第17話 陰キャ、S級美少女と連絡先を交換する

「まだ……名乗っていなかったわね。私の名前は神代アオイ。経営科よ。よろしくね鞍馬ケイ君」


「神代……神代……神代って、あの神代グループの?」


「ええ。その神代グループのご令嬢よ」


 神代グループはダンジョンに関する事業を取り仕切る一大グループだ。


 そんな大グループのご令嬢がまさか自分と同じ学校に通っているなんて……思いもしなかった。


「ご令嬢自ら探索者してるんですね。反対されなかったのですか?」


「そりゃあもちろん。今回の件で身を引くように言われたわ。でも私には夢があるの。私にダンジョンのイロハを教えてくれた先生に追いつくっていう夢が」


 そう語るアオイの瞳には強い意志が宿っていた。


 それは僕にないもの……。アオイの様子を見て、僕はどこか羨ましいとさえ思った。


「いいですね、目標や夢があるというのは」


「そう言ってくれると嬉しいわ。ここでひとつ、君に提案なのだけど……私とパーティーを組まない?」


「パーティー……」


 パーティーについていい思い出はない。なにせ一番最初に入ったパーティーがアキラたちがリーダーのパーティーだったからだ。


 探索者は一人よりも二人、二人よりも三人と仲間同士で連携を取ることでより安全にダンジョンの探索を可能とする。


 役割分担ができる分、伸ばしたいスキルツリーに一点集中でスキルポイントを振れるため、ソロで活動するよりもかなり効率的だろう。


 こんなS級美少女とも呼べる彼女がパーティーに誘ってくれているのだ。それはとても光栄なことだろう。けれど僕は……。


「ごめんなさい。今、その話を受けることはできません」


「……理由を聞いてもいいかしら?」


「まず、僕は僕の決着をつけます。アキラたちは懲りたと言っても、いつかまた来るでしょう。その時に貴女に迷惑をかけるわけにはいきません」


「そう、分かったわ。それが君の選択というなら尊重するわ。けど、困ったらすぐに私に頼りなさい。貴方にはまだ大きな借りが一つ残っているのだから」


 僕は立ち上がりつつ考える。彼女の手を借りる……それは最終手段だろう。彼女は性格的にも動かせる力的にも容赦がない。徹底的にアキラたちを潰そうとするだろう。


 アキラたちが殺すつもりでやったこととはいえ、僕は生きて帰ってきた。復讐するのもしないのも、僕の選択次第。


 ただ、自分の手でどうしようとは今のところ考えちゃいない。どうせ、ここまでボロが出ているんだ。自滅するのはすぐだろう。


 それよりもそろそろ戻らないと授業の時間だ。僕はともかく、彼女を遅刻させるわけにはいかないだろう。


「さあそろそろ授業の時間です。行きましょうか」


「ええ、そうね。あ、最後に連絡先だけ交換させてちょうだい。これから仲良くしましょ」


「ええ、まあ……いいですけど」


 僕は彼女の頼みに応じて、SNSの連絡先を交換する。公式アカウントと家族しか連絡先がなかったところに初めて同級生の名前が追加されて少し嬉しい。


「じゃあね。また会いましょ」


「はい。後、困った時はいつでも頼りに来てください。僕も貴女の力になれるのなら、精一杯のことをしますので」


「え……ええ。考えておくわ」


 彼女は少しだけ足早に去っていく。僕もその背中を追いかけるように自分の教室へ戻っていくのであった。

 


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