ!?」


 そう言って再び水晶へと関心を戻すと、水晶が更に輝きを増し、目の前が真っ白になるほど輝いたかと思えば……静かにその輝きを落ち着かせていった。すると頭がずしりと一段重くなる感覚を得る。これはもしや、私の頭蓋骨の中に水晶が移動した?


 自らの身体頭蓋骨に起きた変化を感じ取ると同時に、急激に頭の中に大量の情報が流れ込む。ダンジョン?階層?魔物?一気に処理すべき情報が叩き込まれたことで、存在しないはずの脳が嬲られ、蹂躙される感覚。明らかに人の脳の許容量を遥かに超えた膨大な知識が乱暴になだれ込み、強制的に理解させられる。


「っあ゛あああ゛ああ゛あああ゛あ!!!!!!!!!!!!!」


 余りにも強烈な情報の津波を受け止める内に、いつしか私の意識は途切れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る