23話。
「……分かった。聞かせてくれ。」
「はっ。では恐れながら……簡潔に申しますと、この男を餌に此処へとつり出すのです。」
「……簡単に言うが、わざわざ総員を挙げて押し寄せて来るとは思えない。確かに特別な商品だという話ではある、だが組織が罠に嵌められて壊滅する可能性を考えれば一家を取り返すためだけにそこまで労力を掛けるとは思えん。」
そう、ある程度の影響力を持った組織が問題を起こした場合、まず最初に考えることは如何にして生き残るか。どこを切って、どこを残すか。損切りをすることで少しでも助かろうとするのが普通なのだ。今話に上がった方法は、相手側からすれば折角どこを残すか考えているのに全てを一気に失う可能性もある計画。幾ら成功した場合のリターンがあっても乗って来ることはないはず。だが、それでも問題はないと彼は言う。
「
「……ただの女と子供にしか見えないが。何か特別な能力でも?」
「いえ、特にそういったものはありません。ですが、彼ら自体に価値があります。」
「勿体ぶるな、早く答えを言え。」
「畏まりました。彼らは
一家の種族名が明かされた瞬間、一家はびくりと肩を跳ねさせ、男達は弱みを握られたように顔を青くした。
「耳は上手く偽装していますが、恐らく人間の耳と似た形に切断され修復されないように焼いた後、回復魔法を使用したものと思われます。」
今までよりも態度の固くなった
確かに、そうなると話は変わって来る。彼ら一家は確かに特別な商品だ。この商品の取引が破談になったとなれば、それは相当な額が生じるものだっただろう。何せ彼ら
もし奴隷として
因みに美醜については私はよくわからない。言われてみれば人間と比べて整った顔面に見えないことはないが、私からすれば大した違いはない。寧ろ内包する魔力の方が興味を惹かれる。人間とはどう違うのか、扱い方から違うのか、住んでいた森によって魔力に変化はあるのか、調べてみたいことは数知れない。ああ、研究。研究がしたい……。
「……そうか。もう十分に釣れる理由があることは分かった。それで、二点目はなんだ?」
正直一つ目の理由で十分すぎる程納得してしまったが、彼曰くまだ他にも理由があるのだという。
「はい。二点目は非常にシンプルです。人間は愚かである、これに尽きます。」
……それは元は人間だった私にも刺さる理由で、少し傷付いた。知らぬ間に落ち込む私を意に介さず彼は話を続ける。
「自分が得るはずだった利益を棒に振られた。きっとこの組織、いえ組織の上層部はその怒りで震える拳を振り降ろす先を探しているでしょう。彼ら奴隷商が一家を捕らえようとしている際に口にしていた『多少価値は下がってもいい』という発言から、私怨をこの一家にぶつける予定だったはずです。もし捕らえられていたら、まずはその場で今ここにいる男達に。そして連れ戻された後は、他の組織の者達に。商売相手に引き渡す前に文字通り死ぬほど嬲られていたことでしょう。」
その言葉に仮定の未来を頭の中で思い描いたであろう、
「……見ず知らずの、それも高位の
最初に出した『聞かれたことだけに答える』という指示を無視したことを咎めようと吸血鬼の彼が口を開こうとするが、私は目線でそれを止める。彼は意図を察し、素直に一礼と共に一歩引いた。
正直なところ、同情や憐憫といった感情は一切ない。彼ら一家が今ここで男達に嬲られ、殺されようがそういった気持ちは湧かないままだろう。今回の行動は義憤によるものや正義感によるものでは断じてない。だが、彼らを此処で全員処分する以上に効率的に実験材料が集められると言われたら、乗らない手はないな。死霊術師である私が人助けなど……いつぶりだろうか。
「分かった。私は君達の協力の下、現状では簡単に手に入らない
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