第10話 いじめっ子、さらに破滅の道を進む

「アキラくん、今日何が起こるんでしょうかねえ?」


「さあな。でもセンパイが言うにはここで張り付いてカメラ回してるだけで二十万だぜ二十万!! うめえ仕事だよな!」


 ケイが目覚める一時間ほど前。


 鬼塚アキラ一行はセンパイの指示通り、昨日袋を置いた近くでダンカメを起動させながら、待機していた。


 週末ということもあってか、ダンジョンには多くの人が入り乱れる。特にここは下層と中層の境界。


 素材の採取に来た探索者、先輩探索者に案内される新米探索者、中には配信している人もちらほらいる。


 けど、その中で別格のオーラを放つ探索者がいた。


「アキラくん! あ、あれって神代さんじゃないですか!?」


「な……!! なんであんなところにうちのお嬢様が!?」


 凛とした佇まい。すらりと伸びた手足。レザー系のジャケットとズボンを着こなしたボーイッシュな姿に見えながらも、目を惹くような美しい女性探索者。


 神代アオイ。整った容姿と少し強気な口調、クールな佇まいが多くの視聴者に刺さり、今、勢いに乗っている新進気鋭の探索者兼配信者だ。


「さて、今日は中層域で配信していくわ。今日も視聴よろしく頼むわね」


『わかりましたお嬢!!』

『待ってましたお嬢!』

『お嬢様! 今日も大変美しいです!!』


「ふふっ、ありがとう。では今日も張り切っていきましょう」


 凛としてクールな佇まいの彼女が優しく微笑めば、それだけでたちまち視聴者の心は鷲掴みになる。


「あ、アキラくん!! これはチャンスですよチャンス! うちのお嬢に媚びでも売れば……!」


「へへっ……! うちの学校でもダンジョン専攻科じゃなくて、経営科のお嬢! ここは先輩探索者としていいところを見せれば……!」


 アキラたちは彼女のことをよく知っている。


 アキラたちが通う高校には様々な学科がある。ケイやアキラが通うのはダンジョン専攻科。


 近年急激に価値や需要が高まるダンジョンや探索者。優れた探索者及び、その探索者を支援するサポーターを育てるのがダンジョン専攻科だ。


 対する神代アオイは経営科。将来有望な経営者を育てるというのを目的とした学科だ。


 神代アオイがアキラたちがお嬢様と呼ばれているのはその美しい佇まいと凜とした態度以外に、彼女の実家が神代グループという大企業を経営しているから。


「しかし、いいんですか? センパイの指示はここで待機でしょう?」


「何言ってんだ! 二十万とお嬢に媚を売って得られる金額を考えてみろ! 二十万なんて端金、目でもないような大金が俺たちのところに転がり込むぜ! へへっ、どうやって媚を売るかだな」


「さすがアキラくん!! そうですよね! センパイの仕事よりも、そっちの方がいいっすよね!」


 大企業を経営する一家のお嬢様。つまりそれは将来の神代グループの経営者であるということ。そんな彼女から気に入られれば大金が舞い込むだろう……そう考えたアキラたちは早速、神代アオイに近づこうとする。


 その瞬間だ。


 下層と中層の境界であるここの様々な場所で爆発が起きた。


「……ッ!? なんですかこれは!?」


『え……なになに、やばくないか?』

『魔物いないのに爆発とかありえる?』

『魔法の暴発とかの規模じゃないでしょこれ……やばくないか?』


 下層と中層は巨大な坂道で繋がっている。その坂道の付近が爆発し、坂道に亀裂が入っていく。


「やばいやばいどうなってんだよこれえ!!」

「だ、誰か助けてくれ……ば、爆発で!!」

「ヒーラーは誰かいないのか!? ば、爆風が!」


 ここまで来れるような探索者であれば、この爆発で死ぬことはないが、ダメージは負う。


 混沌としていく状況。大規模な爆発に刺激されて、魔物たちが暴れ出す。


『キシャアアア!!』

『グルオオオオオ!!!』

『キョエエエエ!!!』


「ま、魔物だあ!! クソッ!!」

「やめろ……くるな……来るなあああ!!」


 アキラたちは少し離れた場所からそれをみて、他の探索者たちとは少し違う感情を抱いていた。いや、それはアキラたちだけではなく、その近辺にいた探索者たちも、アキラと同じことを思っていただろう。


 不意にポケットに入れていた電話が鳴り出す。


『アキラくんお疲れ!! どうだ? いい感じに撮れているじゃないか。俺はお前みたいな先輩思いの後輩を持って幸せだよ』


「せ、センパイ……これどういうことなんですか!? ど、どうして……どうして昨日置いたふ、袋のところで……!」


『ああ、あれな。アキラくん達に運ばせていたのは爆弾だ。別段アキラくん達だけじゃないが……おめでとう! これで君も立派な犯罪者だ! こんな大事を起こしたのは君たちなんだからなあ?』


 ダンジョンに危険はつきもの。魔物を倒すためにトラップを仕掛けたりするのはなんらおかしいことではない。


 ただ、多くの探索者を巻き込むような意図的な破壊行為。これは別だ。これは国際法によって厳しく制限されている。


 アキラたちが仕掛けた爆弾は一つ一つは小さく、大した物ではない。しかし、ここに仕掛けられた爆弾は多く存在していた。


 闇バイトで運び屋をしていたのはアキラたちだけではない。アキラたちの近辺で偶然にもダンジョン配信を行なっている探索者たちもまた、この闇バイトに関わっていた。


『アキラくん。これで次の仕事も受けてくれるね? 報酬は弾もうじゃないか。そうだな……百万とかどうだ?』


「じょ……冗談じゃねえぞ!! な、なんで俺がこんなこと……!!」


『いいのかなあ? 君たちはもう立派な犯罪者。これがバレたら日の目をみて歩くことはできないかもしれないねえ。なに、俺たちセンパイの言うことを聞いていれば、ちゃあんと、真っ当な生活を送れるようにしてあげるからさ』


 愚かにも闇バイトを受けてしまった人間の末路は一つ。


 下っ端として働かされる未来だけ。


 アキラたちはここからズブズブと破滅への道を歩むことになるのだが……今はそれよりも。


「落ち着きなさい! 動ける探索者は陣形を組んで魔物の対処を! 負傷者は下がらせて治療させてあげなさい!」


 その中で凜とした声が響き渡る。


 神代アオイ。彼女が腰から小剣に似た杖を引き抜きながら探索者たちに指示を出していた。


「私が前に出るわ」


 そう口にして、神代アオイは軽やかな身のこなしで魔物たちの前に躍り出た。


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