第21話
「それじゃあ」
「ああ」
次戦というわけではないが、何故か突然気絶したジークを他所に授業は淡々と進んでいく。
そして剣の後は魔法とばかりにパメラが俺と戦うことを提案してきた。
結果
「ま、参った」
「あはは」
俺は負けた。
普通に負けた。
だって俺、弱いもん。
「うーん、納得出来ないなー」
「なにが?」
「言っておくけど、ジークってあんなんだけど強いんだよ」
「知ってるさ。俺の見立てによれば学年でもトップクラスにな」
ジークから溢れ出る闘気、それから荒削りとはいえしっかりと研鑽が積まれた技。
生まれ持った才能と努力が綺麗に身を結んでいる。
「そんなジークに勝った相手にこうもあっさり勝っちゃうとね」
「さっきは運が良かっただけだ。ジークも本気の半分も力を出してなかった」
「知ってる。それでもって言いたい」
どうやらパメラはジークの強さをかなり評価しているようだ。
その目利きは間違っていない、どうやらパメラは弟子というより師匠タイプのようだ。
先程の魔法も洗練されていた。
丁寧さは人に教える上で大事な要素の一つだからな。
「あれ、おかしいな。俺は弟子に丁寧に物事を教えたことがないような」
「とにかく!!もう一回、次は本気出してね」
「いやさっきも本気なんだけど」
その後もパメラに何度もボコられた。
許してくれと挙げた手すら魔法で撃ち落とされた時の絶望たるや語るべくもないだろう。
「ハァ……ハァ……」
「……シテ……コロシテ……」
「うん。ごめん」
こうしてやっと諦めたパメラ、それと同時に授業は終わりを告げた。
「あいてて」
「本当にごめん。でもね」
「分かってるから大丈夫。ジークの強さは心の底から分かってるつもりだよ」
「ありがとうね」
パメラは申し訳なさと恥ずかしさが入り混じった表情で笑う。
「あのアホはさ、強くなりたいんだ。多分もう忘れてるはずなのに、毎日毎日馬鹿みたいに鍛えて」
「……案外、覚えてるかもしれないぞ」
「本当に小さな時だよ?でも、実際にそうならちょっとだけ嬉しいかな」
その時のパメラを、俺は何故だか無性に美しいと思った。
「なぁパメラ。やっぱりジークのことが」
「お、いたいた。おーいテンセ、アホ女ぁ!!」
ピシリと、空間にヒビが入ったような気がした。
「いやぁ負けたぜテンセ。でもな、次こそは絶対に……パメ?どうしウ゛ッ」
見事な一撃だった。
「運んでくる」
「はい。行ってらっしゃいませお嬢様」
ジークを肩に担いで歩いて行くパメラが見えなくなるまで俺は頭を下げ続けた。
さて
「それで隠れているつもりか?」
俺は背後を振り返る。
そこには誰もいなかった。
「……」
言い訳をさせて欲しい。
何かを感じたのは確かなのだ。
それが何かは分からず、師匠っぽいムーブをしたら外れていただけのこと。
というか
「俺じゃなくてパメラ、もしくはジークが狙い?」
今は何も感じない。
どうやら目的は俺ではないようだが、2人に何かあれば大事だな。
「一度相談してみるか」
そして俺は早速とばかりに図書館へと向かった。
◇◆◇◆
「相手は恐らく剣聖派、もしくは賢者派閥ね」
カリナは相変わらず俺にはさっぱり分からないような本を閉じ、俺の問いに答える。
「スカウトが目的ってことか?」
「恐らくね。昨日言った通り、私達が何もせずとも派閥は勝手に動き出す。特にあなたが言う通りあの2人が優秀なのであれば尚更ね」
「相手は貴族ということか」
僕様口調のエリックのような人物が2人を狙っているか。
「あの2人には便利屋をして欲しいんだがな」
「便利屋?」
「昔やっていた部活動らしい。ここじゃ新しい部活を始めるには貴族の手が必要だからな」
「私が手伝いましょうか?」
「師匠相手に気は使わんでいい。カリナなら俺が否定することくらい知ってるだろ」
「冷徹女と思われるよりはマシよ」
「見栄を張るくらい良いでしょ」と不貞腐れるカリナだが、既に俺の中の彼女は好感度MAXの為余計なことと言えるだろう。
だがしかし、やはり俺たちのような平民ではどう頑張ったところで無理な話なわけだ。
「はぁ、どこか手頃なところに聞き分けのいい貴族様でもいたらな」
「あ、い、一応私貴族……です」
「……マジ?」
昼食。
前日と同じようにレヴィと一緒にいると、彼女は恐る恐るといった様子で衝撃の事実を言葉にした。
「貴族様……だったのか」
「そんな!!師匠さんに様なんて呼ばれる程の存在ではなく」
「だからこれからもレヴィと呼んで下さい」と必死に懇願してきたので、俺は今まで通り接する。
というか俺は師匠なので、弟子が貴族だろうと勇者だろうと賢者だろうと剣聖だろうと聖女だろう気にしないのだ。
「便利屋、私がお作りさせて頂きます」
「ありがとう。俺は、本当に素晴らしい弟子に出会えたようだ」
「これでほんの少し師匠さんに恩返しが出来ますね」
レヴィは今までと違い、しっかりと綺麗な笑顔を浮かべた。
「善は急げ!!私、早速パパのところに行ってきます」
そう言ってレヴィは目にも止まらぬ速さで走り出した。
そう、文字通り俺の目にも見えない速度で。
「まぁ、そんなこともあるだろ」
ケイトも出会った時から俺の目じゃ追えなかったし、俺如きが観測出来ない相手なんていくらでもいるだろ。
そう結論付けた俺はエリーから貰ったお弁当を美味しく頂いたのだった。
それから暫くし、無事便利屋は部活動として正式に決定された。
「ありがとうテンセ!!」
「良かった、これでもう地獄の勧誘地獄とはおさらば」
なんか便利屋が出来たことより、逃げ道が出来たことに喜んでいたようだが気にしないことにした。
「ここまでされちゃ、部長はテンセに譲るしかないな」
「え?俺?」
「もしかしてだけど、入部しないとか言わないよね」
ジークは嬉しそうに、パメラはジト目で俺を見つめる。
「勿論だ、これから同じ仲間としてよろしくな!!」
俺は改めて2人と握手を交わした。
「だが部長はもう決まってるんだ」
「あ、そっか。部長は作った人がしなきゃだから」
「便利屋を作ってくれた人か。テンセの知り合いならきっと良い人だろ。早速合わせてくれないか」
どんな人だろうとワクワクする2人だが、俺は首を傾げる。
「何言ってるんだ。レヴィならさっきから俺の後ろに……消えた」
便利屋の部長はどうやら幽霊部員となりそうだ。
師匠面して遊んでいたら、教え子達が勇者・賢者・剣聖・聖女になったんだが @NEET0Tk
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