陰キャデブの僕、ダンジョンで修行して最強暗殺者になる~ダンジョン配信中のS級美少女を助けて、うっかりバズってしまう。え? 僕専門のまとめサイトができた……そんなまさか~
第20話 陰キャ、再びダンジョンに潜る(配信付き)
第20話 陰キャ、再びダンジョンに潜る(配信付き)
「剣……? いいわ案内してあげる……と言いたいところだけど」
「何か問題でも?」
「ええ。恐らく君が活動するであろう下層から深層となるとそこで通用する武器がここにあるかどうか……」
下層から深層の魔物は攻撃力も防御力も中層とは比べ物にならないほど高い。暗殺者の剣だって急所を的確に突かなければへし折れてしまう。
それらの魔物と正面戦闘するようの武器が欲しいと思っていたが、簡単に手に入らなさそうだ。
「何か方法ってありますか?」
「一番は素材を持ち込むことね。武器がないというのは作れる人がいないっていう意味じゃなくて、素材がないの。殆どの探索者は中層か、行けても下層の少し。下層から深層の素材は中々ここに出回らないわ」
「加工できる鍛治師はいると?」
「ええ。腕がいいクラフターはいるわ。だから取り敢えずは素材問題だけ……」
下層から深層に戻って素材集め……。深層ならともかく、下層ならすぐに行って戻って来れるか?
下層の構造はかなり急ぎで上がってきた都合上、六割くらいしか覚えていない。細かなところは埋めきれていないけれど、鉱石素材取って戻ってくるだけならすぐ行けるだろう。
「よし分かった。せっかく装備品買ってもらった訳だし、軽く下層まで行って素材取ってくるよ」
「……は? き、君は何を言っているのかしら? 下層よ? そんなコンビニ行くみたいな感覚で言われても」
下層や深層で活動するための武器を作るために、下層に潜るというのは少し変な話だと思うが……そこは何も言わないでおこう。
「まま、多分すぐ行けますんで」
「下層をすぐって……、そうね……じゃあ面白そうだし、一つお願いしてもいいかしら?」
「……?」
僕らは一旦新都会駅から離れて、昨日探索していたダンジョンの中に入る。
装備品などは一度登録して仕舞えばダンジョンの中に入るだけで勝手に切り替わるようになる。当たり前のように思っていたけど、こう考えると凄い技術だな……。
「無理して話そうとかそういうのは考えなくていいわ。ただ、せっかく下層に行くのだから、配信をやってもらおうと思ってね」
彼女はそう言ってダンカメを起動させる。ダンカメが僕の周りを浮遊し、配信画面をホログラムで映し出す。
「私のチャンネルの企画という形でやってもらうわよ。無理して話したりする必要はないけど、余裕があったらコメント返しとかしてもいいからね」
「は、はあ……そんなに上手くできるかわかりませんよ僕」
外套で顔を隠しつつ僕はそう口にする。僕は根っからの陰キャ……配信とか多くの人の前で話すとか卒倒しそうだ。
彼女の頼みじゃなきゃ絶対にやらないぞこんなの。
「それでいいわ。じゃあ配信開始させるからよろしくね」
「わかりました。ではまた」
僕は下層に向かうため走り出す。ダンカメの追尾性能ってどこまで優秀なのか分からないから、超突進で長距離移動がしにくいんだよな。
……と、早速同接人数が増えてコメント欄が流れつつある。
【今回は企画です】
神代アオイ(本物)概要欄をよく見てからコメントするように。今日は以前私を助けてくださった探索者に普段の活動風景を配信してもらうことにしました。
『お嬢が企画物やるとか珍しい……』
『うおっ! マジで目元以外殆ど何も見えないじゃん!』
『俺たちの目には真っ黒に見えるけど、実際は全然違うんだろうな』
『あの時の暗殺者じゃん! めっちゃ強そう!』
『お嬢とはどんな関係なんですか!?』
流石、配信者の中でも上澄のチャンネル。凄い勢いでコメントが流れていく。こんなのを見ながら、普段の彼女は探索しているのか……凄いな。
特に話さなくてもいいということなので、僕は基本的にコメントにはノーリアクションで下層に向かう。
上層を抜けて中層へ。中層に入った頃、数十メートル先に魔物が一体……!
『うわ、オークじゃん。迂回したほうがいいんじゃ』
『あいつら面倒だよな。無駄に高耐久、高攻撃力だし』
『魔法があれば話は別だけど物理だとめっちゃめんどいよな』
オーク。体長二メートルから三メートルほどの豚の擬人化といった様子の魔物だ。棍棒で武装していることが多く、上位の個体になると斧や槍といった武器を使い始める。
群れる性質ではないが、とにかく単体の硬さが厄介な魔物だ。魔法耐性は低いため、魔法攻撃もしくはそれが可能な魔道具の使用が推奨されている。
ただ、暗殺者の一撃ならその硬さも関係ないけど。
「
『ブモ……ッ!?』
背面から超突進の突撃力を応用した暗殺者の一撃を喰らわせる。暗殺者の一撃は喉を貫き、首に深い傷を与えて一瞬で絶命させた。
『……は?』
『今の見えた人おる???』
『マジで何が起きたのかわからんかった』
『物理攻撃でオーク一撃とかやばっ!!』
いつの間にか倒れていたオークに反応を見せるコメント欄。
「よし……次行こうか」
中層になると上層よりも遥かに魔物の気配がたくさんある。下層に向かう道中で何度か接敵することになるだろう。
しかし、それでも構わない。
僕はダンジョンの中層を駆けていく。その道中で遭遇した魔物だけを的確に暗殺者の一撃で仕留めていく。
僕としては深層からの脱出で慣れた光景だったけど、どうやら視聴者にとってはそうではないらしく、暗殺者の一撃を使うたび、コメント欄が高速で流れる。
『中層の魔物が全部一撃……』
『苦戦どころか全部見つかる前にやってる……』
『手際がもうプロのそれなんよ』
『動きがスタイリッシュすぎる』
こうなることを彼女は読んで僕に配信をさせたのだろうか。彼女の真意はともかく、僕はこのまま下層に向かうとしよう。
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