36話。
無限にも思える量の黒紫色の靄を吸収し終えた地面は、何の反応も示さなかった。オリゴスと二人で顔を見合わせ、首をかしげる。何も起こらない、というのは初めての結果だったからだ。
魔力の量を増やしたり、逆に魔力の量を減らした時も何かしらの成果は残した。魔力量が増えた場合は召喚される
一向に反応のない地面を前に、どうせならばと魔力のおかわりを行ってみることにした。何も起きないのならば何かが起きるまで試してみれば良いのだ。遥か東の方、島国に住まう民族出身の死霊術師は『鳴かぬなら 鳴かせて見せよう
二人の魔力の靄がもう少しで注入を終える、と言った所で異変が起こる。
靄をこれ以上拒むかのようにぷつり、と地面との接続が途絶えた矢先、床が、壁が。けたたましい轟音と共に揺れ始めた。地に足を着けて立っていられない程の激しい地震。慌てて義体として活用していた骨格と分離し、頭部だけの姿へ戻る。と、同時にサングィスからこれは何事か、という連絡が来た。実験の産物であるが詳細は把握していないことを伝えた後、まずはガーラ
それから辺りを見回すとオリゴスは取り乱すことなく配下の
これは恐らくダンジョン全体が揺れている。魔力を取り込ませ過ぎた弊害か?それとも何か新しい機能が解放されたのか?一体何が起きているのか、困惑しつつも私の内側を満たすのは大部分が好奇、そして喜びの感情であった。
収まる気配のない揺れと共に、先ほどまで魔力を注ぎ込んだ地面がゆっくりと隆起し始める。しかし、それは明らかにただの
果てしない地響きと共に、土煙を撒き散らしながらゆっくりと、ゆっくりと、それはその姿を露わにしていく。巻き上げた土煙が晴れた先には、広大な古戦場を一体だけで埋め尽くしてしまいそうな程巨大で、黒紫色の靄を纏った
話には聞いたことがある。その巨躯は全貌を現わせば天にも届き、周囲を悉く破壊し尽くす。その後、彼の者が降り立った場所は
私は感動の余り叫ぶでもなく、地に伏すでもなく、歓喜の舞を踊るでもなく、ただただ見惚れていた。その雄大さ、圧倒的存在感に。伝説が実在しているという、非実在的な光景に。人と言う生き物は人知の及ばない物事を恐怖すると同時に強く惹かれる、というどうしようもなく愚かな一面を身を以て実感しているのだ。伝説というのは、人の手に余るからこそ伝説足り得るというのに。
オリゴスやサングィスが来た時とはまた違う、強者の威圧感が剥き出しになっている。その性質の違いはきっと知性か私への忠誠心のどちらか、もしくは両方の欠如だろう。それとも主足る者か見定めているのだろうか?いや、馬鹿なことを考えるな。破壊の化身がどうして誰かの下に無償で付くことがあろうか。
ああ、目の前の巨人が外へと放たれれば、彼が片手を振り回しただけで村は滅び、町は半壊するだろう。人なんて脆い生物は瞬く間に、抗う猶予もなく命を刈り取られるだろう。彼が一歩進む度に森は腐食し、湖は汚染され、生物は死に絶えるだろう。存在するだけで死と破壊を周りに齎す、凶悪な
しかし、伝承が真実であるのなら彼の脅威は
「
思考を遮るようにオリゴスから声が掛かる。周囲を警戒した様子で傍に付いた彼は既に大剣に手を掛けていた。
時を同じくして、ぼこ、と土が掘り出される音が聞こえる。その音は一つ聞こえたかと思えば二つ、三つ、そのまま止むことなくこの空間へ響いていく。新たに出現した巨人の周囲を取り囲むように
荒れ果てた土地だった光景が、
そう、彼の特筆すべき能力とは。
同胞たる
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36話です。
新しい仲間(?)です。
名前の出典がラテン語だったりギリシア語だったりしますが、ノリです。
あと文にするとダサいので書きませんでしたが、巨人くんの体勢は腕立て伏せ状態です。立っちゃうと顔が見えないので。
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