第2話 陰キャ、進化する
「いったあ〜〜〜、ここは湖?」
奈落に落ちた僕が着地したのは、青色に光る小さな湖だった。ダンジョンの中にいたおかげなのか、普通なら死んでしまうような高度でも、なんとか生きている。
数十年前、突如現れたダンジョン。
この中に入ると人は様々なスキルツリーを手に入れ、戦いや採取、クラフトなど様々な行動をすることでスキルポイントを獲得し、それを消費することでスキルを手に入れる。
僕は防御系スキルツリーの頑丈というスキルを持っている。効果はどんな攻撃やどんなダメージを受けても、確定で一撃は耐えられるというもの。
これで落下ダメージを耐え切ったのだろう。
このスキルのことはアキラたちも知らない。僕も落ちてくるまでテンパっていたせいで忘れていた。
「それにしてもこの水なんなんだろう……」
僕は足下の水を手で掬う。
深層には危険がいっぱいある分、潜った時に得られるリターンが大きいことで有名だ。
特に深層で得られる素材を換金すれば、十年くらいは働かなくても暮らしていけるようなお金が手に入るらしい。
……もしかしてこれもそのひとつなのだろうか?
「こういう時は……【鑑定】!」
基本探索系スキルツリーのスキル。【鑑定】を使ってこの水がどんなものなのか調べる。数秒と経たずして、鑑定結果が視界に映し出される。
『【神域水】
深層にて採取可能な水。特殊な環境下以外では蒸発してしまう。
万病やどんな傷にも効くとされ、生命力の増強も兼ねる。
また、肉体の進化を促す効果もあり、潜在能力を引き出し、肉体を環境に合わせたより高次の物へと進化させる』
「すげ〜〜効果」
つまりこれさえあれば、即死さえしなければすぐに復活できる。僕の頑丈との相性は抜群。
ただ、恐らくこの水はこの深層の中でしか存在できないだろう。特殊な環境下以外では蒸発してしまう。持ち出すのは無理だ。
自分とのスキルとの組み合わせは試してみたかったけど、まだ効果は存在している。
肉体を進化させる効果。これを飲めば今の自分から変われるかもしれない。
「これを飲めば……」
今、幸か不幸か生き残ってしまった。
次に考えるべきはここからどうやって脱出するか。好きな漫画だとついでにどう復讐するかみたいなことを言ってた気がするけど、今のところそのつもりはない。
深層から帰ろうとしたら、少なくとも中層まで登る必要がある。中層と下層の境には転移ゲートがあり、それを潜れば地上に帰ることができるのだ。
そのためには深層と下層の突破は必須。
いじめられて探索者を始めた僕では、正直上層を一人で突破できるかも怪しい。魔物はほとんど狩れず、装備もスキルも大したものはほとんどないから。
生き残るためには一か八か。この水に賭けるしかない。
「こ、怖がるな……。か、変えるんだ。今の僕を……!」
僕は意を決して掬った水を飲み干す。透き通るようなミント風味が強い味。
しかし、それを味わっている暇はなかった。全身を駆け巡る激痛。
ばき、ごき、ぐちゃ! とどう考えても身体から鳴っちゃいけない類の音が響く。
「ぐ……う、あああああ!!! い、いたい!」
全身を駆け巡る痛みに悶えて、ついには湖に溺れていく。なんとか呼吸しようと水面を目指すも、慌てているせいか上手く地上に上がれない。
【神域水の使用を確認しました】
【肉体の進化、及び環境へと適応を開始します】
溺れる中、視界に浮かび上がる文字。するとゆっくりだけど全身の痛みが引いていく。
【痛みへの拒絶反応を感知。肉体再生のスキルを獲得しました】
次は水の中での息苦しさがなくなる。というかむしろ、水中だというのに地面と同じように立つことができる……? 目や鼻を開けた際の水が入ってくるような痛みも感じない。
【水中での活動を確認。水中環境適応のスキルを獲得しました】
「……ぶはっ! 一体何が起きているんだ……?」
【深層での活動を確認。肉体強度、精神強度が著しく低いため、補強します。基礎能力強化系統のスキルを全種獲得しました】
心なしか視界がいつもよりも高い……?
それに下を見てもお腹の贅肉がない……ん? 贅肉がない? 僕ってこんな綺麗なシックスパックだっけ!?
それも大胸筋、三角筋、上腕二頭筋、目に見える全ての筋肉がデブのそれとは比べ物にならないほど引き締まっている……!
「え、ええええええ!?!? ぼ、僕こんな顔だったの!? え!? これ僕!?」
湖に映った自分の顔を見る。贅肉だらけの顔は見る影もなく、スラリとしたメリハリのあるフェイスラインに大変身していた。骨格まで変わってないか……これ。
【自身の外見評価への向上を確認。黄金率の肉体と魅惑の美貌を獲得しました】
「なんだよそのスキル!! そんなスキルがあったの!?」
ついつい突っ込んでしまう。どのスキルツリーにあるんだよ……って思ってしまった。
気になったので効果も確認してみる。効果は……。
【黄金率の肉体
人間の体としてこれ以上ないくらい美しいボディバランスを持っている。
本人が望まない限り外見の変化がほとんどなくなる。状態異常を無効化する。また魅了系スキルの発動時にプラス補正がかかる。
*このスキルはダンジョン外でも一部効果を発動する】
【魅惑の美貌
誰もが見惚れてしまうような美しい美貌の持ち主。
魅了系スキル発動時の判定にプラス補正がかかる。また相手から魅了系スキルを発動された場合、七割の確率で反射する。反射できない場合は無効化する。
*このスキルはダンジョン外でも一部効果を発動する】
わーお。すんごいスキルを手に入れてしまったぞ……。
というかすごいな神域水。こんなにも進化をもたらしてくれるなんて……。
【適合完全終了。一定量の適合及び、スキルの獲得をしたことでスキル進化体を獲得しました】
肉体の変化が収まり、最後にその文字が出てきて更なる文字が映し出されることはなかった。
最後に獲得した進化体の能力が気になり、僕はそれを確認する。
【進化体
神域水を飲み、進化の余地を残している肉体。環境や状況に応じてスキルを自動獲得する。
もしくは自分の望むスキルツリーを獲得することができる。こちらは残り獲得回数分まで獲得可能。一定条件を満たすことで獲得回数を増やすことができる。残り獲得回数二回】
進化体の二つ目の効果。望むスキルツリーの獲得……。
これはこの深層を突破する上で重要なところだ。僕はまだ、この深層で生き残るための力は手に入れた。けれど、魔物と戦えるような強い武器となるスキルは手に入れていない。
今、獲得できるというスキルツリー。その二個。これをどう使うか……これが僕の生死を分けることになるだろう。
「さて……何を取ろうかな」
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