第11話 陰キャ、S級美少女を助ける

 魔物の大群を前にして一人で立つ神代アオイ。神代アオイは杖を指揮棒のように振るう。


「氷よ、結晶となれ」


 神代アオイの周囲に氷の柱が現れて、亀裂が入って崩れかけていた坂道を支える。


 大規模な魔法行使。魔法使い系のスキルツリーをかなり解放していないとできない芸当だ。


『キルルルル!!!』


 しかし、その魔法の隙を狙って、スケルトンウォーリアーが斧を振り上げて、神代アオイへと振り下ろす。


 その刃が彼女の元に届くことはない。


 ——ガキン! と硬いものに当たったような音を立てて、スケルトンウォーリアーの斧は弾かれる。


『なんだなんだ!? 何が起きてるんだ?』

『↑お嬢の配信は初めてか? 肩の力を抜けよ』

『お嬢の防御性能を舐めない方がいいぜ新入り』

『ンンンンんお嬢様のぉっ!! 防御性能は探索者一ぃいいいいい!!!』


 先程の光景に驚く視聴者と、知っているのか冷静な視聴者。


 側から見たら、先程はスケルトンウォーリアーの攻撃が、何もないところで弾かれたように見える。


 しかし、そこに何もないわけではない。彼女の周囲には透明な氷の膜が張られていた。


「邪魔よ、消えなさい」


 その一言でスケルトンウォーリアーが足元から凍って砕ける。氷の結晶が彼女の周囲を舞う。氷の魔女、氷結のご令嬢、それが神代アオイの通り名だ。


『うつくしい……』

『お嬢麗しいです』

『お嬢最高です』

『¥10000

 お嬢様今日の献金ですお受け取りください。そのお瞳が美しいです是非とも罵ってくださいブヒイイイイ!!』


「あらありがとう。いつもいい声で鳴くわね豚さん」


 カメラに視線を向けながら、冷たい瞳でそういうアオイ。その反応を見て、視聴者たちは更なる盛り上がりを見せる。


『フォオオオオオオオ!!!』

『イイイイヤッハアアアアア!!!』

『最高うううう!!!』


 そんなコメント欄を見て、アオイは柔らかく微笑んだ後、再び視線を魔物たちの元へ向ける。


 まだまだ魔物の侵攻は止まらない。爆発でかなりパニックになっているのか、暴走状態だった。


「いいわまとめて凍らせてあげてる」


 ゆっくりと杖を振り上げて、鋭く振り下ろす。次の瞬間、アオイを護っていた氷の膜が弾けて、前方にいる大量の魔物へと飛散する。


『ギ……!?』

『グオ!?』

『ギャッ!?』


 飛散した氷の粒に当たった魔物たちはたちまち凍りついていく。次々と凍りついていく魔物たち、その様子を見て探索者たちは安堵の表情を浮かべる。


「よ、よかった……」

「これで俺たちは安全だ」

「流石神代アオイ……この近辺なら最強なんじゃないか?」


「あ、アキラくぅん、どうにかなりそうっすよこれ」

「ふ……ふははは! そうだよな! そうだよな!! アオイ様にかかれば、こんなのどうってことはねえ!! ちょっと、騒ぎ起こしたくらいで、調子のいいことを言ってよ! バカなセンパイだぜ!!」


 アキラは事態を軽々しく、かつ手早く収束させた神代アオイの実力を褒める。


 爆発騒動で一時はどうなるか分からなかったが、アオイが坂道の崩落を防ぎ、魔物の侵攻も止めた。


 これで何事もなく終わるだろう。そう思っていた時だ。


『グ……ギャッギャッキャッギャ!!!』


 魔物たちの奥で魔物の笑い声みたいなものが木霊する。それに合わせて再びアキラの電話が鳴った。


『アキラくん。いいものが見られるぜ。神代アオイの登録者数は百万人だっけか? いいよな彼女。クールで美して、そして強い。お前たちなんかとは比べ物にならないくらいにな』


「センパイ……何を言いたいんすか?」


『いやな。そんな彼女も規格外イレギュラーを前にしたらどんな風に鳴くのかなと思ってな。強気な女こそいい声で鳴くとは思わないかあ?』


 電話の向こう側下卑た声が聞こえる。


 アキラは一筋の汗を流しながらセンパイの言葉の続きを待つ。


『アキラくん……君には悪いことをした。すまないと思っている。演出のためだ。彼女を救うヒーローになってみないか?』


「は……はあ? 何を言ってんすかセンパイ。あんだけのことをしておいて俺をヒーローになんか」


『出来るさ。俺たちを信じてみろよ。アキラくんはよく働いてくれた。だからこれは俺たちからの心ばかりの礼だ。いいものをやるからさ!』


 アキラたちの背後にいつの間にか剣が置かれていた。黒と金を基調にした大剣。


【狂血騎士の処刑剣

 使用者の血と正気を奪い強化される魔剣。『伝説の魔剣』の一つ】


『世にも珍しい伝説の魔剣だ。これを君に預けよう。それだけ期待してるってことだ。綺麗に決めてくれよ?』


「せ……センパイ、そこまで俺のことを見込んで」


「アキラくん凄いですよ! 伝説の魔剣なんて超貴重なものですよ!!」

「アキラくんは期待されているんです! それにここでお嬢様助けたらヒーローになって、大量のお金が手に入りますよ!!」


 伝説の魔剣を前にして盛り上がりを見せるアキラたち。伝説の魔剣はダンジョンで手に入る物の中でもトップクラスに貴重なものだ。


 その名前に恥じず、性能も他の武器に比べて段違いに高い。


 そんな武器を前にしてアキラたちはすっかり先程までのセンパイの発言を忘れていた。


『カッコいいところ……見せてくれるね? アキラくん。何、こちらは程よく彼女を痛めつけて、絶望した顔が撮れればいいんだ』


「せ、センパイの期待に応えますよ! やりますよ俺は!!」


 アキラがそう言って伝説の魔剣を抜いた頃。


「アビススカルドラゴン……ですって!? 深層も深層の魔物じゃない!! みんな逃げなさい!! ここは私が……っ!?」


 咆哮と共に現れた全身が骨になった巨大な黒い竜。翼は骨の翼を大きく広げて、再び咆哮を上げる。


『ゲェーーギャッギャッキャッギャ!! ギャアアア!!』


 咆哮と共に打ち出される衝撃波。アオイはそれを何重にも氷の膜を展開してそれを防ごうとするが、全て細氷の如く砕かれてしまう。


「うそ……でしょ?」


 紙切れの如く吹き飛ばされるアオイ。その様子に視聴者も周囲の探索者も動揺する。


『うわああああ!! お嬢様大丈夫ですか!?』

『これやばいんじゃね?』

『やばやばやばでござる!! ガチやばいですよこいつあ!!!』


「……ぐっ、まだ」


 アオイが立ち上がろうとしたその時だ。アオイの前にゆっくりとした歩調でアビススカルドラゴンが近づく。


 近づく度に視界を埋めるアビススカルドラゴンの姿。真紅の双眸がギョロリとアオイの姿を捉える。その瞬間だ。


「…………あ」


 短い言葉ともいえぬ声と共に、アオイの心が折れてしまった。


 普通魔物に感情はないはず。なのにギョロリとアオイを見つめる目、骨だけの竜の顔が笑っていた気がした。まるでアオイという獲物を見つけたことに対する喜びゆえか。


『ギェエアアア!!!』


 アビススカルドラゴンが巨大な爪をアオイへ振り上げたその瞬間だ。


 影と共に一つの声が響く。


暗殺者の一撃アサシネイト


 アビススカルドラゴンを貫く一閃。流星の如くアビススカルドラゴンを穿ち、アオイの前に立つ影。


 左手に特徴的な籠手を、右手に魔物の爪を付けた影法師。深層の魔物ですら感知が困難な彼の隠密能力は、人々の前では姿すら捉えるのが困難な真っ黒な影に見えてしまう。


「ここか。感じた気配があったのは」


 ——深層に突き落とされた少年、鞍馬ケイ。彼が最強の暗殺者として名を馳せる戦いが始まる。


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