第14話

「ごめん」

「反省してるわ」


 エリーの尽力により二人の喧嘩は幕を閉じた。


 さすがに度が過ぎたと思ったのか、珍しくしおらしい二人を見ることが出来た。


「お二人はいつも仲良しで羨ましいです」

「「それはないから」」


 のは一瞬だった。


 残念である。


 それにしても、我ながらよく綺麗に解決したものである。


 誰が言ったか、化け物には化け物をぶつける理論。


 あれを採用し、弟子には弟子をぶつける作戦を思いついた過去の俺を褒めてやりたいものだ。


 まぁ……それはそれとして


「片付け、大変そうだな」


 周りには散乱した本の山。


「ご、ごめん」


 それを見たケイトは再度、申し訳なさそうな顔をする。


「別にいいわよこれくらい」


 しおらしいケイトが気に食わなかったのか、カリナは珍しくフォローする形で本を手に取っていく。


「私も手伝いますね」

「ミートゥー」

「あ、僕も」


 それから数十分かけ、部屋の本を片付けていく。


 そもそも魔法で出来た空間なのに、何故実物の本があるのだろうか。


 これ程複雑な魔法となると俺には理解することすら出来ない。


 ただ一つ分かっていることは、この魔法がカリナの家と関係があるらしいということだけだ。


 みんなのことは色々知っているつもりだが、それでもやっぱりまだまだ専ら俺にも知らないところは多い。


 家のことだとか、戦争で何かが起きたことだとか、スリーサイズだとか。


 秘密のない間柄なんて確かにこの世にはないが、どこか寂しいものがある。


 だからもっと仲を深め、いつか何でも話せるような関係になりたいものだ(建前)。


 特に最後の部分とか(本音)。


 そんことを考えていると


「みんな早!!」

「いやレナが遅い」

「今何時だと思ってるの?」


 既に外が暗くなる中で、俺の妹様が重役出勤をお披露目する。


 だがその顔に疲弊が見えていることから、なんとなく何があったか想像が付く。


「学園、慣れたか?」

「む、無理。あれは魔境だよお兄ちゃん……」


 魔物を前にしても一歩も臆さないレナをここまで追い詰めるとは。


 やはり学園は怖い、QED証明完了だ。


「さて、役者が揃ったところで早速始めましょうか」

「何を?」

「ケイト、あなた……」


 カリナがやっぱり話聞いてなかったなという顔をした後、仕方ないともう一度説明をする。


「今朝も話したと思うけれど、今この学園は未曾有の事態に直面しているの」

「人間が多いことだよね。減らさないと」

「レナ、それは勇者が世界で一番言っちゃいけない言葉よ」


 普段は凛としているカリナも、このメンバーの前では苦労人の顔を覗かせる。


 だけど以前に、『まるで母親みたいだな』というと何故か嬉しがっていたことから案外嫌ではないことは察しが付く。


 エリーの言う通り、口では否定しても体は正直なん


「すみませんでした」


 今日俺は何回死にかけるのだろうか。


「……話を続けるわ。そう、私達がいること自体が大きな問題。今学園は四つの派閥に別れている」


 そしてその割合だが、カリナが独自に調べたところ


「聖女派が43%、賢者が26%、勇者21%、剣聖が10%よ」

「あれ?僕人気ない?」

「前剣聖の影響ね」

「クソ親父のせいか」

「私の場合は教会の皆さんのお陰ですね」

「私は平民の人からの支持かな?分かんないけど」

「俺は0%か。まだまだ精進しないとな」

「雑音はさて置き、この結果が何を意味するかあなた達には分かる?」


 カリナの質問の答え、そんなものこの天才集団にかかれば一発で分かる。


「あ、あれだよねお兄ちゃん!!」

「そ、そうだあれだ!!むしろあれ以外ないって感じだよな!!」

「話聞いてなかった。もう一回言ってくれる?聞ける自信はないけど」

「私達は仲良しですけど、少数派と多数派の格差が生まれてしまうこと、でしょうか?」

「さすがエリザベスね」


 いや、分かってたよ?


 ただ敢えて弟子を試したのだ。


 簡単に答えは教えてない、それが俺のプロフェッショナルなのだ。


 だからカリナさん、そんな冷たい目線を向けるのやめてくれる?


 それ師匠に対する目じゃないよ?


「……エリザベスの言う通り、私達の影響で今のところ表立った何かが起きたわけじゃない。ただ、目に見えないいざこざが起きていることは間違いないの」

「だから何?発端は確かに僕達だけど、好き勝手にしてるのはそいつらでしょ?僕らが介入する義理なんてなくない?」


 ケイトの言葉は最もだ。


 人の威を借り好き放題する奴らを気にかけるなんて面倒で仕方ないだろう。


 だが、そうもいかないのだ。


「最近魔物の活動が活発的だ。いくらお前達四人がいても限界はある。ここで身内で争いが起きれば、それこそお前の一番嫌いな面倒事になる。それくらいの責任は果たさないとな?」

「……分かったよ師匠」


 目配せでカリナに感謝を伝えられ、俺がドヤ顔を返すと尊敬に染まった目が一瞬で無くなってしまった。


「話は分かったけど、じゃあどうするの?均等に勢力を揃えるなんてバカなこと言わないよね」

「そうね、確かにそれは不可能に近いわ。だから別の手段を取るの」

「全生徒俺の弟子計画……だな?」

「ええそうよ」


 え!!


 そうなの!!


 てか待て待て


「俺も参加するの!!」

「当たり前でしょう。何のためにテンセを呼んだと思ってるの」

「や、野次馬として……」

「そんなわけないでしょ」


 嘘だろ、だってあの時は


『学園の初日は全員私のところに集合ね』

『何するの?』

『話し合いよ』

『ほ〜ん、オッケー(なるほど歓迎祝いだな)』


 って話だったのに。


 カリナめ、俺はそんな子を弟子にした覚えはないぞ!!


 というか


「俺は絶対に矢面に立つつもりはないからな。お前達との関係がバレたら間違いなく殺される自信がある」

「お兄ちゃんジョークが上手いね。師匠が負けるはずないのに」


 レナ、いつも言ってるが俺は弱いのだ。


 そろそろ覚えておくれ。


「勘違いしないでほしいわ。別にあなたに何かしてもらおうなんて思っていないんだからね」

「朝から思ってたがそのキャラ付けなんなの?」

「……」


 あ、ちょっと恥ずかしそう。


「あ、あの二人も言っていたでしょう。世界を手にする者とかいう話」

「あーなんか言ってたな。変な噂もあるもんだな」

「そう。その噂を利用するのよ」


 噂を利用する?


「ねぇエリお姉ちゃん、段々と話についていけないんだけど、どうしたらいい?」

「昔、お師匠様が言っていました。わけの分からない時はノリでどうにかしろと」

「へぇ」


 ……俺、いいこと言うじゃん。


 ノリで答えればいいってわけね。


 じゃあ


「偽りの王……否!!偽りの師匠を作るということか!!」

「そういうことよ、さすが師匠ね」


 どういうこと?


「ふむふむ、分からん」

「頭いいからって僕達もついていけると思わないで欲しい」

「偽りの王。つまるところそれぞれの内部に新たな派閥を生み出す、ということですね」

「ふむふむ、分かった」

「僕は分かんない。みんな頭いいんだね」


 ちなみに俺もよく分かってないが、カリナが言いたいことを例えるなら多分こんな感じだ。


『わーい、私の勇者様強いんだぞー』

『えー、僕の剣聖様の方が強いんだい』

『こらこら、喧嘩はおよしなさい。そんなことをしていたら二人が尊敬するお師匠様に怒られちゃいますよ』

『うわぁ、この人勇者派だと思ってたのにー。もう易々と勇者派として動けないぞー』

『僕もこれからは大人しくするかー』


 という感じである。


「何?今の芝居」

「勇者派役のレナ。剣聖派役のケイト。師匠派役のエリー。脚本の俺。ツッコミ派のカリナでお送りした物語だ。感想は?」

「駄作」


 でも分かりやすくない?


 ……やっぱ違うかも。


「まとめるとしましょう。私達が揃ったことで派閥争いに火が付くのは見るより明らか。そこで新たな派閥、名称は」

「師匠派」

「……師匠派を作ることにするわ。師匠派の理念は師匠の教えである魔物を殲滅すること。その為に人々は一致団結するべきであり、今は身内で争うべきではない。

「そしてその代表として私達が参戦する。これで多少は抑制効果が出るかもしれませんね」


 まるで新たな宗教でも作ってるような気分だが、神様がいるなら師匠を信仰する人々がいてもいいかと納得する。


「結局僕はいつも通りでいいんでしょ?」

「はい」

「カリナお姉ちゃん。私の場合は」

「そうね。勇者の場合はむしろ」


 一旦話の区切りがつき、それぞれが個別に話をし出したところで


「ここで俺から一つ、話しておきたいことがある」

「どうしたのお兄ちゃん?真面目な顔で」


 俺は信じられない程カッコつけた顔で皆に呼びかける。


 そもそも俺、今日はみんなでお菓子パーティーでもする気概で来たのに、急に真面目な話をされて驚いているんだ。


 いや大事な話なのは分かるけど、それはそれとして俺は純粋に学園を楽しみたいのだ。


 だから悪いが、今の俺にとって重要なことは派閥だとかそんなものではない。


 俺にとっての本題は


「新たな弟子を取りたいです」


 いつだってこれに帰着するのだ。

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