不殺隊の隊長さん、余生は愛する妻と娘に捧げるそうです。

書峰颯@『幼馴染』コミカライズ進行中!

prologue

皇光暦293年――

アグリア帝国領土内、バストゥール平原――




 肺の中が、血の匂いで埋まる。

 口で精一杯吸い込み、吐くだけの呼吸が辛い。

 

 刃が欠け、人の脂で切れ味を失った、我が剣を持つ手が震える。

 足場という名の骸を踏みつけると、眼前には屍の荒野が広がっていた。

 

 赤い空の下、何百、何千、何万という人と魔獣の死骸が横たわる。


 うつろな眼差しで見定めるは、遠く、アグリアの城から上がる黒煙だ。

 追い求めていた光景が、ようやく目の前に広がる。


「サバス隊長……」

「……帰ろうか、もう、終わったんだ」


 部下の語り掛ける声を耳にしながら、思い浮かぶは故郷に残してきた愛する人。

 もう二度と、帰ってくることのない場所に、俺は敬礼を捧げた。

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