第18話 陰キャ、S級美少女とランチデートをする

「ねえ、放課後空いてるかしら?」


 夏休み前ということで、授業は半日で終わる。ほとんどホームルームなのだけど。


 そのホームルームが終わって、夏休み突入と言ったところ。クラスが夏休みの始まりにテンションが上がりつつある中、彼女は来た。


「やっぱり間違いとかじゃなかったんだ……」

「元陰キャとお嬢様のカップル成立か? これは」

「大出世じゃん! いやでも今の彼、超かっこいいし……仕方ないよね」


「それに比べてあいつらは」


 クラスの声は二つ。一つは僕と彼女の組み合わせを再度確認し納得する声。もう一つが、クラスの隅で気まずそうにしているアキラたちへの声。


「あの後、屋上まで追って言い返されて戻ってきたらしいよ」

「情けねえよないつもあんなにオラってるのにさ」

「まあでも、ちょっと時代遅れというか……学校の品位下げてるっていうか……」


 たった一日足らず。


 それだけの時間で評価が天から地に落ちてしまったアキラたち。元々不満とかは買っていたのだろう。けれど、体格や乱暴な性格のせいで普段言われなかったことが、今になって言われ始めるようになった。


 いつものアキラたちならすぐに言い返すところだが、彼女が見ているとそれも難しいのだろう。アキラたちは気まずそうに教室の隅で縮み困っている。


「どうしたんですか? 何か用でも……?」


「あら、仲良くしましょって言ったじゃない。ランチとかどうかしら? と思って」


 ら……らんち……?


 ランチ……って、あのランチ? お昼ご飯のことだよね!?


 ぼっち飯が当たり前の僕が彼女とランチってマ!?


「いいいいいいや、いやいやいや、ぼ、僕、貴女に見合うようないいお店とか知りませんし」


「誘っているのはこちらなんだから、当然それなりのお店は見繕っているわよ。それとも予定とかあったかしら?」


「いや、ない……ですけど」


「そ、じゃあ決まりね。行きましょ」


 と言われて、僕は半強制的に連れていかれる。これってデ……いやいやいや、付き合っていないし、女友達とお昼ご飯食べにいくだけだそうだ……緊張で気持ち悪くなってきた……。


 僕が彼女に連れてこられたのは新都会駅のレストラン街。学生の人もちらほらいるけど、大半はサラリーマンの人が多い。学生はフードコートがメインだろう。


 サラリーマンが多い理由として、店の前に立っている看板の価格がフードコートに比べるとお高めだ。最低価格千円超え、二千円や三千円のメニューも珍しくない。


「ここにしましょここ」


 その中で僕らが入ったのはカフェレストランみたいなお店だ。おしゃれな店内で、いつも菓子パンとかプロテインバー、栄養ゼリーとかで昼食を済ませている身にとっては異次元の場所だ。


「私の奢りよ。好きなものを頼みなさい」


「……って、いいんですか? ここ、それなりの値段はしますけど……」


「私が誘ったんだから、私が出すわよ。それにこれくらいならなんともないわ」


 それなりにいい値段するから気が引けるけど、あまり遠慮しすぎるのも良くないか……。彼女の言うことに甘えて、ここは奢られておくことにしよう。


「君は探索者を続けるのかしら?」


「……どうしてそんなことを?」


「聞きそびれていてね。貴方は探索者というよりは探索者を支援するクラフターやサポーター志望と聞いたから」


 彼女の言う通り、僕がクラフターやサポーター志望なのはその通りだ。


 ダンジョンにおいて一番儲かりやすいのは探索者。次点でクラフターやサポーターが入る。


 クラフターやサポーターは危険に遭う可能性が低い分、とてつもなく大きな稼ぎは期待できないが、安定した収入が見込める。


 ダンジョンへの需要が日々高まっていく現代、探索者を志望する人たちが増えていく中、それら二つは目立ちにくい、地味、座学などの勉強を要することから人気がない。


 けど、そのポジションについてしまえば大きな利益を期待できるだろう。そう思って、僕はそのポジションを志望していた。


「君も知っている通り、人間が一生に解放できるスキルツリーには限度があるっていうわ。時間や得られるスキルポイントにもよるけど、大きな原因はスキルツリーの解放量に人間の身体が適合しきれない……と言われてることもあるの」


「……え? その説、初めて知りました」


「まあ無理もないわ。かなり最新の研究だもの。だから効率的な面や人間の性能的な面から、人は探索者かその二つか、どちらかを選ばざるを得なくなる」


 いや待てよ……。人間が解放できるスキルツリーには限度があって……、身体が適合しきれないのが主な理由?


 じゃあ、この進化体はどうなんだ? ありとあらゆる環境、状況に適合可能なこの身体。この身体なら、スキルツリーの限度を超えられるのか?


【可能です。進化体はスキルツリーの解放量の制限を無視することができます】


 進化体が、僕の視界にそういう答えを文字として映し出す。


 なら、僕は探索者にでも、クラフターにでも、サポーターにでもなんでもなれる可能性を有している。いやその全てを手にすることだってできるかもしれない!


「どうしたの? ボッーとして」


「え、あ、いや! ちょっと答えを考えていて……。クラフターとかは興味ありますけど、でもしばらくは探索者としてやっていこうかなと」


「へえ? なんでか聞いてもいい?」


 僕が探索者を続ける理由。それは心の中で決まっている。


「貴方みたいな困っている人がいる時、いつでも助けられるように」


「……ふふっ、君らしいわね。流石は謎多き最強暗殺者様、っていうところかしら?」


 彼女は微笑みながら自分のスマホを僕の前に置く。


 その画面に映っていたのは……え、切り抜き動画? それもアビススカルドラゴンとの戦い!?


「今、君。自分が時の人なんて思ってもいなかったでしょ?」


 彼女は面白そうに微笑みながらそう言うのであった。


☆★☆★☆

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