31話。

 気付けば早いもので、サングィスを仲間に迎えて既に一か月が経過していた。あれからは特に目立った事件はなく、奴隷商から送られてきた奴隷を用いて死霊術の研究に精を出しつつ時々ダンジョンの調整をするという至って平和な日々を過ごしていた。


 変わったことと言えば、まずは第一階層のオリゴス率いる骸骨スケルトン達を増員したこと。オリゴス本人から今後のためを思うと増やした方がいい、と直接提言されたのでそれを受け入れた。じわじわと数を増やしていき、今では約500程、一個大隊程度の規模にはなった。しかも増員初期に追加された骸骨に関してはオリゴスの訓練の賜物か、50体が骸骨戦士スケルトン・ウォリアー、更にそのうち2体が骸骨隊長スケルトン・コマンダーへと進化していた。いずれは骸骨騎士スケルトン・ナイト達と共にオリゴスを支えてくれる立派な兵士になることだろう。


 正直、オリゴスがと言いながら数十人しか率いる兵が居ないというのは心苦しかったので、今後も増やしていこうと思う。


 次はガーラ達、闇森人ダークエルフ一家だろうか。サングィスから様々な家事及び帳簿等の簿記に関する知識を叩き込まれた結果、今では立派な傍仕えとして何処に出しても恥ずかしくない程度にはきっちりと教育されている。しかし娘のラーダは家事よりもサングィスの見せた戦闘技術に興味津々と言った様子で、時折稽古をつけて貰っているようだ。


 一度訓練中の様子を覗きに行ったことがあるが、周囲に人一人分とは思えない量の血と思しき液体が飛び散っていたから相当しごかれているのだろう。森人エルフ、しかも闇森人ダークエルフの血なんて簡単に手に入らない代物だから勿体ないなぁ、と思っていたら後に小瓶に入った状態で献上された。吸血鬼であるサングィスは血の扱いにも長けており、他者のものであろうと周囲に存在する血液は自由自在に操れるとのこと。


マスターはきっとお望みであろうと思い、一滴も残さず回収しております。』


 と言われた時は思わず感動で涙が出そうになった。眼球も涙腺もないが。サングィス、有能。


 そして最後、奴隷商について。あの商会長が死んだ直後、生き残った連中に奴隷商としての商売をやめさせることはせず続けさせるつもりだったのだが……彼らは何をするにも怯えた様子で私やサングィスが話しかけようにも一言目には『すいませんでした!』、二言目には『許してください!』とこんな調子で話をするのも儘ならず。


 それ以上時間を掛けるのも面倒だったから適当に一人指名して新商会長に任命し、変に勘繰られてこっちの存在がバレるのも面倒だからひとまず森人エルフ狩り等の違法行為だけはしないように厳命してから送り出した。私としては実験材料さえ送ってくれれば何でも良かったので経営方針もそれ以上口出しをするつもりもなかった。だが二週間程放置した辺りで、彼らからすると『全員殺されても仕方がない場面なのに、なんて器の大きい人なんだ!』となったらしい。


 カタギではない商売をやっていると恨みを買った相手から脅迫恐喝は当たり前で、トップを始末した後商売敵に縁のある者を無理矢理新しく据えて気付けば実質的には吸収合併なんてこともざらにある、と奴隷を持ってきた男に言われた。あれだけの力を持った執事を従える私は当然そういうこともやってくるだろうと思われていたとのことだ。解せぬ。


 少々納得できない点はあるが、それ以降多少は恐怖による従属姿勢といった雰囲気は残っている物の概ね好意的な態度になっている。特に闇森人ダークエルフ一家に対応を任せると、深く頭を下げて謝罪から話が始まるようだ。『君達にされたことは許せないし、一生忘れることはない。だがもう終わったことだ、咎める気はない』とガーラが告げると、涙を流して再度謝る奴隷商、という光景を何度か見た。私よりも余程彼らの方が懐が深くて器が大きく見える。


 この一か月で変わったことと言えばそれくらいだろうか。残念ながら奴隷商の長が強化魔法バフを何重にも受けることができた理由や、第二階層の洋館の周りにいる動物等のダンジョンに関する諸々は糸口すら見つかっていない。ダンジョンの彼是についてはもう『ダンジョンだからです』と割り切った方が楽かもしれないな、もちろん追求することはやめないが……分かったらラッキー程度に考えておこう。どうせ研究する時間は幾らでもある。


 そして今日は、新しい階層を更に追加しようと思っている。


 まだ第一階層第二階層で調べたいことが山ほどある上に、洋館を第二階層に建ててしまったことで第二階層が本拠地感溢れる場所になってしまったため、この後に新しい階層を追加するのもなぁ、と思い作成するつもりはなかったのだが、ダンジョン運営画面について調べているうちに既存の階層の順番を入れ替える機能があることに気付いた。最初からそういう大事なことは書いておいてくれ。


 しかしこれで考えなしに階層を追加しても好きに順番を入れ替えることが可能になったので、早速新規階層を追加した後に洋館のある元第二階層を第三階層へと入れ替え処理をする。ごごご……、という地鳴りのような音と共に画面上で第三階層が無事に洋館階層となっていることを確認すると、新第二階層へとすぐに向かった。


 相変わらず殺風景な土壁空間に降り立つ。そしてダンジョン運営画面から、第二階層にを設置するように選択する。洋館建設時に感じた眩い光を一身に浴びながら、今から新たな仲間を呼び出すというわくわく感が心を満たす。


 さあ、それでは新しい階層を作っていこうか。今回の階層のテーマは……屍人グールだ。

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