第3話 陰キャ、深層の魔物を一撃で倒す

 深層には様々な魔物がいる。正味、探索者としての知識が乏しい僕にとって、どんな魔物も立派な脅威だ。


 複数体に囲まれること、様々な属性や状態異常に対応しなくちゃいけないということ、どんな魔物でも先手でかつ、一撃で倒せるような攻撃手段が欲しい。出来なければ撤退、そしてそれらを踏まえて高い索敵能力があるようなスキルツリー。


「僕が知る限り候補は二つ……」


 狩人と暗殺者。


 どちらも高い索敵能力、隠密性、条件さえ揃えば敵を一撃で倒せる能力が揃っている。


 差別点は装備の違い。


 狩人は様々なギミックがある武器を装備できる。変形したり、特殊な武器を射出したりとかそういうの。


 暗殺者は暗器という武器を装備できる。基本的に外観では分からないが、少ないモーションで武器が飛び出して攻撃できるといった感じだ。


 装備を整えたり、サブのスキルツリーを伸ばそうと思ったらどちらか一つしか取れないというのが痛いところ。


「僕が選ぶのは……こっち! 進化体! 暗殺者のスキルツリーを頂戴!!」


【確認しました。暗殺者のスキルツリーを解放します。これによりスキルポイントも付与しました。確認してください】


 視界にスキルツリーが映し出される。スキルツリーは名前の通り木みたいな形となっており、最初のスキルから無数に枝分かれしている構図だ。


「本当に出た……。暗殺者のスキルツリー、普通に取ろうと思ったらかなり難しいって聞くけど……」


 スキルツリーを解放するにはいくつかの条件がある。暗殺者や狩人は上級スキルツリーと呼ばれ、いくつかの条件を満たさないと解放されない。


 どちらも解放にはかなり手間がかかる。上級スキルツリーを持っている探索者は少ないと聞く。


 それがまさか一瞬で獲得できるなんて。すごいな神域水。


「そしてこれが暗殺者の剣……!」


 暗殺者の最初のスキルは暗殺者の剣の解禁。利き手、僕なら左手首に巻かれる短剣だ。普段は刃は格納されており、ただの籠手にしか見えないが、勢いよく振ると短剣が飛び出す仕組みになっている。


 スキルを獲得していくことでこの暗殺者の剣も強化されていくが、今の取るべきスキルは違う。


「えーと、隠密行動と気配感知、それと暗殺者の一撃かな」


 貰ったスキルポイントの全てをそれらのスキルに費やす。


 暗殺者は隠密行動で気配や音を消し、気配感知でいち早く敵の存在に気がつき、魔物に見つかっていない状態で必殺の一撃を繰り出す。これが戦い方のセオリーだ。


 取り敢えずの準備はできた。装備は心許ないが、先ずは隠密行動と気配感知を駆使してこの深層を突破する!


「ありがとうございます神域水。この水は後に来る人のために残しておきます」


 出発前に神域水の湖に感謝を告げる。


 ここでさらに飲んで楽々と深層を突破することも考えたが、もしかするとここに辿り着き、この神域水を求める人が現れるかもしれない。


 僕はここで命を救われた。なのでここは枯らさず、次の人が使うために残しておこう。


 僕は気配感知を使いつつ、深層の探索に出る。気配感知……すごい精度だ。リアルタイムでどこにどんな魔物がいるのか手に取るようにわかる。


「あれは……バイコーンかな。初めて見た」


 鋭い二本角の黒馬が進行方向にいた。


 バイコーン。二本角と高い突進力が特徴の魔物。特にその突進は目に捉えられないほど速く、直線上に立つのは危険とされる。


 バイコーンは僕の気配に気が付いていない。二本角は攻撃手段だけではなく、高い感知能力も兼ね備えると聞いていたけど、暗殺者の隠密能力はそれをも凌ぐというのか。


「よ、よし……やるぞ。覚悟を決めるんだ」


 バイコーンは倒さないと進めない。ダンジョンで魔物を倒すのはこれが初めて。僕は呼吸を止めて静かに進み出す。


『……?』


 近付いてもバイコーンは僕の気配に気がつかない。僕は地を蹴り、姿勢を低く、バイコーンの背後に回り、その首筋を目掛けて左手を勢いよく突き出す。


暗殺者の一撃アサシネイト


 勢いよく飛び出した短剣がバイコーンの首を貫く。


『————!!!!?』


 急所を貫かれたバイコーンは何が起きたのか察知することなく、ばたりと倒れる。


 バイコーンの死体は粒子となって消えていき、バイコーンがいた場所に幾つかの物が落ちる。


「バイコーンの角、魔石……それに心臓?」


 魔物は倒すといくつかの素材を落とす。素材は換金したり、武器防具、探索用の道具に加工できる。


 魔石は換金やあるスキルで加工することで特殊な力を持つアクセサリーに加工可能だ。


 ただ心臓? 心臓なんていう明らかにやばそうなもの何に使うんだろ……。


【バイコーンの心臓

 レアドロップ品。食用の素材。

 食べることで超突進のスキルを獲得可能。また敏捷能力を強化できる】


「食べるのかこれを……それにスキルもついてくる……」


 正直、スキルと敏捷能力の強化はかなり嬉しい。一気に距離を詰められる能力、離脱能力があれば戦闘ではかなり役に立つ。


 ただそれと生で肉を食うのは話が別。丸呑み出来そうな大きさだけど、抵抗がある。……でもここは我慢して!


「ええい! ままよ!」


 ごくりと勢いで心臓を飲み込む。つるんとした喉越し。すぐに身体へ変化が起こる。


【魔物の肉を無加工で食べたため進化体による適合をはじめます。悪食のスキルを獲得しました】


【バイコーンの心臓を食べたため、超突進のスキルを獲得しました。敏捷能力の向上を確認しました】


 まさか魔物の心臓を丸呑みしただけでこんなにもスキルが手に入るとは……。


 食べた今のところ、体に異変は起きていない。取り敢えず得たスキルを確認していこう。


【悪食

 腐食した食材、無加工の魔物の肉、毒性の食材など、本来人間が食すと危険な食材を問題なく食べられるようになるスキル。またそれら食材を食べた際の効果を増大させることができる。

 *このスキルは一部効果がダンジョン外でも発動します】


【超突進

 直進方向へ超高速移動を可能とするスキル。直線軌道にしか動けなくなる】


 超突進は直線軌道にしか動けなくなる分、超高速移動できるのか。試しに使ってみようかな……。


「よし……いくよっ!」


 魔物がいない神域水がある方向に向かって超突進を発動させる。


 すると身体は音速を優に超えて、僕が落ちてきた神域水の湖のところまで一瞬で移動した。僕は慌ててブレーキをかけて停止する。


「いだ……っ!? やっ……ばぁ〜〜。これは使うのに慣れが必要そうだ」


 今のままだとあまりの速さに感覚が慣れてなくて、使いにくさを感じてしまう。


 けど、これは大きな武器だ。音速越えの速度。これを任意で出せるのはかなり大きい。


「何度か練習してみよう。ここは丁度練習しやすいし」


 僕は自分の感覚が慣れるまでこの道を超突進で往復するのであった。


 

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