第13話

「つ……つまりテンセは」


 パメラは息を飲む。


 渇いた喉が今すぐ水分を欲する中でも、彼女の頭の中は別のことでいっぱいだった。


 だがそれも仕方ないのだろう。


 何故なら目の前にいる、今日出会ったばかりの友人がまさか


「あの世界を手にする男だったなんて……」

「違うが?ただの師匠だが?あとカリナ勝手にナレーションをつけるな」


 俺は二人に話した。


 俺が師匠であること。


 四人が俺の弟子であること。


 そして俺が師匠であることを(念押し)。


 結果、何故か俺は世界を手にする男になっていた。


「でも実際そうだろ。たった一人で世界の4分の1の権力を持ってるような方々だ。そんな四人の師匠なら、実質世界を牛耳ってると言っても過言じゃないだろ?」

「過言だよ。何真顔でとんでも理論展開してんだ。お前は俺の妹か」

「勇者様と一緒なんて恐れ多いだろ!!ふざけるな!!」

「弟子じゃなくても怖かった」


 悲報、世界を牛耳る俺、友達に気圧される。


 次はこれでいくか。


 俺が絵物語のタイトルを考えていると、不思議そうな顔をしたパメラが尋ねてくる。


「そもそもテンセってそんなに凄いの?確かに凄いってことは分かるけど、各分野の頂点に位置する方々の師匠程とは到底思えなくて」

「あーそれか。笑える話、実は」

「そうよ」


 急に話に割って入るカリナ。


「テンセは凄いの」


 いや何故にあなたも「当たり前でしょ?」みたいな顔で変なこと言い出すの?


 あなたも俺の妹なの?


 というかカリナのせいで二人が賢者様程の人が言うなら〜みたいになってんじゃん。


 ここはちゃんと否定しないと、今後の俺の師匠生活に問題が起きるな。


「アッハッハ!!これぞ所謂賢者ジョークってやつだな。おもしれー!!」

「面白くないわ」

「テンセ!!カリナ様が面白くないって言ってるんだよ!!黙って!!」

「もう俺友達が怖いよ……」


 一応俺、みんなの師匠だよ?


 なんで弟子より立場弱いんだよ〜。


 師匠面してるだけだからか(冷静な判断)。


「確かにパッと見じゃ、この人の強さは分かりにくいかもね。本人でさえ気付いていないのだから」

「俺が気付いてない?」


 え?


 何?


 俺って隠された力でもあんの?


 左手が急に疼き出したりするのか?


 久しぶりに自分に鑑定でも……いや、やめとこ。


 ちょっと泣きそうになるから。


「それを踏まえれば、貴方達もきっと今より強くなれるわ」

「き、貴重なご意見ありがとうございます!!」

「光栄です」


 椅子から立ち上がり、背筋を伸ばしてお礼を言うジーク。


 椅子から降り、またしても膝をついてお礼を言うパメラ。


 今後の人付き合いは慎重にしようと誓った瞬間だった。


「色々言ったと思うが、結局俺が二人に伝えたいことは最初と変わらん」

「秘密にして、でしょ?」

「聖女様の件が4倍に膨れ上がったようなもんだろ?なら、バレたら一貫の終わりってところは変わんねーな」


 これだけおかしな事態に巻き込んでも、笑顔で協力すると言ってくれる二人。


 やっぱり二人を信用してよかったと心から思えた。


 それと同時に、部屋の時計は既に真下を指していた。


「話も区切りがついたし」

「私達、もう行くね」

「ああ。悪いな、付き合わせて」

「むしろありがとうだ。俺達をそこまで信じてくれて」


 最後に二人はカリナに10回くらい頭を下げ、魔法で出来た空間を後にした。


 大きく手を振った後、俺は倒れるように椅子にもたれかかる。


「……ふぅ」


 あー


「緊張した!!」

「よかったじゃない。一日目から友達ができて」

「まーな」


 地面を蹴り上げ、椅子を二本足で立たせる。


 前後に揺れれば、そこから木が軋む音が鳴る。


「色々聞きたいこともあるが、今はそういうの全部取っ払おう」

「急に何?告白でもするの?もちろん答えは」

「冗談はやめろカリナ。それと勝手に俺を振るな」

「——気なのにぃ」


 ん?


 今なんて言ったんだ?(難聴系師匠)


 カリナがどこか恥ずかしがってる様子から、おそらく何かカッコつけたが見事に失敗した顔をしてる。


 だが何がしたかったのか皆目検討もつかないな。


「うーむ」


 何だかマジで落ち込んでいる気がする。


 意図せずして地雷でも踏んでしまったか。


 ……仕方ない。


「なぁカリナ」

「……何よ」

「今度なんか奢るからさ。機嫌、直してくれないか?」

「……二人で?」

「?ああ。お姫様の望むままに」


 さっと視線を避けたカリナは小さな声で


「絶対よ」

「ああ」


 こうしてカリナはいつもと同じ雰囲気に戻る。


「へっ、ちょろいぜ」


 昔からカリナの機嫌が悪い時はご飯奢ればいつも許してくれるんだよな。


 見た目は細いが、案外食いしん坊なんだろうか?


 あれ?


 不思議と殺気を感じるのは気のせいか?


「……この鈍感」

「師匠である俺が鈍感……だと……」


 バカな。


 弟子の成長は手に取るように分かるで有名なこの俺が鈍感だと?


 訂正させねば。


 例え師匠に相応しくなくとも、師匠であるのなら俺にもプライドがある!!


 探せ!!


 俺は何を見逃している。


 髪を切ったとか?


 いや、一週間前から3ミリしか変わってない。


 服装?


 いやそもそも制服の時点で違いもくそもない。


 メイク……はしなくても可愛いし、何か装飾品を付けているわけでもない。


 会話も不自然なところは一切無かったはず……いや待て、あるじゃないか!!


 そうか、そうだったのか。


「悪い、カリナ。やっとお前の気持ち、気付いたぜ」

「え……」

「カリナ、お前」


 太ったんだろ?


「……もう一回言ってくれる?」

「おいおい、難聴系って今時流行んねーぞ。仕方ない、もう一回言おう。カリナお前太」


 俺の真横を鋭い水の刃が通り過ぎ、頬から血が流れる。


「もう一回、言ってくれる?」

「カリナってすっごい可愛いよな。まるで天使みたいだ。俺、お前と出会えて心からよかったと思うよ」

「全く、最初からそう言いなさいよ」


 殺気が消えた。


 どうやら俺はまだ生きることを許されたらしい。


「一つ言っておくけど太ってないから。だから、ご飯にはちゃんと行くこと。いいわね」

「はい〜」


 俺は手でゴマを擦りながらペコペコと謝る。


 これぞ師匠流奥義の一つ、ゴマすりである。


 他にも最終奥義土下座や、演技力で力を増す泣き落としなどがある。


 ちなみにこれらの奥義を全て継承した人物は、俺の父ただ一人である。


「茶番はそろそろ終わり、と言いたいところだけどうるさい人が来たから続行みたいね」


 カリナの言葉に誰がきたのかを察する。


 入り口を見ると、案の定大きく欠伸をしながらボトボトと歩いてくる人物。


 これは面倒なことになりそうだと思いつつ、俺が手招きをすると、軽く目を開いたケイトが俺の隣へ座った。


 わざわざカリナをどかしてまで。


「ちょっと!!」

「あれ?いたんだ。陰気臭すぎて気づかなかった。ごめんね」

「……」

「あぁ、また始まった」


 俺は素直に遠くに離れる。


「……そう。なら仕方がないわね」

「そうそう。だから僕は何も悪く」


 ケイトは全身に水を被る。


「あらごめんなさい。めんどくさがりの人の為にお風呂を用意してあげたのだけど、お気に召さなかったかしら?」

「……」

「怖いよ〜」


 二人の後ろに巨大な虎と竜の姿が浮かび上がって見えた。


 本当は止めなきゃだけど、俺は見守る系師匠なので放置する。


 決して怖いとかじゃないんだ。


 本当だよ?


「そっかそっか。ありがとう。なら僕も」


 笑顔で立ち上がったケイトが剣を抜く。


「お礼にその贅肉、切ってあげるよ」

「羨ましいの?」

「デブって言ったの伝わらなかった?頭、悪いんだ」


 あ、漏らしそう。


「害虫駆除してあげるわこの男女ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「虫虫うるさいんだよこのクソアマァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「……」


 うん、俺は何も見なかった。


 そんなわけで大人しく席に座った俺は、置いてあるお茶を手に取る。


 何か口寂しいなと思うと、いつの間にか机の上にいくつかのお茶菓子。


「ぷはぁ、沁みるわぁ」

「お気に召したようで何よりです」


 いやぁ最高。


 隣で怒声と罵倒、剣と魔法が飛び交っているが最高の気分だ。


 ……さて


「あれ、止めてくれる?」

「分かりました、お師匠様」


 そして世界は光に包まれた。

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