第12話 陰キャ、最強暗殺者になる

「あと少しで……上層!」


 下層中層と難なく駆け抜けることができた僕は、上層へと差し掛かっていた。その瞬間だ。背筋が凍りつくような強い気配を感じたのは。


『ゲェーーギャッギャッキャッギャ!! ギャアアア!!』


 聞いたこともないような魔物の笑い声。深層にいる時もこんな人間が笑うような声を上げる魔物はいなかった。


 気配感知がデスリッチの気配と、そこに混ざった巨大な気配を感じ取っている。下層で戦った時よりもデスリッチの気配は強く濃い。


 ここから導き出されることは一つ。デスリッチはまだ倒せていない。むしろ、ここからが本番だろう。


「いいよ、乗ってあげるよ。決着をつけようデスリッチ」


 上層に駆け上がるとそこに広がっていたのは異様な光景だった。


 凍りついた魔物、亀裂が入りながらも氷で支えられた坂道、そして巨大な骨の竜。その向こう側では多くの探索者たちが騒ぎを起こしている。


 僕が来たことに誰も気がついていない。背面隙だらけ……僕の暗殺が光る。


暗殺者の一撃アサシネイト


 壁走り、超突進を駆使して高く跳躍。その後、骨の竜を貫くように僕ごと突っ込む!


「ここか……感じた気配があったのは」


 僕は着地しながら骨の竜を見据える。解析のスキルがその骨の竜の正体を表示する。


【アビススカルドラゴン

 詳細不明】


「やはり規格外イレギュラーか。次は決着をつけようか」


 暗殺者の剣を格納しながら僕はそう口にする。暗殺者の一撃で貫いたものの、アビススカルドラゴンは再生を始めていた。


 キメラを見た後じゃ大して驚かないけど、これも複数命があるタイプの魔物。


「再生するか……いいよ、死ぬまで殺そう」


 僕がアビススカルドラゴンへ向かおうとしたその時だ。背後で衣が擦れる音がした。……って、え? アビススカルドラゴンに気を取られていたけど、今まで後ろに誰かいたの!?


「…………あ」


 後ろにいたのは美少女も美少女。目を奪われるほど美しい女の子……って、僕この子のこと知っているような……えーと、あれ? 同じ学校に似たような子がいた気がするけど……。


 いやいや、今は誰がそこにいるかあまり関係ない。傷を負っている。周囲の探索者とは比べ物にならないほど沢山の傷を。


 それにその場でへこたれて、怯えたような様子。彼女が弱っているのは一目で理解できる。こんな時かけるべき言葉は……。


「大丈夫。ここは任せて」


「え、あ……は、はい」


 再び前を向く。後ろには弱った女の子。探索者たちもアビススカルドラゴンに怯えている。僕しか戦える人はいないだろう。


 けど、それがちょうどいい。こいつは僕一人で倒したい相手だ。僕の不始末は僕の手で決着をつける。


「さあ勝負だ……今度こそ決着をつけようか」


『ギャッギャッ……ギリィアアアア!!!』


 僕たちが動き出すのは同時。アビススカルドラゴンは全身の骨を棘に変化させて、僕にミサイルの如く撃ち出してくる。


 それをキメラの爪で弾く、弾く、弾く……っ!!


「もらった!」


 すれ違いざまにキメラの爪でダメージを与える。キメラの爪の効果、アビススカルドラゴンの能力を吸収する!


【判定成功。呪毒魔法のスキルを一時獲得します】


 呪毒魔法……!


 アビススカルドラゴンやデスリッチみたいなアンデッド相手にはかなり効果は薄いけど、それでも一部は通じる!


付与エンチャント:腐敗毒」


 キメラの爪にエンチャントするのは腐敗毒の魔法。


 腐敗毒はゾンビみたいな最初から腐っている魔物には効果はないが、スケルトンみたいな骨だけの魔物には骨をグズグズに腐らせて崩せる。


『ギャアアア!!!』


 アビススカルドラゴンが骨を垂直に打ち出す。それは上空で骨の鳥モンスターとなる。スカルバードか!!


「魔物も作れるとか便利すぎだろ……けど!」


 僕に襲いかかってくるスカルバードの群れ。暗殺者は多対一が苦手……それは地上戦においての話だ。


 空を飛ぶ。それは地上から一方的に逃げられる、または有利な立ち位置から攻撃できるというアドバンテージがある代わりに、近づく事さえできれば隙だらけという弱点がある。


 普通の魔物は手や足で急所を守ることができる。けど、それらがない、もしくは発達していない空中の魔物は急所に対する防御手段がないのだ。


 故にそこから導き出されるのは、空中の相手に対しては体勢を崩すまでもなく暗殺者の一撃が決まる。


 その暗殺者の一撃の名前を……。


暗殺者の一撃アサシネイト対空型エアリアル!!!」


 超突進のスキルを使い跳躍力を強化。スカルバードの急所を貫きながら、それを足場にして跳躍。連続でスカルバードを撃ち落としていく。


 そしてこの角度、この距離、スカルバードの足場があれば……決まる!


暗殺者の一撃アサシネイト……!」


『ギェアアアア!!』


 アビススカルドラゴンが胸部にある真っ赤な球体状の核。それを守るように骨をドーム状に形成して守る。超突進でスカルバードを蹴っているとはいえ、これでは暗殺者の一撃が届かない……。


「……いんや、僕の勝ちだ」


 その防御は対応可能!


 暗殺者の剣を格納して、キメラの爪を突き出す。腐敗毒をエンチャントされたキメラの爪が骨のドームを砕く。


「安心したよアビススカルドラゴン。性能ではキメラの爪の方が上だ」


 キメラの爪でアビススカルドラゴンの骨を攻撃した時と迎撃した時、この二つのタイミングでキメラの爪の方が強度が高いとわかった。


 故に腐敗毒の付与があれば、いくら骨による防御に頼っても、キメラの爪の一振りで破壊できる。その予想は正しかった。


暗殺者の一撃アサシネイト改め、暗殺者の一撃アサシネイト毒爪型ポイズンクロー


 アビススカルドラゴンの核をキメラの爪で引っ掻き、暗殺者の剣を突き刺す。突き刺したところにキメラの爪をねじ込み、こじ開けるような形で亀裂を広げて……無理矢理破壊する。


『ギ……ギャ……ギャァァァァァァァ』


 断末魔を上げて消滅するアビススカルドラゴン。核を完全に破壊されたことで、デスリッチの魂も完全に消滅した。


 そして、僕の視界に文字が映し出される。


規格外イレギュラーの討伐を確認しました。進化体のスキルツリー解放回数を二回追加します】

 

☆★☆★☆

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