第5話 陰キャ、深層で無双する

暗殺者の一撃アサシネイト!!」


『グオアアア……!』


 胸を突き刺されたレッドオーガが地面に倒れる。


 僕は振り向きながら、スキル超突進を発動。後方にいるブルーオーガの背中に近づき……。


暗殺者の一撃アサシネイト突撃型チャージ!」


『グオッ!?』


 超突進の勢いを殺さないまま、跳躍してブルーオーガの首を暗殺者の剣で斬り飛ばす。


 地面にブルーオーガの魔石が転がる。レッドオーガが倒れた場所にも同じように魔石が転がっていた。


「やっぱり心臓みたいなアイテムはなかなか落ちないんだ」


 どれくらい深層にいただろうか。超突進に慣れた僕は深層で魔物を狩っていた。


 いち早く深層を突破したいが、何があるのか分からないのが深層。倒せる魔物がいるうちにスキルポイントやあわよくば、心臓のドロップを期待していた。


 ただ、心臓はレアドロップと出てきた通り、バイコーンの心臓以降一度も出ていない。


 かれこれレッドオーガとブルーオーガを合計三十体くらいは倒しているが、ドロップするのは魔石や角ばかり。角みたいな素材は持ち運べるような物がないため、その場に放置している。


「でもスキルポイントはかなり溜まった……。ちょっと強化でもしようかな」


 連戦のおかげでスキルポイントはかなり溜まった。これなら要求されるスキルポイントが高い暗殺者のスキルツリーでも、結構な数解放できるだろう。


 暗殺者のスキルツリーは、隠密能力、気配感知能力、暗殺者の剣、暗殺者の一撃、暗器の五つの要素で構成されている。


 隠密能力と気配感知能力はそのままの意味。これらを伸ばすことで、より活動しやすくなる。


 暗殺者の剣は暗殺者のメインウェポンの強化。今は短剣が飛び出すだけだが、これを強化していくことで様々なギミックを付け加えられる。


 暗殺者の一撃も暗殺者の剣と方向性は似ているだろう。今は敵に見つかっていない状態でしか暗殺者の一撃は繰り出せないが、このスキルツリーを強化すれば様々な場面で暗殺者の一撃を繰り出すことができる。


 暗器は強化することで様々な暗器を使えるようになるが、今は伸ばす気はないのでスルーしよう。


「この状況だと武器は暗殺者の剣だけ。これの強化をしなくちゃね」


 暗殺者の剣は暗殺者のメインウェポンにして、暗殺者の本体と呼ばれるほど性能のウェイトが高い。


 最初隠密と気配感知にスキルを振ったのは、それらがなければそもそも暗殺者の一撃を繰り出せないから。


 しかし、それらが揃っている今、強化すべきはこの剣。


 暗殺者の剣は初期状態だと暗殺専用。正面きっての戦闘性能はしていない。先ずは刀身を伸ばし、刀身の強度を上げるスキルに割り振っていく。


「おお、暗殺者の剣が大きくなってる……!」


 軽く振るって飛び出した刀身。先程までは短剣くらいの大きさだったが、今は剣士が使うような片手剣くらいの大きさになっている。


 暗殺者の剣は暗殺専用。刀身を強化しないと、正面戦闘した際、刀身が破壊されてしまう。


 強化しても少し心許ないため、本当なら暗殺者の剣以外のメインウェポンを持つべきなんだろうけど、それはここを出てから考えることとしよう。


「よし、あとは正面戦闘用のカウンターシールドと、暗殺者の一撃を強化して終わりかな」


 スキルの割り振りを終えた僕は再び深層突破のために魔物狩りを行なう。


 けど、本来の目的も忘れてはいけない。魔物狩りを行いつつ、僕は下層に繋がる道を探す。ダンジョンは下に行けば行くほど広くなっていく仕組みだ。


 つまり僕がいる深層はダンジョンの中でも一番広い区画。その広さはダンジョン全体の三割〜四割を占める。


 平面に広いのはもちろん、高低差も大きい。上に登ろうと思ったら、壁走り系のスキルが欲しいな……。


「そう思っていたらいいところに……!」


 僕は物陰に身を隠しつつ、道の先にある開けた場所を見る。そこにいたのは一体の巨大な蜘蛛。大きさな三メートルくらいだろうか、人の身体よりは余裕で大きい。


 デビルタランチュラ。深層にいる猛毒を使う魔物だ。


 デビルタランチュラの嫌なところは立体的な動きをするところだろう。今は警戒していないため、地面を歩いているが、戦闘時は壁や天井に張り付いて立体的な動きをする。


 さらに感知能力が高く、攻撃手段も様々。今の僕が正面から戦えば確実に負けるだろう。


 しかし、これを倒して心臓がドロップすれば壁走り系のスキルが手に入るかもしれない。


「よし……行くぞ!」


 物陰から飛び出して超突進を発動。


 デビルタランチュラが気がつく前に……。


る! 暗殺者の一撃アサシネイト!!」


『ぎぃ……!? ギ、ギギぃ!?』


 デビルタランチュラの頭部を突き刺す。デビルタランチュラは即死するわけではなく、数秒もがいた後に力を失い、地に伏す。


 暗殺者の一撃が決まったからと言って即死する魔物ばかりじゃないのか……。もう少し、暗殺者の一撃についての認識を改めないといけない。


 デビルタランチュラが死んだところに魔石とデビルタランチュラの心臓が落ちる。……やった! レアドロップ品が一回で落ちているなんてついてる!!


「確率は収束するもんなんですよ。さてさて、効果は……」


【デビルタランチュラの心臓。

 レアドロップ品。食用の素材。

 食べると壁走りのスキルを獲得する。また低確率で猛毒使いのスキルツリーを解放できる。さらに耐久能力が強化される】


 猛毒使い……!


 暗殺者としては欲しいスキルツリーだが、スキルポイントに余裕がない。進化体で取りたいスキルツリーは別途であるし、是非とも手に入れたいところだ。


「低確率……お願いします!」


 ごくりとデビルタランチュラの心臓を丸呑みする。味は……なんだろ、わりかし苦みと辛みが強い。ゴーヤと唐辛子を同時に食べさられてる気分。


【デビルタランチュラの心臓を食べたため、壁走りのスキルを獲得しました。耐久能力が向上しました】


 うげ……猛毒使いのスキルツリーは解放されなかったか。残念。


 けど、本命の壁走りのスキルは手に入れた。これで上に行くのがかなり楽になるだろう。


『ゲコっ!』

『キシャアアアア!!!』


 そんなことを思っているとだ。


 少し離れたところでカエルと蛇の魔物が互いを睨み合っていた。


「あれは……いや、やばいのがもう一体いる!」


 気配感知がさらにもう一体の魔物を感知し、僕は咄嗟に物陰に隠れる。


『ガルルルル………!!』


 蛇とカエルの魔物。それらの前に現れたのは巨大なライオンだった。


 僕はこれから、深層の恐ろしさを肌で感じることとなる。


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