9話。

 骸骨スケルトン達に指導を行っていたオリゴスを呼びつけ、少し離れたところで早速生まれた時の気持ちや思考、剣を握った時の感覚や進化に至るまでの状態を覚えている範囲で事細かに聞き取り調査を行った。話の間に必ず私を褒め称えるような内容が織り交ぜてあったため、どうにもむずがゆくて堪らなかったが何とか話を聞き終える。


 ふむ、やはり私の知っている骸骨スケルトンとは何もかもが大幅に違うな。生まれた瞬間から私を主であると認めている上に、隷属による屈服ではなく忠誠からの服従であること。私はあくまでも使役しているという感覚であり、実際過去に使役していた不死アンデッド達は忠誠を誓うというより無理矢理道具として扱われているような状態だったので、このように自ら進んで首を垂れる存在とは初めて出会う。オリゴス曰く、ここまではっきりとは思考は出来ていないと思うが今現界している骸骨スケルトン達も同じく忠誠を誓っているだろうとのこと。素晴らしい、素晴らしくはあるんだが……全員に愛着が湧いてしまいそうで、少し困っている。オリゴスは当然のこと、一体たりとも失いたくはない。いや、不死アンデッドは魂が消滅されない限り復活するから深く心配する必要はないのだが。人が子を成すと過保護になる場合があると聞いてはいたが、まさか自分が同じ気持ちになるとは……以前の私に聞かせれば鼻で笑われるに違いない。自分を騙る偽物がおかしなことを言っているなと一蹴されただろう。いかん、話が逸れた。


 オリゴスの話から得たことに話を戻すと、肝心の進化に至った瞬間、その前後については意識が曖昧で、気付いた時には今の姿だった、とあまり有益な情報は得られなかった。これについては残念だったが、あまり気にしていない私に対してオリゴスが露骨に落ち込むものだから思わず励ましてしまった。


「私は定命の者とは異なり、これからは文字通り永久に君達、不死アンデッドと共に在る。調べる時間は無限にあるに等しい。いずれ解き明かせればいいのだ。今は気にせず、私と共にゆっくりと歩みを進めていけばいい。」


 言葉の通り、私には無限の時間がある。当然、オリゴス達にも永久と言っていいほどの時間がある。今後は人間よりも遥かに長い一生を共に過ごしていくのだ。だから気にする必要はない、と告げるとオリゴスは感動したようにその場に跪き、「我ガ全テヲマスターニ……。」と忠誠を新たに誓い直していた。大袈裟な点は少し問題ではあるが、犬のようだと思えば可愛らしく感じた。手があれば迷わず頭を撫でていただろう。


 和やかな雰囲気を一人で感じていると、久しぶりにが私に語り掛けて来た。


【階層守護者を定め、ダンジョンの入り口を開けよ。定命の者の命を刈り取れ、さすれば道は開かれる。】


 あの時とは違い、最初からはっきりと聞き取ることができた。何の反応もないオリゴスを見るに、今の声は私にしか聞こえていないのだろう。


 ダンジョンの入り口を開けよ、か。私としてはこのまま引き篭もり、誰にも邪魔されずに不死アンデッドの研究を続けたかったが、そうもいかないらしい。恐らくダンジョンの維持に外部から何かしらのエネルギーを補充する必要があるのだろう。でなければ説明できないほどにこのダンジョンというものは不思議に溢れている。本来なら今からでも調べたいことは数多くあるが、今は細かいことは追々考えるとしよう。まずは声に従うために何が必要か、だ。


 最優先するべきは、やはり戦力の拡充か。幾らオリゴスがいるとはいえど、外から侵入する者がどれだけの強さなのか一切の情報がない以上戦力が強大であるに越したことはない。そもそも彼らの誕生に興奮しすぎて忘れかけていたが、ダンジョン内の魔物が全て敗北する、それは即ち私の死に直結する。私にはコアと共に逃げるという抜け道があるとはいえ、流石に最終手段であることを考えれば配下の魔物が全滅する=現状太刀打ちできない、となるのだから実質運命共同体なのである。以前の私は骸骨将軍スケルトン・ジェネラルを連れてはいなかったとはいえ、一国の軍隊に相当する規模の戦力は抱えていた。それでもことを鑑みれば、今から戦力拡充に動いても備えすぎるということはないだろう。そうと決まれば……。


「よし、まずは……開始オープン。そしてオリゴス。君を『階層守護者』に任命する。」


骸骨スケルトンに夢中で呼び出していなかったダンジョン管理の画面を表示させると、軍団管理の項目から第一階層の階層守護者にオリゴスを設定する。私だけでは分からないだろう手順を頭蓋の中に抱えているコアが勝手に補足してくれるところは助かるな。……などとダンジョンコアの便利さに感心していると、骸骨スケルトンを呼び出した時と同じように自らの内から生命力が抜き取られていく。だが、骸骨スケルトンを召喚した時より圧倒的に消費量が多い。あの時の二倍ほど、生命力全体の6割ほど持っていかれることとなった。一体なぜ?ただ階層守護者に設定しただけなのに?という疑問はすぐに解消された。


目の前で恭しく跪き階層守護者の階級を戴いたオリゴスの体躯を光が包む。進化した時ほどの強い輝きではなく、薄らと光の下にあるオリゴスの姿を認識できる程度の弱い光。全身を包んだ光は数秒間留まった後、すうっと引いていく。この光は恐らくダンジョンに属する魔物が強化、もしくは進化する時に発生するのだろう。オリゴスは得た力を確認するかのように数度手を握り、再び首を垂れる。


「……必ズヤ、御期待ニ応エテミセマス。」


オリゴスのこの言葉と共に背後で、ざざっ、と地面が擦れる音が複数重なる。オリゴスに任せていた骸骨スケルトン達に何かあったのだろうかと振り向くとそこには。





骸骨騎士スケルトン・ナイト



──────


何とか一話更新できました。


最初は骸骨スケルトン君たちの進化先は《スケルトン・ウォリアー》にするつもりでしたが、書いてるうちに将軍の直属の配下が下から二番目はちょっとなぁ、と思い直して骸骨騎士スケルトン・ナイトにしました。


まだ戦闘描写がないので強さの基準は分からないかもしれませんが、もうすぐダンジョンに最初のお客様が来る話を書く予定なのでまたその時に。


では皆様、よい週末をお過ごし下さい!

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