35話。
オリゴスの提案を実行するにあたって、まずはどうやって二人で召喚術を発動させるかが問題となった。
単純に横に並んで発動する、片方の身体に触れた状態で発動する、発動の文言と魔力の分担を分けて発動する、色々と試してみたがどうも二人で力を合わせて発動しているような感覚はないし、ただ私とオリゴスが一人ずつ召喚術を発動しているだけだった。まぁ失敗した所で
時折オリゴスが申し訳ないだとか実力不足で不甲斐ないだとか自らを卑下するような発言が零れたが、その度にそれは違うと否定をした。これは実験であり、失敗が前提なのだと。何事も新しいことを始める時はたいてい一筋縄ではいかない。寧ろ今回の実験に関しては死霊術の先輩である私がオリゴスを導かねばならない側であるというのに、何の成果もないのは私が悪いことになるが?と告げると慌てて発言を撤回した。若干圧力をかけるような物言いになってしまったが、要するに慌てずやればいいということだ。
それから数日、試行錯誤を繰り返していたが中々思うように進まなかった。
要因の一つとして考えられたのが、以前の私との感覚の違いだ。以前の私であれば自分の魔力を用いて召喚術を行使していたのだが、今の私はダンジョンの機能を使用しているからか魔力とは別の資源、私が生命力と呼んでいる物を利用して術を行使していることによる差異がどうしても埋まらない。
ダンジョンの機能を利用したやり方ではオリゴスとの手法の違いで協力して発動することはほぼ無理だろう。かと言って魔力を用いた方法に合わせるとなると……実はこの身体では難しい。少量の魔力かつ操作の必要もないなら今のままでも問題ないが、じっくりと魔力を練り、ましてや他人と歩調を合わせるのには身体がいる。しかし、今の私の身体と呼べる箇所は頭部しかない。
どうしたものかと悩んでいると、私達から少し離れた場所でオリゴスの配下である
その光景を見てようやく気付いた。身体なら幾らでもあるじゃないか。
オリゴスにも声を掛けた上で、早速自らが生み出した
おお……!動いた、動いたぞ……!!
そこからゆっくりと拳を握るように手を動かしては、指の一本ずつ開いていく。足を一歩前に出し、反対の足を一歩前に出す。身体の支配権が完全に私に移った。久しぶりに身体を動かすという感覚を味わいながら、新しい身体を慣らしていく。
召喚術共同発動の足掛かりを得たことで飛び上がりそうになっていた気持ちを冷静に抑えると、その足掛かりを物にするために魔力を練り始めた。幸いダンジョン内は
1分も経たないうちに骨の身体を黒紫色の靄が包んでいく。久方ぶり、かつ慣れぬ身体での発動であることを考えればまぁまぁな速度だろう。しかも一度感覚を覚えてしまえば、以後の魔力の扱いは簡単に出来ることを思うと十分すぎる成果だと言えるだろうな。靄が視界を塞ぐまでになった辺りで、早速練り上げた魔力を片手に集中させるように意識を割く。すると徐々に身体中を取り囲んでいた靄が掌へと集まっていく。ここで一つ、問題が起きた。
明らかに練った魔力が多すぎた。掌を包んだ魔力はかなり濃く、先ほどオリゴスがやってみせた時は靄が包み込んだ手は傍目からでも見通せる程だったが、今の私の手を取り巻く靄はその内側に何があるのか全く分からない程凝縮された物になっていた。更にその状態になってもまだ身体に纏った魔力の靄を回収しきれていない。
久し振りだからと調子に乗ったことを反省し、掌に集めた魔力の大部分を霧散させようとした矢先、オリゴスが私の隣に立った。
「
そう言うと彼はまた、手に靄を纏わせ始める。しかし、その量は先ほどの召喚に使用した分よりも比べ物にならなかった。大量の靄は彼の全身を覆うのではないかという勢いで膨れ上がっていったが、途中でぴたりと膨張を止め、ゆっくりと彼の手へと集まっていく。それは私が練った魔力とほぼ同等、もしくは超えるのではないかと思わせる程凝縮されていく。
待て、とオリゴスを止める声が喉まで出掛かったが、同時に以前の私では絶対に行うことが出来なかった実験への好奇心がその制止の声を引き留める。この状態で召喚を行った時、一体何が呼び出されるというのか。思考の中で一瞬、理性と本能のせめぎ合いが起こるが、本当に一瞬だった。どちらが勝ったのかは言うまでもない。
降ろそうとしていた魔力を纏った手を前へと突き出し、オリゴスと共に唱える。
「「
二人の手から靄の塊が離れ、地面へと吸い込まれていく。
私は固唾を飲んでその光景を見守っていた。この後何が起こるのかも知らずに、呑気に見守っていたのだった。
────────
35話です。
一応付け加えておくと主人公くんは恒久的に
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