第13話 S級美少女、最強暗殺者に恋をする

 アビススカルドラゴン。それを倒した僕は背後のドロップしたアイテムよりもまず、女の子の方に向かう。


「……大丈夫ですか?」


 膝をつきながら彼女へ手を差し伸べる。うーん、やっぱりどこかで見たことあるような顔だよなあ……。


「は、はい……感謝……するわ」


 彼女は頬を赤く染めながら、僕から目を背けつつそう口にした。


 僕はゆっくりと差し出される彼女の手を握って彼女を立ち上がらせる。


「あ、あの! 名前を……」


「無事なら安心しました。では僕はこれで」


 僕はそう言って立ち去る。あれ!? も、もしかして何かを言うつもりだったの!?


 うわわわわわや、やばいことをした……。でもあんなめちゃめちゃ可愛い、それこそS級美少女と言っても過言じゃない女の子とこれ以上平静を保って話すなんて無理!!


 心臓が破裂する!!


 僕はアビススカルドラゴンのドロップしたアイテムだけを手早く拾って、超突進と壁走りを駆使してダンジョンの外へと出ていくのであった。



 ***


「素敵……」


 私——神代アオイはつい、立ち去っていく背中を見てそう呟く。


 私はこの近辺ではかなり強い探索者だと言う自負はあった。友人に勧められて始めたダンジョン配信も数日で十万人を超えて、今や登録者数百万人の大手配信者だ。


 そんな私はどこか調子に乗っていたのだろう。学校でも配信でも、そして家でもチヤホヤされて持ち上げられ続けて、私は優れた人間のはずだ……と。


 しかし、そんな物は容易く壊された。


 規格外イレギュラー。突然現れたそれに、私は手も足も出ず、私自身はただの一撃で紙切れのように吹き飛ばされた。


 正直、怖かった。醜態を晒さなかったのは最後のプライドがあったからだろう。


 恐怖し、心底誰かへ助けを求めた。誰か私を助けて欲しい……と。


 そんな中、彼は現れた。


「ここか。感じた気配があったのは」


 そう言って現れた、全身が黒く染まった誰か。装備品の効果か、はたまたスキルの効果か。


 私でもよく見ていないと一瞬でその姿を見落としそうな雰囲気の探索者。左手の籠手からかろうじて暗殺者のスキルツリーを解放しているのだろうと察しがつく程度にしか、彼のことは分からなかった。


 けど、私は彼の発言は私の助けて欲しいという気配を感じて来てくれた……と。


「再生するか……いいよ、死ぬまで殺そう」

「大丈夫。ここは任せて」


 彼の発言の数々。それは絶望していた私にとってとても心強いもの。


 暗殺者は本来正面戦闘は向かないもの。けれど、彼はそんな常識を嘲笑うがごとく、アビススカルドラゴンと互角以上の戦いを繰り広げていた。


『カッケェ……!』

『あの暗殺者やばすぎないか??』

『対空暗殺カッコよすぎんだろ!!』

『これは濡れるなあ!!!!』


 彼の戦いを見て盛り上がるコメント欄。それは私の口には出せない本音を言っていた。


 私には手も足も出なかった魔物に、対等以上の戦いを繰り広げ、軽い身のこなし、召喚した魔物でさえ軽々と倒してしまうその姿に、私は胸の奥で熱いものを感じざるを得なかった。


「彼の……彼のことを知りたい。彼が……欲しい」


 私の助けを求める気配を感じて来てくれた王子様。


 私には倒せない魔物と戦う王子様。


 彼の素顔はどんなものか。彼はどんな素敵な人間なのだろうか。彼の名前はどんなものだろうか。そして彼は……一体どこの誰なのか。


 その全てを残すところなく知りたい。知りたくて知りたくてたまらない。


 こんな気持ちになったのは初めて……。私は心臓の鼓動が早くなっていくのを止められない……!


暗殺者の一撃アサシネイト毒爪型ポイズンクロー


 爪と暗殺者の剣を使った容赦のない攻撃。優しげな声から想像できないような凄まじい連撃……!


 私の中で眠っていた知らない自分を起こされるような感覚。私はすっかり彼の戦いぶりに見入っていた。


「大丈夫ですか?」


 戦いが終わった時、ドロップアイテム目もくれず、私に手を差し伸べて来てくれた……。たったそれだけの気遣いに、私の心臓はうるさいくらい高鳴っている。


「は、はい……感謝……するわ」


 いつもみたいに声がうまく出ない。緊張しているの……? この、私が?


 彼を前にして言葉を発するのすら、ままならないほど緊張している!? まだ大人数の前でスピーチしていた方が心は落ち着いているのに……私は、私はたった一人の前でこうなっているの!?


 全てがあり得ない。


 そんな中でもっとあり得ないのが……。


「あ、あの名前を……」


「無事なら安心しました。では僕はこれで」


 名前を聞くような隙すら与えず、立ち去っていく彼。私に声をかけられて立ち止まらなかった人は今までいなかった。それこそ同年代なら。


 けど、そんな私の言葉すら無視して目にも止まらぬ速さで立ち去っていく。


 私はボーッとその姿を見つめながら、私の前に落ちたあるものを拾う。


「……学生証。それもうちの学校の」


 少しだけ汚れた学生証。そこには名前と彼が所属する学科名が書かれていた。


 ダンジョン専攻科の鞍馬ケイ。


 それが私の王子様の名前。必ず、捕まえてみせる。


「待ってなさい……ふふ、週明けが楽しみね」


 週明けに彼と出会うのが楽しみだ。絶対に見つけてみせる。


 ……ちなみにこれは余談だが、配信を切り忘れていて、全て視聴者に聞こえていたことに気が付いたのはもう少し落ち着いてからのことであった。


☆★☆★☆

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